第22話 陽奈の想いには応えられない
「……俺、寝てたのか。今何時だ?」
時計の針は10を指していた。
携帯を見ると、沖田さんからのラインが来ていた。
『夜に声聞きたいので連絡してもいいですか』
さっきのこともあり、俺は沖田さんの声が聴きたくなって、とっさに電話をかけた。
「一条くん!……グスッ……声聞けてホンマうれしい」
「今日は悪かったな。連絡できないこと、伝えてなかったな」
「なんか、あほやな。ちょっと繋がらへんからってすぐうるっときてな」
「ごめん」
「……せやけど、ちょっと様子変やな。今日、何があったん?」
俺は、今日一日のことが頭の中で目まぐるしく駆け回る。
本当のことを言うか、言わないでおくか。
ーーこの時言っておけば……
ーーこっからおかしかってんな……
「親が体調悪くて、付きっ切りだったんだ」
「あっ、そうなんや。ごめん、悪いな。大変なんや、電話切るわ。じゃあね、明日また連絡してな」
電話はすぐ切られた。
なんか素っ気ないな……。
でも、沖田さんの声を聞けてうれしかった。
「よし、風呂入るか」
扉を開けて部屋を出ようとしたら、陽奈が目の前に立っていた。
「……今の電話が彼女さん?」
「ああ、沖田さんだ」
「付き合ってどれくらい?」
今は4月1週目だから……
「ええっと数週間前からだ」
「最近だね。大阪にいる子?」
「うん。俺、初めてだからわかんないけど、遠距離恋愛になるのかな?」
「ともくん。ともくんの初めてのキスって私なの?その……お、彼女さんとはキスとかはしたの?」
さっきのがキスなのかどうかはわからないけど……
陽奈の笑顔が怖いな……。
「そうだな」
「じゃあ、私たち、付き合おう!」
「はあ?俺には彼女がいるんだ。無理だ」
「なんでダメなの……うっうっ……ともくんはやっぱり私のこと嫌いで……ううっ」
泣くな……!
なんで女の子が俺の周りで泣いてしまうんだ。
陽奈よ、俺、二股になってしまうだろ?
沖田さんが俺のことを好きだって言ってくれた。
俺も沖田さんのことが好きだ。
「とりあえず、泣き止んでくれ」
「付き合ってくれるの?」
「そう言うことじゃない」
「……私はともくんが好きなの……」
俺のことが好きなのはとてもうれしいんだけど……
陽奈は本当に美人。
俺にはもったいない。
沖田さんもだが、なんで俺に好意を抱いているのか……。
想像もつかない。
ナンパ、事故、助けたこともない。
陽奈には、俺の精一杯の答えを返した。
「まあ、一緒に住むんだし。これからも仲良くしていこう……な?」
「……もういい。ともくんのばか!」
腹がすごく痛い……!
俺は明日が入学式であることをギリギリ思い出し、お風呂に入って寝た。
こんなことがあったからなのか。
母さんが家に帰ってこないことは疑問に思わなかった。
それにーー
いつのまにか陽奈の部屋が用意されていたことも。
この同居生活が問題なく進められていることに……!
あき池「おい、明日は学校だぞ。起きろ!」
沖田「……」
あき池「しっかり聞け。河村さんとは付き合わないそうだぞ」
沖田「……ホンマや……!神様ありがとう!」
あき池「……」