ダンジョン経営は最強の勇者にお任せ!
リドルは今、一番攻略が困難と言われているダンジョンの最深部で、魔王と戦っていた。
リドルは大切な人を守るため、最初は冒険者として魔物や魔族と戦い始めたが、いつの間にか国中、いや世界中の人々に、勇者と呼ばれるようになっていた。それからは、自らを勇者と呼んでくれる世界中の人々を守るため、戦い続けた。そして今では、最強の勇者になっていた。
魔王との戦いも、もう終盤だった。
「これで終わりだ」
魔王の首を切り落とす。魔王は勿論、死んだ。これで、一番攻略が不可能なダンジョンの攻略は完了だ。
ほっと一安心した、その時。
「……な、なんで殺しちまったんですか!」
「!」
半ば反射的に振り返ると、そこには小さな魔人が。
「倒しそこないがいたのか」
「いやいや、待ってくださいよ勇者様! 別に危害を与えたい訳じゃないんですから!」
その魔人は慌てたようにそう言った。訝しむようにリドルは問う。
「……なら、何がしたい?」
「どうしてこのダンジョンがあるのか、勇者様には知っておいていただきたいのです」
「ほう」
魔人は名をミトといい、魔王の腹心の部下だと言った。そして、魔王がこのダンジョンを一番攻略しにくいものにしたのには、ちゃんと理由があるのだと言った。
「あっしら魔族——魔人や魔物には、安らげる場所がない。どこにいても人間に殺されそうになる。だからわざと攻略しにくいダンジョンを作って、そこを争わなくてもいい憩いの場としようとしたんです。魔物達にもくつろげる場を、と」
どこにいても人間に殺されそうになる、というのは語弊があるだろう——。
そう言おうとして、リドルはやめた。
(いつから俺たちは「魔族が人間に害をなすもの」と決めつけた? たしかに俺たちは、害をなさない魔族すらも殺してきた……どこにいても人間に殺されそうになる、というのは間違っていない。俺がさっき倒した魔王は、魔族が無差別に殺されることに心を痛め、ここを作ったに違いない。争わなくても——命を散らさなくても、いいようにと。それを、俺は壊したのだ——)
「——ミト、一緒に攻略不可能なダンジョンを作らないか」
「えっ⁉︎」
リドルの言葉に、ミトは目を丸くした。
「俺の名はリドル。俺のことは知っているだろう」
「……知っています。最強の勇者様が作るダンジョンですか……それこそ攻略不可能なものになりますね。やりましょう、リドル様!」
こうして、最強の勇者によるダンジョン経営が始まった。