第11話 やっぱり女性は勘がするどい
そわそわした気持ちのまま、俺は4時間目を終え、昼休みになってお弁当を鞄から取り出す。
沖田さんは、以前、すぐどっかに行っちゃったからな……。
いや、今日、自分の席でしっかり弁当を食べているじゃん!
沖田さんの弁当の中身、気になる〜〜!
ちょっとだけ覗いてもいいよね?
そうっと左に視線をそらすと、沖田さんの机の上には、色鮮やかなおかずと白く輝くごはんが並べてあった。
う、うまそう……!
よりによって俺の弁当は……母さんが『もう引越しで色々ないからこれで』って言ってきたけど……
どう考えてもこれ、コンビニの弁当詰め替えただけだよね?
幕の内とかだったら、まだわかるけど、牛丼て……。
いや、それだったら冷凍食品で……まあ、作ってくれてるし、感謝するけど……。
前のように、俺はご飯を急いで食べ、体育館でのピアノの練習に向かう。
沖田さんに、練習行く?って声掛けたほうがいいのかな……。
けど、朝のやり取りから、一言も話せてないし……。
俺は黙って席を立ち、そのまま体育館に向かった。
階段を降り、保健室、そして職員室を通り過ぎて体育館に向かう通路に入ろうとした時、後ろから走ってくる足音が聞こえた。
振り返るとそこには、なんと沖田さんの姿があった。
「お、沖田さん、どうしたの?」
「一条くん、突っ立ってへんで、早よ練習行こ」
「う、うん」
体育館までの通路は長い。
もう一つ、校舎の脇を横切る形になるからだ。
追いついてきた沖田さんは俺の横に並んで歩く。
気まずいな……。
「なあ、なんでずっと学校来てへんかったん?」
「えーっと、私立の高校をうけてたんだよ」
「私、騙せるって思たん?関西の高校やったら別に学校休まんでもええやん」
「……あ、そうだよな」
「ホンマはちゃうんやろ?」
「……まあ、実はそうなんだ。詳しくは言えないけどな」
「そうなんや、よかった……。休んでたんは、うちが嫌いやからとかでは、ないやんな?」
「え?いや、全然違うよ。むしろ……あ、その、ほら、ピアノの練習もあるし学校行けなかったのは寂しくもあったし」
「……せやったら学校きてや……」
蚊の鳴くような声だった。
「……え?」
「何もない!そうなんや。もう体育館やで」
「俺、初めてなんだよ。ここで練習するの」
「壇上のグランドピアノで弾くだけやで」
「なにも準備とかいらない?」
「特にないで」
俺たちが体育館に入ると、すぐに松木さんと音楽の先生が入ってくる。
「お、一条!久しぶりやな〜!ピアノ大丈夫なんか?ちょっと心配やで、先生」
「あー、練習してたのでまあ、いけるかと」
「せやったら、いっちょ弾いてき!」
「はい」
普通に演奏を終わらし、俺の次に沖田さん、松木さんと一通り済ませる。
「一条はブレへんな〜!本番も心配ないな!」
「一条くん、どれだけ練習したん?毎日めっちゃ弾き込んだんちゃうん?けど、受験やったんやろ?」
沖田さん、そうは言っても……
「いや、週に一度、1時間くらいかな。勉強の息抜きに」
「そうなん……自信なくしてまうわ」
「ま、あんたら3人とも、入試直前やし、この仕上がり具合でオーケーやで!練習はまた入試終わった次の日から2日だけやけど、放課後来てな。頼むで!」
その日の練習後、沖田さんは松木さんと一緒に歩いていたから、俺は一人でそそくさと退散した。