第6話 オーディション発表
オーディション合格発表の日、俺は昼休みに音楽室へ向かう。
そわそわして待っていると、先生が3つ楽譜を持って俺たちの目の前に立った。
「じゃあ、楽譜を渡す人に、卒業式でピアノを弾いてもらうわ」
誰も何も話さない。
頼む。俺の名前を呼んでくれ……!
「1人目。……松木、お願いするわね。校歌、弾いてね」
「は、はい。ありがとうございます。精一杯頑張ります」
おっと、残念。
「うん、じゃあ2人目。……沖田、believeっていう曲をお願いね」
「わかりました。やらせてもらいます」
お、沖田さん!よかったね。まあ、当然か。
最後のひと枠。
俺が呼ばれなかったら……それでもいい。
ちょっとでも沖田さんと話せたから。
でも、お願いします!神さま仏様、どうかわたくしめに幸運を……!
「3人目。……一条、ぜひ、旅立ちの日にを弾いてくれへんか」
「……え?ぼ、僕ですか?」
「何ゆうてんの、あんたがダントツで上手いのはみんな納得やで。ほら、楽譜、受け取ってや」
「あ、は、はい!ありがとうございます」
「一条くん、一緒に頑張ろうね」
「お、沖田さん……それにま、松木?さんもよろしくお願いします」
「一条くん、ほんま、お硬いんやから」
「うち、松木ですー。名前くらいちゃんと覚えてくれる?」
「あ、はは、ごめん。松木さん、だよね。もう覚えたから」
「で、選ばれへんかった3人もピアノ、これからも頑張ってや。松木に沖田に一条はちょっと残って。じゃあ解散……と、お3人さん、昼休みも長ないから手短にいくで」
「はい」
「3人は毎日昼休みに音楽室で練習すること」
「はい」
「まず松木、このまま弾き込むこと。以上、よろしい」
「あ、はい。失礼します」
「そやな、沖田に一条も何もいうことないな。冗談抜きに私より校歌、弾くん上手いで」
「いや、そんなことないですよ。僕なんかまだまだ下手で」
「庇わんでいいで。先生、もっと悲しなるで……2人とも課題曲、頼むで!」
「はい。では失礼します」
よっしゃあああ!
俺は沖田さんと念願叶って、急接近だぜ!
毎日昼休みに近くにいられる!……でも、一緒にただ単に練習するだけなんだよな。
現に、沖田さんとは教室に戻っていても一言も話さない。
まあ、沖田さんの取り巻きがいっぱいいるからな。
俺はちらっと彼女の顔を見るが、すぐにそっぽを向かれた気がした。
ちょっとショック……。
教室の扉を開け、まっすぐ席へと向かい、次の授業の準備を始めた。
「お、一条や、どうやった、オーディション?」
「通ったさ」
「おっしゃああ!やったな。これでお目当てのお……」
「中村、お前を社会的に抹殺しようか?」
「(モゴモゴ)……せえへんから、言わへんて」
「許す。発言は慎めよ」
「でも、よかったな。憧れるわ、こういうの!」
「まあな。音楽室で毎日昼休み、一緒に練習だってよ」
「めっちゃいいシチュエーションやんか。で、2人なん?」
「いや、隣の組の松木さんって子がもう1人」
「めっちゃ言いにくいけど、お邪魔虫やな!その松木さん」
「ば、バカ!おっきな声で言うなって」
「すまんな。これが俺の取り柄や!」
国語の先生が入ってきて授業が始まるチャイムも鳴り、前を向いて授業を受けた。