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腐女子と夢女子、乙女ゲームの世界へ






ブリーズ学園



山奥にひっそりと佇むシンデレラ城のような外観のブリーズ学園は各国の王妃、王子が英才教育を受けるため極秘で通う場所であり、国一番の容姿を持つご令嬢や学園のプリンスである5人の貴公子がいる夢のような場所である。

そんなブリーズにある日 二人の転入生がやってきた。



「俺らこれからここに通うことになんの...?」




里邉は不安な表情をして八鏡に問い掛けた。


里邉さとべ 歩哩あゆり 〔腐女子〕

姉が買ってきたいけない本を読み、BLの世界へドハマリした黒のセミロング+赤ぶち眼鏡の17歳。p○xivのBL小説を読んでいると突然目眩に襲われ、気が付くと森の中にいた。幸い、近くにいた同級生の八鏡やかがみと合流する。


「そうみたいだね」

目を輝かせて八鏡が返す。


八鏡やかがみ 奈緒なお 〔夢女子〕

乙女ゲーやアニメ・漫画・ゲーム・声優が大好きで初恋は某バスケ漫画の黄色い人。黒髪ツインテールの17歳。ツイッターで同坦拒否をしている過激派夢女子と○○くん争奪戦をしていると、いきなり猛烈な吐き気に襲われ気が付くと森の中に。幸い、同じクラスの里邉を見つける。









「嘘だろ...俺がヒロインかよ...」



青ざめた顔をした里邉はその場に倒れかかり、八鏡が里邉の背中を支える。腐女子にとって自分が受けになることは地雷だった。


「どうしたの?歩哩ちゃん。イケメンと話ができるんだよ」



これから攻略対象となるイケメン達と私を奪い合って取り合いが始まって学園一の天才を決めるバトルになってバトルの最中に誰もいない廊下で「俺だけ見てろよ...」と告白されて...妄想が止まらない。


「これだから夢女ゆめじょは...俺はイケメン×イケメンのホモォが見たいんだよ!直接俺が出てきたら萌えねーじゃん!俺は壁!壁なんだよ」





ぽかんとしている八鏡を見て里邉は言った。

キスしているのを見守り、受けに萌え、攻めに萌え、二人が幸せに結婚するためのウエディングプランナーとして俺得のシチュを考え楽しむ腐女子にとって自分という存在はどこにも出てこないのである。


ところが夢女子にとって腐女子の考え方は全くと言っていいほど理解できないものだった。

キスをしているのを見守る...?

女の子なら誰でもイケメンにキスされたいと思うようなものじゃないの?それに、攻めの反対は守りじゃないのか、何よりどうして男同士に萌えるのか、理解ができなかった。


「ええ...でもイケメ...」


「二次元じゃん!!二次元キャラと恋愛とかただの痛い奴じゃん!」




八鏡の声色が変わった。




「二次元キャラもアニメの中では命があって苦しみや葛藤があって人と同じように悩んだりするし悲しんだりもするの。

顔だけ好きになってホモホモ言ってる歩哩ちゃんよりかは愛も深いし一番よく分かってるのは私だけ。

アニメの登場回から着ている服、身に付けているもの、身長体重含めたプロフィール、全部言えるから。」


「そのくらい俺も言えるわ。絵にそんなに発情しちゃって、かわいそー」

里邉も煽る。


「原作改変して私の好きなキャラをホモにして鍵アカも付けずに妄想垂れ流す腐女子って本当嫌い。

好きな人が勝手にホモにされて私利私欲のために使われたらって考えてみなよ。どうしてあんな無神経な事ができるのかな?」


「それは...」




里邉が反撃の言葉を考えようとしていると、二人の真横から金髪に赤いヘアピン、赤いネクタイに黒い制服をダラッと着こなした如何にもチャラい王子様という感じの男が飛び出してきた。


「よっこんにちは!...じゃなくて初めましてか!

何の話してたのー?」


「えっと...」


とても言えない...腐女子の里邉はそう思った。

BLについてというか夢女子と取っ組み合いの喧嘩になりそうな時に話し掛けられたんだ。さっきの会話が聞こえないはずがない...

その横で八鏡はすんなりと答えた。




「ケーキの話をしていたの。モンブランとミルクセーキどちらが美味しいかってっ」



言い終わると八鏡はテヘッと舌を出し、照れた真似をした。

おいおい全然可愛くねーぞ

しかし金髪の男は少し動揺している。工業病の高2男子〔童○〕かよ、里邉は頭の中で突っ込んだ。



「ははっ 女の子らしくて可愛いね~ねー

酒々井町しすいまち~この可愛い子二人が転入生?」


八鏡といい感じに話していた金髪の男は後ろから付いてきた青髪の男にタックルする。

通常の女子ならば可愛い子見つけたぞと相手を茶化すシーンで済むはずだったが里邉は違った。


「そうか、つまり金髪ちゃんは受けのメス犬君というやつなんだな!?」


「え?」

横で引いている八鏡をよそに国語の教科書で学習した某エーミールの言葉を使い、里邉は考える。

急に出てきたということはさっきまで××中で、

だから服装が乱れていて女好きの受けに攻めは劣等感があって平然を装いつつも実は嫉妬してて受けの体には噛み痕とかあって浮気防止のためにこの後受けは調教されるけど嫌とは思ってなくてそれか...



「初めまして、酒々井町です。迷惑かけちゃってごめんな」


青髪に少し長めの襟足、切れ長の青い瞳、黒い制服をきちっと着た優等生タイプの男。この人も攻略対象なのか。

しかし二人が気が付いたのはそこだけではなかった。彼の声の人である。腐女子と夢女子は同時に叫んだ





『CV宮野さとるううぅぅ!?』


宮野さとるだ!LIFENOTEの、文豪ストレイキャットズの、京都喰種の宮野さとるだ!


「実は私宮野さんの彼女なんだ、誕生日ケーキご馳走してもらったんだよ」


わけの分からんことを言い出す八鏡を退いて里邉は金髪の男を指差す。何か言ってみて、里邉が半強制的に催促すると男は戸惑いながらも言った。


「え、えっと...何て言えば」





『梶 裕太だあああぁっ!』


何で気付かなかったんだろう追撃の巨人の、いんすたんぶるスターズの、男装高校生の日常の梶裕太だ!


「俺、梶裕太の受け声で萌え死んだよ、マジいい受け声してんなっ」


わけの分からんことを言い出す里邉に引きながら八鏡は二人に自己紹介を始めた。こ、こいつ、慣れてやがる...初めて訪れた土地でよくのうのうと話ができるな。里邉は八鏡に悪い意味で感心した。


「僕、京丹後って言います。皆からは京ちゃんって呼ばれてるんだ。だから奈緒ちゃんと歩哩ちゃんにも京ちゃんって呼んでほしいな」


「宜しくね、京ちゃん」


八鏡が笑顔で京ちゃんと呼ぶと京丹後君は急に顔を真っ赤にして「い、いきなり呼ぶなよ」と照れる。八鏡も照れた。梶裕太の声で照れ声なんて...これは録音してスクショしておくべきだった!

里邉も八鏡もこの時ばかりはこう思った。ツンデレ男子尊い


「僕達は教室に戻るからね...あ、そうだ!里邉ちゃん♪

僕と一緒の教室だから一緒に行こうよ」


「なっ!?はっ!?...え」


京丹後に名前を呼ばれ、里邉は慌てる。

俺と受けが一緒!?受けが恥ずかしがってるのに平然と手を繋ぐ攻めか、拒否権はねえぞと攻めが主導権を握り抵抗する受けしか俺は認めねーぞ

二次元に憧れる痛い夢女子にはなりたくないのか里邉は


「嫌だ。俺は一人で行く」


と言った。




二人でいったら歩哩ちゃんの心の中の夢女が目覚めるのにな、八鏡は考える。腕時計をチラ見した酒々井町が八鏡に声を掛けた。



「俺は八鏡と同じクラスだ。行くか?」


身長差10cmの酒々井町にいきなり手を握られ八鏡は慌てた。


「え、は、恥ずかしいな」


「恋人みたいだから手は繋ぎたくないって?」


酒々井町はからかうように言う。強引な酒々井町にドキドキした。


「違うもん」



「素直じゃない子。嫌いじゃないぜ、そういう奴」


乙女ゲームの定番中の定番な台詞を吐いて酒々井町と八鏡の二人はシンデレラ城のような外観のブリーズ学園へ入っていく。

里邉は京丹後を置いて学園の中へ入った。





2年A組


「私は学園の姫 舞鶴ですわぁ♡

こう見えて資産家ですのぉ♡」


見たらわかるよ、と八鏡。口に出すと刺されかねないので心の中で呟いた。


四人分の机を占領し、どかっと座ったピンク髪ドリルの女 舞鶴の近くには、金髪お団子のギャル系女子や黒髪の平安っぽい服装(たしか十二単?)をした女子、白雪姫のようなきめ細かい肌をした女子達が群がっている。

クラスカーストの上位、逆らってはいけない女子達。

乙女ゲームの中にもクラスカーストは存在するんだ...

なんか、現実の世界にいるような気分。

そのうち玉の輿に乗ってお姫様抱っこされながら学園内を歩くことになるんだろうなあ...

八鏡は妄想した。


私を取り合う学園のプリンス5人、嫉妬し意地悪をする悪女、ライバルの出現、隠しイベント。

どんなイベントが起こるんだろう、楽しみ!


八鏡がいるのは教室の廊下側の最後尾で特に目立ってはいない。

横にいるのは黒髪の地味な感じの女の子で、この後普通に自己紹介をして一先ず初日はこれで終了といった展開になると思う。

八鏡がやってきた乙女ゲームも初日は自己紹介だけだった。


酒々井町(しすいまち)は何処かに行ってしまって今はいない。






とりあえず時間が来るまで教室の棚にある本でも読もうと

席を立ったその時


「ちょっと。貴女、酒々井町君と仲良いわよね」


という声が。

想像はすぐ付いた。夢小説でよく見る展開だ。

ピンク髪ドリルの女が私のすぐ近くまで来て私、酒々井町君のこと狙ってんだけどと言い、酒々井町に近付くな!と言われるお決まりの展開。夢女子ならヒロインの邪魔をする悪女〔たまにオリキャラ〕を見たことがあると思う。


八鏡はピンク髪の女をじっと見つめた。

しかしいつまで経ってもピンク髪の女はこちらに来ない。しびれを切らしてこちらに行ってやろうと思ったけど辞めた。

青い顔をしてこちらを見ていたからだ。




「何...?誰を見て...」


恐る恐る真横を見ると血走った目にカッターナイフを握りしめた女がいることに気付いた。そしてそれは隣にいた地味な感じの女子だった。


「ねエ、オモシロイコトシヨ?」


女は振り乱した自分の髪を掴み、ギイ、ギイ、とカッターで髪を切っていく。そして自らの制服にカッターを突き付けるとキャーと叫び制服を切った。



「何?」


八鏡の思考は混乱した。

何故女は私じゃなく自分の制服を切ったのか。何故髪を切ったのか。斜めに切った髪で目の部分が隠れ、口と鼻だけになった女は不気味に笑う。

何の叫び声、と他のクラスの人が教室を覗いている。喧騒の中、教師の姿や京ちゃんの姿もあった。やがてその理由は大勢の生徒が一同に集まって分かった。


「八鏡さんに、八鏡さんに、切られたの...」













帰り道。八鏡と里邉は喧嘩していた。

喧嘩の内容は、なぜ八鏡が大人しそうな女の子をカッターで襲ったのかだった。



「お前のせいで俺までハブられてんだよ。

何でカッターなんか持ってきてんの?」



「違うの、あれはあの人がカッター持ってて自分の髪と

制服を切ったの。」


「あー、はいはい悲劇のヒロイン乙

あれだろ?作品のヒロイン改悪して悪女に仕立て上げるマナーの悪い夢女子だからその竹箆返しが来たんだろ。夢女子でヒロインアンチなんて...嫉妬としか思えねえ。」


「違う、それは一部の夢女子」


「それをいうなら公の場でBL画像垂れ流したりp○xivの検索避けしてなかったりニ○動でBLじゃないのに腐コメする奴らも一部のマナーの悪い腐女子だからな」


「分かってるよ」

里邉はチラッと八鏡の方を見やる。

今まで夢女子に分かってるよ、なんて言われたことはなかったからだ。腐女子は害悪、私と○○君は付き合ってるの、だからホモにしないでという主張ばかり。俺が見てるBLも夢小説も二次創作で公式とは関係無いのに。

絵に恋して何が楽しいのかと思っていたが、本当に恋をしているなら、好きな人と会えない辛い気持ちも分かるような気がした。



「...そ。ちょっと見直したわ。じゃ、早速考えようか」



「考えようって何を?今日泊まる所?」



「あ...それもだ」



乙女ゲームの世界に無理矢理連れてこられた二人。

カッター女の前に明日どうやって学園に登校するかを考えないと。眼前にあるのは木々だけ、いずれ日が暮れる。


最悪野宿になるかもしれないこの状況で心細くなった八鏡は里邉に問い掛けた。


「出てきたのは森の中だったよね...?」


「森の中だよ。場所は忘れたが」


まあ怪物が出ないだけマシだな...里邉がそう思っていると

後ろの草むらがカサカサと騒ぎ、白い何かが飛び出してきた。


腐女子と夢女子、呉越同舟な二人だったがこの時だけは

お互いの体を抱き締め叫んだ


「うわああああああああっ」


「ギャーーーッ」




「何なんだ?お前ら。」


ふと聞こえたのはモンスターの唸り声...ではなく男性の声

顔を隠し腰を抱き締める八鏡を引き剥がし、里邉が目を開けた。


赤い外ハネの髪に黄色と茶色のオッドアイ、鼻筋の整った20代くらいの男が腰の辺りに鞘を付けて白馬に乗っている。

茶色のマントに猟師のような格好はモンスターでも狩っているかのようだった。


「は、白馬の王子様...」


八鏡が呟き、自身の手を組んで拝んだ。



「この辺りは怪物が出る。さっさと家に帰れ」


「ほ、本当に出るんだ...」

怪物と聞き里邉が放心状態になっていると、男は手綱を引き、馬を動かした。

「ちょっと待って、連れていってくれないの?」


八鏡が甲高い声で言うと白馬に乗った男は眉間に皺を寄せ

言った。


「俺はただの猟師だ。餓鬼二人面倒見る余裕はねえ。

この近くにある魔女の館にでも行ったらどうだ」



「ま、ま、魔女の館!?」

いかにも洋風な名前の学園に和名のプリンス、平安っぽい服装の人とご令嬢が一括りにしてある異様な世界。

世界観バラバラだろ、統一しろよ!

里邉は森の中の誰かに向かって叫んだ。


「きっと夢の中の世界なんだよ!」



ピリピリとした空気の中、八鏡はニコッと笑った。


「夢って...あそこまで世界観変わる作品なんかねーだろ」


「そーかな。夢女子の間では付け足す事が大事なの。

多少変でもあくまで二次創作だし。」



フフンと鼻で笑う八鏡を見て里邉は気付いてしまった。


某バスケ漫画の奇跡の世代に幻のそのまた幻の7人目を足し、

ヒーローアカデミックや暗殺学園に生徒をもう一人足し、キャットマフィア五大幹部に幻の6人目を足す。

腐女子は元からある“設定”をどれだけ美味しく調理できるかが腕の見せどころだった。アニメや漫画には出てこない、オフの世界をどのくらい妄想し補い、腐に持っていくかが重要だった。


しかし夢女子は違う。


オンの世界にどういう風に夢主(自分)を持ってきてどうやってキャラと接点を持たせるか

長年疑問に思っていたことが遂に解決した、楽しみ方どころか目の付け所から違っていたのだ。



「幻の、なんて設定、原作には無いんだけどね。

だから夢女子って異物混入型だって腐女子の皆さんに言われるんだよ。」


確かに、と里邉は思う。

夢女が私は○○君の彼女と公言することについてどうやってキャラと接点を持ったのかすら分からなかった。でもこれで里邉を悩ますものの正体が分かった。夢小説だ。

p○xivではない小説サイトが夢女子の間では文化として広まっていたのだ!!

夢女子のことを少しだけ理解した里邉は無意識にこう呟いてしまっていた。


「恋してるのに異物扱い...か」


キャラのことを理解しているとは言っても理解しているのは関係性だけで、もしかしたらキャラのことを一番よく分かっているのは夢女子なのかも...

そう思った瞬間、八鏡がボソッと呟いた。


「まあ、キャラ改変で原作キャラをホモにする腐女子さんとは分かり合えないけどねっ」


ぬわんだとおオオオォ!?


怒りが沸々と沸き上がってくる。

殺気を感じたのか八鏡は森の奥へと駆けていった。


「やっぱお前異物だわ!!」


心を揺すられた俺が馬鹿だった!

やっぱ夢女子は理解できない存在なんだ。


「お前の彼氏はお前の存在すら知らねーぞ」


八鏡が進んだ方向のほぼ真逆の方向に里邉は進む。

魔女の館っていうのは何処なんだ。絶対八鏡より先に見つけて独り占めしてやる!少し進むと八鏡の声が聞こえてきた。


「勝手にホモにされる私の彼氏可哀相ーっ」


あーそうかい、そうかい。

ホモなんだから仕方ねーだろ

二人は愛し合ってんだよ。

余程強調したかったのか里邉は思いきり叫んだ。


「二人は愛し合ってんだよー」


ばっかみたい。

付き合ってるのは私だけなのに。公式が恵んでくれた抱き枕、どっちも使ってるのに、逆ハー最高なのに。

八鏡は繰り返し頭の中で呟く。

しかし里邉の台詞は消えてくれない。


夢女子が腐女子のせいでどれだけ肩身が狭い思いをしているか。ツイッターは腐女子によってBLの萌えシチュとキャラ×私を応援する腐女子友の裏切りRT〔BLイラスト〕だらけになってしまった。更に厄介なのはプロフィールで、気になるフォロワーさんや八鏡に優しくしてくれるフォロワーさん、毎回八鏡のツイートをふぁぼしてくれる方のプロフィールを見ると地雷BLばかりである。

また公式も最近は腐に媚びることが多く、最悪の場合公式がBLのカップリングを推してくることもある。

また、pixivも地雷が増えた。...というより八鏡の好きなキャラが腐女子の餌食にされていることもあり、キャラ名で検索するとBLイラストが紛れ込んでいることがある。

何故それが嫌なのかというと大体キスをしている。

キスをしている。稀に同人誌も出てくる。


マイナス検索をしてもやはり出てくる。

八鏡はマナーの悪い腐女子は勿論のこと好きなキャラとその相手〔化されている某女好き男キャラ〕も嫌いなのだ。

理由はキスをしたから。

おまけにその相手は夢小説でいうところの取り合いの恋敵で八鏡はそいつが八鏡の好きなキャラとくっつかないか、ちゃんと女をナンパしてくれるかと訳の分からない心配をしたこともあった。


歩哩ちゃんとは分かり合えない、そう思いながら道なき道を進んでいると後ろの方から悲鳴が聞こえた。


その声は、歩哩ちゃん?

振り向いてみても姿は見えない。

はは、良い気味だわ。

腐女子なんて怪物に食べられてしまえば良いのよ


草をかき分け更に進むと黒い建物が見えた。

魔女の館...だ。


「助けてー奈緒ー!」



ああっもう 五月蝿いな

歩哩ちゃんが私の名前を呼んでいる。

悲鳴は悲痛の色を強くし、遂には泣き声まで混ざりだした。

最初は引っ掻いてでも逃げ出すだろうとたかを括っていた八鏡の顔も次第に期待と不安が入り交じる。


「この腐女子っ...声だけは大きいんだから!

発狂してる声が一ッッ番五月蝿いのよ」


ホモォホモォと腐女子仲間と騒ぐ里邉達が一番五月蝿かった。

特に私のいる前で地雷カプの話をされた時は最悪だった。

だけどもう、あの声が聞けなくなってしまうのは何か...


...寂しい。





八鏡が里邉の元へ駆けつけると八拍子抜けした。

里邉は大きな怪物に捕まっているわけでもなく「NL」と書かれた看板を頭に取り付けた白いスライムに腰を抜かしていただけだった。

「な、何? ...冗談のつもり?」

立てなくなっている八鏡に近付いてみる。

里邉は涙を流していた。


「違う、お、俺、NL嫌い...」


腐女子は男×男が好きなのでNLが苦手な人もいるという噂は本当だったのか。八鏡は何でも美味しく食べれる雑食ばかりを見ていたので気付かなかった。厄介なことに腐女子の中にはNLよりもBLがいいという理由でヒロインを叩く人もいるらしい。

目の前のこいつもそうなのか、八鏡は里邉にバレないように後退りした。

「ちょっと!俺そういうヒロインアンチの部類じゃないから!」


心を読まれた、と感じた八鏡はさらに後退りする。

里邉が続けた。


「NLよりBLが好き...女だったら誰でも良いなんて古い考え、イラナイ...」


腕にまで力が入らなくなる里邉とNLはまだ彼氏とくっつく率がBLよりまだありそうだけど地雷だしと考える八鏡。

スライムは鬼のような形相をしている二人を見て震え上がった。


「歩哩、こんなの放っておいて魔女の館に行こう?

私が見つけたんだからね」


足早に移動させようとする夢女子だったが腐女子は止まらない。

里邉は囈言のように何かをぶつぶつと呟いている。

放っておいても後でくっつきそうな二人をわざわざくっ付ける必要あるか?...俺の受けにはヒロインがいるがそれも放っておけばくっ付きそうなのにさ...ああ、そうだ。

攻めが嫉妬して受けを××して×××すれば良い。二人だけっていう萌え空間に女が居たら嫌なんだよ。??しないと出られない部屋に男2人と女1人がいたらどうなると思う。萌えが見られねーじゃねーかよ...どうすんだよ




「歩哩?」


「女なんかいらねえ、男だ。男がいれば良いんだよ」


八鏡はスライムを睨み不気味な笑みを浮かべる里邉の頬をバチン、と叩いた。



「それが気に入らないの。

BLの世界には女なんていないんでしょ!?公式なんか恨んで無いでNL需要増やされる前にBLのシチュを考えたらどうなの」


八鏡の真剣な表情を見て里邉は我に還った。


「ご、ごめんな。そうだよな、公式を恨んじゃダメだよな

俺が好きなBLを増やすべきだよな...」


八鏡のやつ、夢女のくせに何でこんなこと理解できるんだ?

ひょっとして八鏡は俺より腐女子になれる才能があるんじゃないのか。八鏡に手を差し伸べられ手を掴んだ俺は、バランスを崩して八鏡の胸を触ってしまった。


「わっすまん、ご、ごめんなさい」




「...女同士なら平気だけど彼氏なら天国に居た」


「はは、BLなら萌え死んで病院送りになってた」



薄暗い森の中で二人は笑い合った。










翌日 ブリーズ学園にて

八鏡と里邉は京丹後、酒々井町と昨日のことについて話していた。


「えぇ~

じゃあ歩哩ちゃんと奈緒ちゃんは魔女の館で一夜を過ごしたって訳?」


自身の肩を擦り京丹後が声を上げる。京丹後や酒々井町にとって魔女の館とは行ったらもう二度と戻ってくることはないという危険な場所だった。そんな所にか弱い二人の女子が向かったのだ。

どんなに怖い思いをしただろう..僕の家に泊まっていけば良かったのに。

京丹後が何の躊躇もなく言うと八鏡は頬を赤らめ、里邉はブチ切れた。


「あのねぇ...俺達が行ったら酒々井町君が行けないじゃん。京丹後と酒々井町二人がホテ...家に行くべきだぜ!」


「京丹後君からのお誘い...死ぬ...」



「あ、あれ?そ、そういうつもりじゃなかったんだけどなぁ...」



酒々井町は焦る京丹後の肩に手を置き、後ろにやる。そしてそのやり取りを見て妄想する里邉に向かって問い掛けた。


「魔女の館に魔女はいたのか?」


魔女なんて会ったこともねえぞ、昨日のことを思い出し、答えた。




「何も。誰も見てないしな。食事も風呂もあったぜ」


赤い机の上に盛り付けられた肉、野菜、デザート。

トイレと一緒になった風呂場、レンガ造りの階段を上った先にある、ダブルベッド。泊まるのには勿体無さすぎるレベルだったぞ!里邉が言うと酒々井町は血色を変えた。


「もうそんな所には行くなよ。もしものことがあったら誰が責任取るんだ」


京丹後が制止しようと肩を掴むが酒々井町は止まらない。


「死ぬかもしれないんだぞ!」


「す、すみません」




座り込んで赤面している八鏡を立たせ、二人は謝った。


「なぁに女の子に意地悪してんだよ酒々井町!男としてみっとめもないぞ」


(その声は)

腐女子と夢女子の目に光が宿る。

低音ボイスに愛されたイケメン...


「cv鳥山浩輔...鼻血でそう」


「腰に来る声、私の永遠の彼氏様ぁ...」


赤い短髪、赤褐色のつり目、凛とした容姿、180cmくらいの高身長、お菓子...お菓子?

八鏡の視線に気づいたのか赤髪の男はああ、これ?とお菓子の袋を取り出した。フルーツグミだ。


「ポケットには飴持ってるんだよね、僕も食べてるし」


ふむふむ、二人で飴を無くなるまで食べ続ける、か。

でも私的にはポッキーの方が萌える、だって受けが恥ずかしがる所見られるし。

ぶつぶつ話す里邉をよそに赤髪の男はポケットからポッキーを取りだし、先を舐めて八鏡に差し出した。


「俺、向日むこうひびき。やる?負けた方が勝った方の言うことを聞く。どう?」


八鏡は喜んではい!と答えた。

ポッキーゲームを始める前にチョコレートの付いた先を舐めてどう足掻いても唾は触れちゃう環境でお互い顔が近づいていく...

里邉が小声で萌えるBLシチュを考えている最中、向日は楽しそうにポッキーを進めていく。

食べ進めていくうちに受けは恥ずかしがって口離すけど...

恥ずかしくなったのか八鏡は口を離した。すると向日が八鏡の顎をクイッと上げる。

離した後攻めは受けにキ...何してんの!?


里邉が見た先にあったのは顎クイをしている向日と頬が真っ赤になっている八鏡だった。八鏡は言う。


「は、早く続けてよ...キの次は何?」


「キリギリス」


「は?」


「キリギリス」





八鏡の顎を押さえていた向日はぷっと吹き出した。


「はは、面白い。

本当にこの子達がカッター持ち出しの犯人なの?」


拍子抜けする二人、八鏡はとっさに離れた。

昨日のカッター事件をこの三人は知っている、ならどうして里邉と八鏡の所に現れたのだろう。野次馬?確認?怪しむ二人に京丹後は意外な言葉を掛けた。


「僕は違うと思うよ。そんな子じゃないように見える。

...でも」


京丹後は急に暗い顔をした。


「本当だったら許さない。だって僕は奈緒ちゃんがカッターを持っている所を見てしまったから。

何かの間違いだって思ってるけど」


そうだった。八鏡は昨日の出来事を思い出す。どさくさに紛れて京丹後君の姿があったこと、カッター女は髪を自らの手で切ったこと。

カッターを持っていたのはあの女なの。八鏡は四人に訴えた。


「証拠は?」と酒々井町


「そうなの?」と京丹後


「昨日聞いたわ。」と里邉。皆半信半疑だ。



「じゃあ、確かめてみようか」



向日の言葉を聞いて三人は一斉に振り向く。ここは教師に任せておくべきだと酒々井町。彼は何だかんだ言って八鏡の味方をしているみたい。


「確かめるってどうやって?」


と八鏡が聞く。俺だって確かめてえよ、と里邉。

すると向日は待ってましたとばかりに八鏡を指差し、言った。


「指相撲だ」


向日は指をバキューンと出す。酒々井町・京丹後はそれを聞いてすぐに歩を進める。


「ちょっとお二人さん!待ってよ」


「相手する必要ないよ、奈緒ちゃん」と京丹後、やはり教師に任せておくべきだと酒々井町。

向日は二人の後を追い掛ける。



結局役に立たなかったわね、と里邉

八鏡は少し考えてうん、と頷いた。


酒々井町が向日の服を引いている。引き摺られたまま向日は繰り返した。


「いいかい、指相撲だよ~」


ったく、下らないよな、まぁそこが可愛いんだけど。と里邉。

また授業が始まる。

変なことすんなよ、里邉は八鏡に釘を刺して言った。


「分かってるよ」




しかし八鏡と里邉のクラスは既に大変なことになっていた。


「何、これ。」

八鏡の机に書かれていたのはヤ○マンという文字。隣にいたカッター女がニタニタと笑っている。コイツが書いたのかな、暫くして八鏡はハッとした。京丹後君や酒々井町君は皆の憧れの存在。だからといって面白いという理由で好かれている私に、こんなこと...

同じく腐女子、里邉の机にも落書きがあった。

マキグソに馬鹿、帰れの文字。ぶちギレた里邉は鞄を床に叩き付け、八鏡の元へ向かった。


「ちょっと奈緒!何でわ...」


そこにいたのは青いプラスチックの箱を八鏡の頭の上まで持ってきて、ゴミを振り掛けている複数の女子生徒の姿だった。


「何やってんだクソ野郎!」


里邉は女子生徒に殴りかかる。

しかし、振り上げた手は誰かに止められていた。


「やめて、歩哩ちゃん、そんなことしたらますます悪者になっちゃう」


必死に止める八鏡の目からは大量の涙が流れていた。

拳を固め、里邉がしぶしぶ手を下げると誰かが叫んだ。


「ほーら右利きだ!右利きだよ」


里邉と八鏡が振り向くとそこにいたのは八鏡の机に乗りカッター女と指相撲をする向日の姿だった。


「向日!?」


「向日君?向日君がいるよ」


里邉と八鏡含む複数の女子達が向日の元に集まる。

向日人気はすさまじく、廊下を歩いていた女子二人組が次々と集まってくる。向日はもう一度指相撲をしようとカッター女に手を伸ばした。


「あれ、利き手が変わったね。さっきは右利きだったのに」


ニイッと笑う向日、項垂れるカッター女。

何が起きたか二人には分からなかった。


「タネ明かしをしよう。君の利き手は右でカッターは右で持ったよね。そして」


向日はカッター女の前髪に手を伸ばす。近くにいた里邉は周りの女の間を強引に割り込み、カッター女の頭を起こした。


「皆、見て。...てこの角度じゃ見えないか。カッターは君から見て長い方が右、短い方が左に付いてるよね。八鏡さんはどうかな?」


向日は八鏡を椅子に座らせる。八鏡は右利きだ。


「もし八鏡さんがカッターで君の髪の毛を切るとしたら切った跡は短い方が右、長い方が左になるはず。ねえ、どういうことかな?」

ここから見てカッター女の髪は右が長く、左が短くなっている。

向日は続けた。


「確かにカッターはいいよね、利き手が上手いこと合えばどっちがしたか分からないし利き手が分からないんじゃ尚更。

でもこれは誰が見ても分かるんじゃ無いのかな?」




向日は黒板を指差した。八鏡が初日、黒板に名前を書いたものだ。もしかして、と里邉が真相に気づく。


「黒板に字を書いた時点で、利き手は知れているはず。君は見てなかったのかもしれないけどね」


向日はカッター女に笑顔を見せる。

するとカッター女は見てましたと言った。


「利き手が右なのは見てました!

この計画がうまく行かないことも知ってました!だけど舞鶴が...舞鶴ちゃんが...」


舞鶴と呼ばれたピンク髪の女はたじろぐ。数分の沈黙の後、堪えられなくなったのか数人かの女子生徒が八鏡に向かって頭を下げた。


「ごめんなさい、机に落書きして!

舞鶴に命令されて、やりました!本当にごめんなさい」


「私も、カッターのこと、分かってたけど怖くて何もしませんでした!」




徐々に明らかになっていく真相に八鏡はゾッとした。

まず、前々から舞鶴に計画を聞かされていたカッター女は八鏡の利き手を知り愕然とする。しかし彼女は舞鶴に逆らうのが怖かったためカッターキャーを演出。次に悪者扱いされた八鏡を皆で苛める。糞みたいな計画だったんだ


「てことは...舞鶴が全てを知ってたんだね。

この子の罠は少し考えれば分かった、だがそうしなかったのは

舞鶴が主犯だったから____かな?」


「畜生」と里邉。里邉の机に落書きした犯人も舞鶴の仲間だったのかもしれないのだ。しんと鎮まる教室で舞鶴は力なく笑った。



「そーだよ?学園のプリンスと話す八鏡がウザかったからやったの。」


騒然とする空気、固まる教室内。

乙女ゲームって怖えな...里邉は思った。


「何で...何でそんな酷いこと」


八鏡は再び泣き出す。隣にいた里邉が八鏡の背中を擦った。

向日は不敵な笑みを浮かべてふーん?と首をかしげる。


「本当にそれだけ?」


イケメンと話す女に嫉妬して苛めた、悪女に有りがちな要素が全部詰まっている。自分を睨み付ける里邉に向かって舞鶴は言った。


「それだけじゃないわ。アイツが腐女子だからよ!」






は?

「はあああああああああああぁぁぁぁ!?」






「私同担任拒否の夢女子なんだけど○○君ってホモじゃないですよね?ホモじゃないですよ。ホーモじゃなーいー!」





目覚まし時計が鳴っている。

ピピピ、ピピ、ピピ、と目障りな音を立てていた。


五月蝿いなと一言叫んでスマートフォンを見る。

八鏡菜緒とずいぶん愉快な夢を見たな、なんてよく分からないことを考える。

それにしても夢女子と分かり会うなんてどうかしている。

ツイッターを見て新しいホモイラをRTしようとしていると

気が付いた。


目の前には八鏡のツイッター。

八鏡とキャラが一緒に写った痛々しい2ショット



あれ、可笑しいな






俺、八鏡と














入れ替わってるううー!?

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