第14話 成功する未来が見えない俺/なにもできへん私
卒業式当日。
この制服を着るのも最後だなとかいうベタなことを考えていた。
ピアノの伴奏、絶対失敗できないな。
今日は母さんも来ているらしい。仕事を半日休んでくれたみたいだ。
式は、特に問題なく進行していき、いよいよ沖田さんの出番。
「沖田。頑張りや!気合い入れて」
「沖田さん、落ち着いてな!」
「ありがとう。行ってくるわ」
そういうと沖田さんはくるりと振り向き、俺と目があった。
「あ、心配ないから。だいじょうぶだよ、沖田さんなら」
「ありがとう、一条くん」
踵を返して壇上に向かった沖田さんの姿を見た俺は安心した。
順調に演奏は進み、俺、松木さんも役目を果たし終えた。
「以上をもちまして、卒業式を終わります。一同、礼。ーー卒業生、退場」
卒業式を終え、クラスメイトで集合写真を体育館で撮った後、自然に解散した。
俺はふと周りを見渡す。
ずっと、沖田さんが好きだった。
沖田さんは誰とも付き合っていなかったらしい。
この数日間、いや、好きになってからずっと悩んできた。
ここで、踏み切らなければ、漢が廃る。
でもやっぱり怖い。その……なんというか、傷つくのが……。
どっちにしろ、東京でこの想いを引きずったまま生きていくのも、つらい。
母さんは先に帰っている。
ずっと端の方でいると、流石に人も少なくなる。
沖田さんは周りに大勢の友達がいたが、それももういない。
俺は沖田さんの方へ歩いていき、思い切ってみた。
もう後戻りはできない。
なにもしないで、後悔するのは嫌だ。
「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
私は本当に嬉しかった。
一条くんは昔のように、優しくて正義感溢れる男の子だった。
それにしても、リハとはいえ、楽譜を忘れるなんて。
そういえば……
「ゆきちゃん、がくふないね」
「あ!忘れたよう。どうしよう……」
「ぼくの、かしてあげる。はい」
「でも、ともくんのがないよ」
「いいの。ぼく、だいじょうぶだから」
彼は上手く誤魔化して弾いていた。
今回も、あんな風に真正面から男子に突っ込んでって……。
めっちゃカッコいいやん!
ほんで、完璧に弾ききるって。ありえへん。
でも……
また、あの1年生の時のように彼は私の前から立ち去る。
なんでやろ……?
私は彼になにも伝えてへんから、私のこと、どう思てるか全然想像できへん。
でも、彼は、なんか他人行儀で……言葉やろか?
標準語を話されると、こう、リズム取りにくいんやけど。
とにかく!
前みたいな失敗は絶対せえへん。
でも私は卒業式の後、どうすることもできへんで……。
彼、まったく学校けえへんし、何も連絡先知らへんし。
こっからまた彼はどっかに行ってしまうん……?
そしたらーー
彼は私に近づいてきた。
うそ。
こんなことあるん?
「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
もちろん告白やんな!
沖田「なあ、私、彼に全部バラしたあかんの?」
筆者「ぜえったいダメ。奥手で可憐さをアピールしないと。彼は、恋愛では主導権を握りたいタイプなんだ」
沖田「せやけど、ロクなイベントあらへんやん。いてかましたろか!」
筆者「(ブルブルブル)……は、はい」
いてかます・・・一発、打撃を与えること。