第10話 久しぶりの登校とラッキー
「知明!だいぶ学校行ってなかったのに、寝坊するでしょ、起きなさい!」
「……うわ!何時?」
「もう8時よ」
「やばい!」
クソ、あのカラスに、途中から猫かなんかも参戦して、うるさかった。
頭がぼうっとして、目はまったく開かないまま朝ごはんを流し込んで、制服を着る。
「忘れ物ない?」
「ないよ!いってきます!」
学校までの通学路を猛然と駆け抜ける。
ギリギリ教室に滑り込み、俺は、席に座った。
よかった、間に合ったーって、一息ついていたら、思いもかけない人の声が聞こえてきた。
「一条くん?結構学校来てへんかったからしゃあないけど、そこ、私の席な。席替えしてん」
ここ、沖田さんの席だと?
「え?あああ、ごめん」
俺はすばやく荷物を持ち、中村の姿を探す。
きょろきょろしていると沖田さんが俺に声をかけた。
「席、ここな」
沖田さんが指差した席は、何と、沖田さんの右隣の席だった。
「……隣だったんだ。あと少しだけど、よろしく」
「そやね。一条くん、学校来てへんかったもんね」
関西人、さらっと嫌味を言ってくるし。
そういえば、沖田さんとは長らく喋っていなかったことをふと思い出し、すごくきまりの悪くなった俺は前を向いて静かにしていた。
沖田さん、機嫌直したのかな?
なにがあったんだろ?
「なあ、一条くん。こんな受験の時に何してたん?」
東京に行くってまだ言えないし……
「ちょっと家の用事で……」
「なんか怪しいな、入試まであと数日やで」
沖田さんがいう入試は公立高校の試験。
俺はこれを受ける必要はもちろんない。
「いやー、俺、ずっとバタバタで大変だったよ。まあ、私立の試験、もう受けてるんだけどな」
「……そうなんや」
沖田さんは急に会話を止めた。
ん、俺変なこと言ったか?
みんなも前受けで私立くらい受けんじゃない?
この時期は情緒不安定になるのも仕方ないな、うん。
とにかく、沖田さんの顔を見れた。
一応、俺のことを忘れていなかったみたいで。
ずっと、俺は沖田さんが横にいるということに喜んでいた。
ましてや沖田さんと久しぶりに会話できた。
先生の言ってることなんてもうどうでもいい。
俺の横で沖田さんが授業を受けている。
が、沖田さんの横顔をチラ見するが、寂しそうにも、悲しそうにもしていた。
俺は何でそんな表情を沖田さんが浮かべているのか分からなかった。
試験が不安なのかな?
中学であんまり、やり過ぎるのもどうかな……と思います。
リアルでありえるのも、これくらい?
どうでしょうか。