オフ会OFF
しばらく歩いたところで。
「……他の面子は大丈夫なんスかね」
気を使ったのか、ただ単に訊きたかっただけなのか分からないが、『角切もにく』がそう口を開いた。
「さぁ……どうだろ……」
『東門古濾紙』は気の利いたことが言えず、濁すようにそう答えた。
「案外、他のメンバーは何事もなくて入り口でもう集まってたりするのかも」
ぼそりとそう答えを返したのは、意外にも『細田三矢』だった。
「でも、『南十字星』って人は勝手に帰ってそうッスね」
「あー、なんか分かる気がする。あの人と一緒に行ったのは『蕎麦田空志』……だっけか。この人も一緒に帰ってそうだなぁ。いいくるめられて」
「あと、あの人も帰ってそうだよね、『蔵塚そるて』」
「あー、確かに」
「真面目に待っていそうな人っていなくないッスか」
「いや、案外『御前丁』って人と『馬みのい』は待ってると思うぞ」
「じゃ、『惣田檸檬』って人は?」
「うーん、なんか印象があまりない」
「結構酷いことを言ってるよ、君」
そんなこんなと話しているうちに、入り口に着いた。
が、誰の姿もなかった。
「誰もいないッスね」
「マジか……」
「えっと、どうしましょう『瀞蹴かれい』さ──」
『細田三矢』が『瀞蹴かれい』に方針を仰ごうとして後ろを振り返り、そのまま固まる。
「? どうした……」
言いながら振り返った『東門古濾紙』もセリフ半ばで固まった。
「え?」
『瀞蹴かれい』の姿がない。
「あの人、どこ行ったんスか」
『角切もにく』が辺りを見回す。
「……もしかして」
なにか思い当たることがあるのか『細田三矢』が呟く。
「もしかしてあのウワサが──?」
そのセリフに『東門古濾紙』は思い出してハッとした。
《裏野ドリームランド》内のウワサ──
《あの遊園地には度々“子どもがいなくなる”って噂があったな。閉園した理由は知らないけどさ、そんな噂があるようじゃねぇ》
「うそだろ……」
まさか──消えた?
いやでも、ウワサは『子ども』がいなくなるって話だ。
大人がいなくなる話じゃあない。
じゃあなんで『瀞蹴かれい』はいなくなった?
いなくなる理由は?
いなくなった理由は?
一体、何が起きたんだ?
「──しばらく待ってみようか」
『細田三矢』が冷静に言った。
「ウワサの真偽が定かじゃない中、むやみに動いて何か不測の事態が起こることは避けたいし……」
心中の焦りを察されたようなそのセリフに、『東門古濾紙』はギクリとして落ち着いた。
「そ……そう、だな」
確かにその通りだ。
それに、待っている間に他のメンバーがここに来る可能性もある。
三人は、『瀞蹴かれい』を待つことにした。
そうして待ち始めて一時間ほど。
『東門古濾紙』の目に、薄暗い闇の中から光がこちらに来るのが映った。
『瀞蹴かれい』だった。
その無事な姿を見て、三人は三様に安堵のため息を吐いた。
「急にいなくなったので、ビックリしましたよ」
『細田三矢』が言う。
「あぁ、ごめん、ちょっとこいつを取りにね」
『瀞蹴かれい』は手にしていた光を掲げて見せた。《メリーゴーラウンド》で裏野夢島のホログラムに投げつけたペンライトだ。
「取りに戻ったんですか?」
「うん。驚かせたみたいで、すまないね」
「……いい大人なのにTPOも考えられないんスか」
『角切もにく』が悪態をつく。
「だから謝ったじゃないか」
「………………」
どうあっても、『瀞蹴かれい』の態度が──行動が気に入らないらしい。
「それじゃ、帰ろうか。みんな私が送っていくよ」
『瀞蹴かれい』はズボンのポケットから車のキーを取り出した。
「この場にいる年長者として責任を感じるしね」
そう言って先に立って歩いた『瀞蹴かれい』だが、数歩行ったところですぐに足が止まった。
「?」
どうしたんだろう、と思って見ていると。
『東門古濾紙』は目に映ったそれに釘付けになった。
『瀞蹴かれい』が羽織っている上着。
その裾が、浮いている。
それは──見えない何かに掴まれているようだった。
『瀞蹴かれい』が首だけで振り返る。
すると。
三、四歳くらいの女の子の姿が見えてきた。
その手は『瀞蹴かれい』の上着の裾を掴んでいる。
──ありがとう。
《観覧車》から聞こえた『出して……』と言っていた声と同じ声がそう言った。
「……こちらこそ、さっきはありがとう。助かったよ」
柔らかく笑って『瀞蹴かれい』はそう応えた。
それを聞いた女の子は裾を掴んでいた手を離し、『瀞蹴かれい』に手を振ると、そのまま消えていってしまった。
「今のって……幽霊ですか?」
『細田三矢』が冷静に訊く。
「うん。さっきの《観覧車》で襲われたとき、妙なことが起きたでしょ? あれ、あの子がやったんだと思う」
妙なこと。
『瀞蹴かれい』が何かに突き飛ばされたように見えたこと。
それから。
見えない何かに突き押されるようにして『琴美』がゴンドラに倒れ込んだこと。
あれらの現象は、今の女の子の幽霊がやったことだったらしい。
「アンタ……あの子が見えてたんスか?」
『角切もにく』が訝ったように訊く。
「いいや? 私もあの子の姿を見たのは今が初めてだよ」
かわいい子だったね──と、『瀞蹴かれい』は微笑んだ。
「幽霊を見て微笑むことが出来るのって貴方しかいないと思う……」
「そうかな?」
そうだよ。
と、心の中では応じつつ、『東門古濾紙』は何も言わなかった。
「さて、今度こそ本当に帰ろうか」
そう仕切り直して『瀞蹴かれい』は車のキーを鳴らして、《裏野ドリームランド》の外へと向かった。
三人も後に続き、その敷地外へと出た。
《裏野ドリームランド》から離れる車の中で四人はお互いの連絡先を交換し、後日、改めて集まり、今日のことを話し合う約束をした。