7
誰も居ない…。
ハリソン…。
ハリソンは!?
操縦室へ行こうとした俺の腕を、コナーが、さっと掴んだ。
「ミスター・ピート。ここからは冷静に聞いていただきたいのですが…」
コナーは慎重に言葉を選んでいるようだった。
「結論から言うと、この船の乗員は、あなたしか居ません。あなた1人なのです」
「バカを言うな!」
俺は怒鳴った。
俺に寄り添っているメイと目が合う。
彼女は、にっこりと俺に微笑みかけた。
「ピート、落ち着いて」
メイが俺の頬に優しく触れながら言った。
「これは、それほど珍しい事例ではありません。あまりの孤独感に妄想が始まり、やがてあたかもそこに現実に存在するかのように感じ始める。あなたの場合、漂流がかなりの長期間に及んでいるので、他の乗組員を造りだし、生活していたとしてもおかしくはない。そう、孤独に殺されないために、生きるために必要だったのです。誰があなたを責めたり、笑ったりできるでしょうか?我々、皆に起こり得ることです」
コナーの声は途中から、やたらと反響して聞こえにくくなった。
そうか…。
今まで…わざと深く考えずにいた…。
何日も、同じことの繰り返し…刺激も何もない。
メディカルカプセルに入り、計器をチェックして、寝るだけ。
何も楽しみが無い。
気が狂いそうになった。
そのときにメイを造った。
俺の理想の容姿を持ち、性格も優しいメイ。
彼女との愛の日々が始まった。
それまでよりも、ずっと楽しくなった。
だが、時間が経つと、2人では退屈になってきた。
俺はハリソンを造った。
冗談ばかり言う、前向きなじいさんだ。
これも上手くいった。
そして3人目。
ヘンリーの登場だ。
これは面白かった。
メイとハリソンと違って、こいつは俺の神経を逆撫でばかりする。
奴のことを考え、いらだち、悩み憎む。
あまりにハマりすぎて最後にはどうだ、俺は奴を殺してしまうほどだった。
傑作だな。
コナーが何かを喋り続けているが、もう俺の耳には入ってこない。
メイが俺に身体を密着させてきた。
彼女の胸が、腰が、太ももが、はっきりと俺には感じられた。
美しいブロンドをかきあげて、俺に微笑みかける。
メイが俺の頬にキスをした。
「さようなら、ピート」
メイが、ささやいた。
その姿が、ゆっくりと消えていく。
さようなら、旅の仲間たち。
俺を守ってくれた仲間たち。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
大感謝でござりまする。
面白くなったと思います。←手前味噌(笑)