第38話 一条知明の知らなかったこと
「とりあえず、そこのスタパアに入る?」
俺は陽奈と中村をとりあえず、駅構内のカフェに連れ込んだ。
「中村は陽奈と知り合いなのか?」
中村は俺の質問をスルーする……!
「ちょっと聞くんやけど、一条、お前はヒナと付き合ってるんか?」
「いや……付き合ってい……るよ?」
痛って……足蹴るなよ。
「ヒナ、なんでや……お前また裏切ったんか……?」
は?
「ちょっと待て。中村は陽奈と……どういう関係なんだ?」
「婚姻届をあと役所に持って行くだけなんやけど……?」
お前の笑顔、怖いぞ?
……っておい!
おかしな言葉を耳にしたぞ。婚姻届⁉︎
「どうしたんや、一条。なんも不思議なことあらへんて。あとは俺が18になるのを待つだけやねん」
俺は思考がストップした。
首を回して陽奈の方を見ると……
陽奈はいきなり立ち上がって、中村の頰を思いっきり平手打ちして店を出て行った。
「あかん、痛いやつや……」
「おいっ、中村、大丈夫か?」
びっくりした店員さんが駆けつけてくれた。
「すいません、氷、もらえませんか?」
2人の間に何があったのかはわからないけど、中村を家に連れて帰った。
陽奈はまだ家にいない。
「中村、落ち着け。お前になにがあった?」
「ヒナは俺の嫁やねん……一条、お前はヒナと付き合おとるんか?」
「あの時は言えなかったけど、俺は誓って陽奈とは付き合っていない。ただーー」
「ただ……なんや」
「一緒に住んでるだけだ」
「あほ、真面目に喋ってくれや」
「親が勝手に陽奈と暮らすようにしたんだ」
「なんや……でな、あいつ、俺の幼馴染やねん」
中村は照れて、頰が緩んでいる。
「そうだったのか……で、どこで幼馴染になったんだ?」
「大阪でや。ヒナ、昔ちっちゃい頃、俺の家の横に住んどってん」
「そっから仙台に引っ越した、ってことか。でも中村はなんで東京にいたんだ?」
「ただ1人で旅行したなってん。情けないことにな、春休みくらいからヒナの連絡が途絶えてな……」
「そっか……」
その時、俺は有希……沖田さんの顔が浮かんだ。
俺の心を読むかのように中村に言われた。
「お前……たしか、沖田さんと付き合うてたんとちゃう?」
「……いや、別れたんだ」
「……は?お前……ホンマのバカか?」
「バカじゃない。中村と一緒さ。連絡が続かなくなってしまい、沖田さんと別れたんだ」
「……」
「というか、沖田さんと付き合っていたのを中村は知ってたんだな」
「一条、これから話しても、ええんか、悪いんか俺にはまったく見当もつかへんねんけど
お前、沖田さんとは幼馴染で、ずっと沖田さん、お前のこと好きで、ずっとずっとお前のこと待ってて、ほんでお前が一瞬大阪に来て、やっと近くに来てくれた思たら、東京行ってもうたけど、大阪おる最後の日にやっと付き合えて、遠距離でもいいんやとゆうことで
おーい、お前……ボクサーに殴られたような顔しとるけど……まさか、このこと、俺ら周りは知ってたけど……
お前、知らんかったんか……?」
沖田「もう、やっと彼、気づいたんやわ!」
あき池「でも、別れちゃったよ……君たち」
沖田「なんも行動おこされへんやん……でもな、それとこれは別やろ……懲りへんな、きみ」
あき池「ごめんなさいごめんなさい……!」