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ヘンリーの死体の件で、俺は気が抜けていた。
殺人が露見するという最悪の事態が回避されたからだ。
今のところは、だが…。
「ピート」
メイが再び、俺に寄り添ってきた。
俺は彼女の腰を抱いて、キレイなブロンドの頭を撫でた。
いつもメイは俺に癒しを与えてくれる。
コナーが俺の顔をまじまじと見つめてきた。
「あー。ミスター…」とコナー。
「ピートでいい」
「ミスター・ピート。先ほど『なぜドッキングの前に通信を入れないのか?』と仰られていましたが…」
コナーの口調は優しかった。
「実は入れなかったのでは無く、入れられなかったのです」
「?」
「この船はかなり前の…そう、100年ほど前の型なので通信装置が合わず…それでやむを得ず強制的にドッキングしました」
「100年前…?」
「ええ。最近になって分かったのですが、ワープ空間に一定時間以上、留まり続けると、物質の時間経過が非常に遅くなる現象が起こるのです。人間は老化が遅くなりますし、機械なども劣化が遅くなります。おそらく、この宇宙船は100年前にワープ空間に閉じ込められ、現在に至ると思われます」
何…だって…?
こいつは何を言ってるんだ?
今が100年後?
「これはあくまで物質が長持ちするというだけの現象なので、時間そのものが早くなっているわけでは、ありません。ですのであなたは、この宇宙船の中で実際に100年近い時間を過ごされたことになります」
コナーの目には、俺に対する同情が見えた。
「バカな連中が『不老不死だ』などと騒ぎたてて、ワープ空間にわざと留まる事件も発生しています」
「あんたは…」
俺は、やっと声を出せた。
「俺たちの時代の100年後の人間なのか?」
コナーが、ため息をついた。
「『俺たち』ですか…。ええ、そうです。我々は、あなたの居た世界の100年後の人間です」
コナーの言葉に俺が呆然としていると、キャラハンが操縦室から帰ってきた。
「チェックしました。分かってましたが、誰も居ません」