海の詩
これはずいぶんと前の話ではあるが、僕の微かな記憶をたどれば、よく海に行つては水浴びをしてゐたやうな気がする。今は其れが叶わぬものであるが、好い思ひ出として海を眺むる度になつかしむのだ。あの頃の僕は屹度無邪気に僕に水を掛け合わんとするだらう、と思うと、なんだか可笑しくて心地がよい。
海の詩
ざぶんと 海が音をたてた
幼子たちが陽の光に笑つてゐる
つめたい水飛沫が
髪を濡らし手足を濡らし
彼等の心も濡らしただらう
水面のやうに煌く眼が
ふと僕を向いて声をかけた
僕はその水面に触れることもかなわぬ
応えると
無邪気な声がして
ぱつと水飛沫がきた
弱くなつた 僕の心身は
水を浴びて幾分か明るくなつた
アクア・マリンのやうに
透きとほつたのだ
ざぶんと、復た海が音をたてた