第15話 でも俺はなにもできない
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春の日差しは優しく、梅の花は最後の見頃を見せていた。
俺、一条知明は、一世一代の舞台に上がった。
今、俺は沖田さんと向き合っている。
立ち止まってからすぐに俺は切り出した。
「俺は沖田さんのことが好きだ。俺はもう東京に行ってしまうけど、どうしても最後に言いたかった……でも、返事はいらない!だから……」
「私も一条くんのことが好き」
え?
「……そうなの?」
「そう。私もそんな素振り見せへんかったけど、一条くんのこと、好き」
時間がゆっくり進む。
沖田さんはなんで俺のことを好きなんだ?
徐々に体が熱くなってくる。
何も言えず、黙っていると、沖田さんはなんと、俺に抱きついてきた。
「けど、付き合うってゆうても、もう会えへんやんか……」
もう俺の胸元に顔を沈められて、色々ぶっ飛びそうで……。
いや、その、柔らかいものとか、ヤバイ。
「でも、向こうに行ってもさ、まだ、その、ほら、たまにはさ、会えたらいいよな」
「……」
「はは、そ、そうだよな、無理なこといってるよな」
「無理なんか言わんといて!……会えへんようなるの……ほんまに寂しいんやから……」
「あ、会えるよな」
「またそう……言って……」
「え、今なんて言った?」
「なんもない!……なんで……なんでもっと、はよ言うてくれへんかったん?」
「そ、それは俺が片おも……」
「絶対付き合えたはずやのに……ずっと近くにいたやん……」
「沖田さんの気持ちは本当に嬉しい。でも、東京に行かなくちゃいけないんだ。それも今日」
沖田さんはいきなり俺を突き放した。
「はあ?何ゆうてんの?私の好意弄ぶん?告白したのにそれっきりなん?別に遠距離でもええやん。まだ中学生やからとか、知り合ってまだ短いからとか、そんなん別に関係あらへんやん!いっぺん付き合ってみよかって思わへんの?」
「お、おう……なんか……ごめん」
「そうよ。私、絶対他の人なんか好きにならへんから……もうこんなこと二度と言わせんといてよ……一条くんのバカ!」
沖田さんは走って行ってしまった。
俺は体育館横の倉庫の裏で1人取り残された。
どうすればいいんだ?
喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。
別のところに引っ越したらそれっきり。もう前の住んでいたところの同級生との繋がりは失われるもの。
社会人になるまで、そんなものって、だから引きずるなと母さんに言われた。
俺は、本気で好きだった女の子と、中学三年生で大阪から東京に行く、その最後の大阪での日、卒業式の帰りに、両想い、って初めて知った。
(希少な部類に大阪では入る)大きな声を出さない人で、そんな彼女はお淑やか(大阪基準)という言葉がぴったり。
ーーけど、沖田さんが俺のどこを好きになったのか、全く分からずじまい。
そんなそぶりあったか?
ないよ……な。
てか互いに連絡先は知らないし……あ、連絡網で家の電話と住所はわかるか。
いいや、彼女に直接電話を掛けたり家に押しかける勇気は、無論ない。
はあー。好きなのに何もできないって、どう気持ちの整理をつければいいのか分からない。
俺は複雑な面持ちで家に帰った。
あの時、せめて事前に連絡先を紙に書いて渡せばよかった。
そんなことしたらちょっと気持ち悪いかもしれない。しないでよかったかな。
「ただいま」
「早く帰ってきてって言ったでしょ。最終の新幹線には乗って今日中には東京に行くから。ほら、早く荷物をダンボールに入れて!1時間もしたら引越し屋さん来るから」
「はーい」
全然気乗りしないまま自分の部屋を片付け始めた。
何個かあるダンボールの残りに、荷物を入れる。
ガムテープを貼って、俺は自分の部屋の準備を終えた。
引っ越し屋さんが来てすべての荷物をトラックに載せた。
業者さんに荷物を引き取ってもらった家は広く感じる。この家で最後となる夕食は、昨日で最後だった。
母は家の施錠をチェックして、2人で新大阪駅へ向かう。
これから向かう東京での生活への不安は勿論あるけどそんなこと気にしてられない。
一条「えー!俺、サヨナラじゃん」
筆者「でも、よかったな。沖田さん、お前が好きだって」
一条「いや、俺以外好きにならないって沖田さん、大丈夫なの?おいっ!」
筆者「肩を揺らさないでくれ。ただでさえ、肩凝って痛いんだ。日間ランキングに載ったんだから、変なことにはならない……ハズダヨ?」
一条「……しっかりしろよ」