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眠れなかった。
このところ、毎日だ。
原因は分かっている。
ヘンリーだ。
最近の奴の態度は目に余る。
挨拶はしない、わざと肩をぶつけてくる、話しかけてきたと思えば俺の背が低いことをからかってくる。
ヘンリーは体格が良く、背も高かった。
だが、それだけだ。
奴には良いところが、それしかない。
知性のかけらも無く、下品、性格も悪い。
他にもあげればキリがないが、何より1番に腹が立つのは、メイに対する接しかただ。
馴れ馴れしく身体に触れる。
ときには、あの完璧な曲線を描く腰に、手を回すときさえあった。
メイもそれを完全に受け入れているわけではないだろうが、激しく拒否する素振りでもない。
ヘンリーがメイと談笑して彼女の身体に触れると、奴は決まって俺のほうをチラリと見る。
そしてニヤニヤと笑うのだ。
奴は俺のメイへの気持ちに気づいている。
ああ、それは間違いない。
そもそも奴とは馬が合わないと思っていたが、メイの問題で、俺の忍耐は限界に達していた。
一度、冷静になって、奴から距離を置いてみてはどうか?
なるほど、良いアイディアだ。
しかし、それは不可能なのだ。
俺たちの乗った宇宙船は、ワープ空間に閉じ込められている。
母星を出発して最初のワープを始めた直後に、装置が故障した。
そこから長い長い時間、俺たちはずっと出口の無いメリーゴーランドに乗って、グルグルと回り続けている。
宇宙船の食料はすぐに尽きた。
しかし、生命を維持する最低限の栄養素と水分等を半永久的に補給できるメディカルカプセルのおかげで、全員が死なずに済んでいた。
1日1時間、カプセルに入るだけで良い。
食事の楽しみは消えたが…。
宇宙船の動力は超小型の核エンジンが、これもまた半永久的にエネルギーを生み出し続ける。
永遠のリサイクルだ。
今回のワープ装置のような、大きな故障でない限り、船内に散布されたナノマシンが自動で船のメンテナンスをしてくれる。