第33話 俺は身動きが取れない
ブクマ、ありがとうございます。
その日の晩、俺は有希子といたマンションから荷物を引き揚げた。
俺はポストに入った、有希子が送ってくれたハガキを見て……
もう、涙腺は崩壊した。
『ーーまた会いたいです。会えない日が続くけど、知明くんも同じ気持ちだと思います。1人暮らしは大変だと思うけど、頑張ってね』
でも、陽奈に、泣いていたの……流石に気づかれないよな?
必死に泣き顔、隠したんだけど。
「陽奈、ただいま」
「……おかえりー」
なんか少しだけ機嫌が悪そうなんだが……?
泣いていたのがバレるかもしれないという俺の心配も杞憂で、陽奈はリビングにいるみたい。
「今日はもう遅いし、風呂に入って寝るよ」
「……」
「留守中は大丈夫だったか?」
「……別に」
「そうか」
陽奈の様子が少しおかしいのが気になるが、有希子と別れた直後だったこともあり、特に気にもならなかった。
自分の部屋に入り、ベッドに横になりながらラインを開く。
『4日間、とても楽しかったよ』
『ハガキ見ました。うれしかったです』
『知明くんのハガキは家に帰ってすぐ見ます』
俺は明日から学校ということもあり、寝た。
次の日の朝、学校に行くと、疲労感満載の男が俺に近づいてきた。
「お前……タカ、か?」
「トモ……お前、人遣い悪いな……」
「悪かった。すまん!」
プリントされた北陸の写真を渡された俺は、10万円請求された。
聞けば、道中、それはそれは大変だったようで。
「何も言えない。申し訳ない、即金だ……!」
「でも、中間テストだぞ。あと2週間ちょっとだな」
「タカは、やっぱ、コツコツ勉強するのか?」
「俺は一夜漬けタイプだな」
あーあ、なんの変哲も無い毎日が始まんのか。
そう思っていた俺だった。
でもーー
俺の幸せな日々は、遠距離交際が始まって一ヶ月半で終わりを告げた。
俺はいつものように家に帰ると、陽奈にリビングの食卓に座るように言われた。
「急にどうしたんだ?」
「……」
無言で陽奈は俺に1枚の写真をスマホで見せてきた。
そこにはーー
連休3日目に、出口ゲートで落とし物を受け取る俺と有希子の姿があった。
「……これ、ともくんだよね?」
「……人違いじゃないのか?」
俺は声が上ずってしまった。
そこに畳み掛けるように、ある録音データを陽奈は再生した。
そこから聞こえてきた内容は、俺を完全に追い詰めるものだった。
『……で、結局のところ、小川くんはともくんと一緒に旅行なんかに行ってなかったと』
『……はい』
タカ……裏切ったな……!
俺はどうすることもできなかった。
「ねえ、ともくん、どういうこと?私に嘘、ついたの?」
「……これには深い訳がありまして……」
「問答無用ね。で、その彼女さん?には私と一緒に住んでること、言えてないんでしょ?」
「……」
「……答えなかったら、どうなるか分かってる……?」
「はい……伝えていません」
「本当のことを大阪にいる彼女さんに言って欲しくないでしょ?」
「はい……」
「なら、私の言う事はなんでも聞くこと」
俺が言葉を発しようとした瞬間、陽奈は俺を遮るかのごとく口を開いた。
「まずーー私と付き合いなさい」
俺は目の前が真っ暗になった。
有希子……ごめん。
沖田「ちょ、何なのこの子!頭かち割ったろか?」
あき池「……落ち着け!前にも言ったが、作中の君は何も知らないんだ……!」
沖田「……」
あき池「気持ちはよく分かる、俺だって同じ思いだ……!」