第4話 こんなお誘いってある?
オーディション後、俺はそそくさと教室から出ようとした際に沖田さんは声を掛けてきた。
「一条くん、一緒に帰らへん?」
はいいいい?一緒に帰らない、だと!
「……え。俺?あ、い、いいけど」
俺と一緒に帰るなんて言うから、周りの人、おどろいているじゃん!
何話せばいいの?
女子なんかと一緒に登下校したの、小学校の登校班以来だぞ?
横に沖田さんが並んで歩くなんて、信じられないし、そんなの超、烏滸がましくて。
下駄箱で靴を履くのに時間がかかった俺を、沖田さんは待ってくれていた。
ちょっと苛立っているようで。
「その、なんか用事があるならさ、俺なんかほっといて先帰ってくれよ?」
「私から誘ったのにそれはないやん。一条くんのピアノの演奏、とっても感動してん。ピアノ、そんなできるって知らへんかったわ」
「大したことないよ。ちょっと人より長く弾いてきただけだと思うよ。俺なんかより、沖田さんの方がもっと上手だよ」
「えらい謙遜するやん。私の演奏終わった後に拍手してくれたん、うれしかったで!」
「あはは。そう言ってくれたらよかったよ。なんか拍手して気まずくなったからさ」
「そうなん?で、話変わるんやけど、ちょっと、駅前のカフェなんやけど、行かへん?今日、時間大丈夫?」
「もちろん、あの店の新作出たのって今日だよね!行こう」
「そ……そやな。もしかしてカフェとか好きなん?」
「最近は勉強が忙しくて、ネットで情報収集するくらいだよ」
「カフェとかで勉強できるやん。そんなんはせえへんの?」
「うん、家で勉強するね。人がいると、こうなんとなく捗らない気がして」
そうこうしているうちに、カフェにつき、各自注文を済まして座席を確保した。
俺は新作を頼んだ。
あの……あなた様、注目集めてらっしゃるの、ご理解されてますか?
4つ椅子があるのに俺の横に座らないで……!
ち、近い。恋人でもなんでもないですよ、皆さん。
俺の、片、片想いですから!
やっぱり沖田さんが人の目を引くから、俺に対する視線がもう、痛いこと。
「人の興味って思いもよらへんな。一条くん、なんか幸せそうな顔やね……」
「あ、ごめん。せっかく誘ってくれたのに飲んでばっかしで。沖田さんは結構カフェくるの?」
「あー、ここ来るのは珍しいんやけど、ちょっと行った先のあのデカイ交差点のところにある喫茶店には結構勉強しに行くで」
「そうなんだ」
今度行ってみようかな?
「高校、一条くんはどこ行くん?もう決めたん?」
これは言いにくいな……引っ越してしまうなんて言えないし、もう担任との話も進んでいる時期だし。
ここは適当に男子校の名前を言っておけばいいかな?
「志望校、ってだけだけど、どこかの私立、かな?はは、まだ決めきれてなくて」
「公立は考えてへんの?」
「まったく。なんか自分に合ってなさそうでさ、行くなら私立?」
「そうなんや……」
そう言って彼女は一瞬目を逸らし、カフェラテを飲む。
「沖田さんは?」
「私は南かなー?北はやっぱり手が届かなそうで」
「そうなんだ」
「一条くん、めっちゃ賢そうやから、もっと上の高校とか余裕ちゃう?」
「同じこと、中村にも言われてさ。困っちゃうよ」
「ふーん」
「……」
「……」
あ、これ会話止まったやつだわ。
そろそろ帰ろっと。
好きな女の子なんかと2人でいると精神がやられる。
実は、沖田さんと一緒に歩いている時から、もうずっと同じ高校の奴に見られていないか心配で心配で仕方がなかった。
というか、同じオーディション受けてた3人にバレてる……か。
「そろそろ、家帰んないと夕飯に間に合わないから帰るね。あ、自分の分払っておくから、今日はありがとう。オーディション、合格してるといいね」
「あ、一条くん……」
俺はカフェを出て家へと帰った。
最後、なんか聞こえたけど、気のせいだろ。