第12話 不穏な予感
昨日は公立高校の入試だったらしい。
俺は特にすることもないし、家で引っ越しの用意をしていた。
荷物をダンボールに入れていると、なぜか沖田さんが卒業式で弾くことになっているbelieveの楽譜が出てきた。
なんでだろう?
楽譜自体はとてもきれいなままで、誰かのものーー沖田さんのとかーーその線はない。
じゃあ、これはなに……?
あ、予備が余ってるから、俺が勝手にもらっといたやつか。
引っ越しの用意とかちょっと飽きたし、believe、ちょっとばかし弾いてみるか。
それから俺は2時間くらいでなんとか弾きこなせるようになった。
長い時間、ピアノを弾いていると案の定、母さんに怒鳴られた。
「何してんのよ!引っ越しの用意、終わったの?」
「ちょっと気分転換!別にまだ時間あるし」
「もう卒業式の日には業者の方が来るのよ!」
「わかってるよ」
結局あと2時間弾いていた。
最後に旅立ちの日にを一回、練習しておいた。
翌日、卒業式のリハーサルが行われるとのことで、教室はただならぬ雰囲気に包まれていた。
昨日には公立高校の入試が終わっているはずだと思うのだが、まあ明後日が卒業式だからな。
にしてもスケジュール、超絶忙しいな。明日は3年生を送る会?かなんかがある。
みんな地元だから、高校で友人と離れるのもまた思うところがあるんだろうな。
けど結局近くに住んでるんだからまた会えばいいじゃん?
そうこうしているうちに、朝礼が始まった。
「今日は、もうあと10分で体育館に向かってもらう。ただな、その前にひとつ言っておくことがあるから聞いてくれな。みんな、中学卒業したらまあ、関係なくなるかもしれへんが、一条は東京に行くそうだ。まあ、知ってた奴もいるかもしれへんが。以上。時間は守れよ」
俺はずっと朝から緊張していた。
この話を担任がするからだ。
周りのみんなも、えっ、という顔をしている。
まあそうなるよなー。いきなりですかって。
でも、そんなに仲良くしてないしな。
まあ、中村には不義理かな。
「なあ、一条。お前まじか?」
「ああ、東京の私立に行くさ」
「……まあ、事情があるやろな……寂しいやんけ」
「ありがとうな。じゃあ俺体育館に行くな」
だいぶクラスのみんなに騒つかれているが、気にせず体育館へと向かった。
体育館に入るや否や、松木さんが話しかけてきた。
「なあ、一条くん、ほんまに東京いくん?」
「ああ。もうすぐだな」
「……そうなんや」
「ま、リハーサルもこれからだしさ」
左脇の裏通路を通って、控え室に入る。
ここで式の進行を待ち、合唱のタイミングで裾から出て行く。
まあ、なんというか。狭い空間に俺と松木さんと、沖田さんが座るとなると。
もう、沖田さんには会えないんだと思うとーーこんな気持ち、何回飲み込んできたんだろう?
近くにいられるのも、あと少し。
毎晩、寝る前に沖田さんに告白しようかしまいでおこうかとても悩む。
シュミレーションもしてい……ゴホンゴホン、別に変な妄想はしてないから。
隣に座れたらって思う。こんな短い時間でも。
3個並ぶ椅子のどこに座るべきか。
真ん中?これは狙いすぎ。
けど、両端だと、隣に松木さんがくる可能性もあって……。
でも、普通に端に座るか。
そう決めて控え室に入ると、なんと沖田さんが真ん中の椅子に座っていた。
「早よ座りいや」
「あ……うん」
沖田さんの隣に座ることはできた。
けど。空気は重苦しい。
「この間、話したやんか。どこの高校行くん、って」
あー、あの時、俺、誤魔化したな……。
「まだ中村にも言ってなかったからさ」
「……」
沖田さんは真っ直ぐ前を見据えて、まったく動かない。
ちょっと怖いいんだけど……。
リハとはいえ、緊張はするよな……っておい、沖田さん、楽譜いるはずなのに。
なんで、持っていない?
きれいに両手を並べて膝の上に置いているけど。
まあ、暗譜したんだろ。
「それでは、卒業式の予行練習を開始する」
俺たちの出番は刻々と迫る。
タイトルがベタで……。




