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これらのテクノロジーは素晴らしくありがたかったが、長く退屈な漂流生活をまぎらわせる力は全く無かった。
と、いうわけで、どれだけヘンリーに腹が立ち、距離を取りたいと思っても、朝起きて皆の共用スペースに入るだけで、もれなく奴と顔を合わせるハメになるのだ。
共用スペースに出るな?
なるほど、それは賢い選択だ。
魅力的なメイにも逢えなくなるという欠点を除いては。
この問題を解決する方法は、ひとつしかない。
俺は覚悟を決めた。
ベッドから起き上がって、自分の部屋を出る。
宇宙船は自動操縦になっているから、皆は各々の部屋で眠っているだろう。
この船の乗員は4人。
俺とメイ、ヘンリー、そしてハリソンだ。
ハリソンは船長で、とぼけたジイさんだ。
こんなひどい状況にもかかわらず、「なんとかなる。頑張っていれば必ず助けが来る」と、いつも言っている。
ワープ空間の中で他の宇宙船に接触し、救出した話など聞いたことがない。
100年くらい経てば可能かもしれないが…。
そういえば俺たちは、もうどれぐらいの時間ここに居るのだろうか…あまりにも同じことの繰り返しなので、時間の感覚がおかしくなっている。
思い出そうとしても、頭にモヤがかかったようになって、思い出せない。
いやいや、今はそんなことよりヘンリーだ。
決着をつけてやる。
俺はそっと通路を移動して、ヘンリーの部屋の前に立った。
扉のロックを解除する。
あらかじめ、ヘンリーの部屋の扉を俺が開けられるように、システムに細工しておいた。
音をたてずに、しなやかな動きで、部屋に侵入した。
ベッドの上のヘンリーが、だらしない寝顔でイビキをかいている。
このクソゴリラ野郎。
2度とメイに触れられないようにしてやる。
俺はベッドに近づいて…ヘンリーの太い首を両手で思いきり絞めた。
ヘンリーが、カッと目を見開いた。
両手で俺の腕を掴む。
無駄だ。
こうなったら、もう腕力は関係ない。
消えろ。
消えろ。
消えちまえ。