オフ会。
「──よし、じゃ、順番に自己紹介しようか」
そう言ったのは赤いTシャツに半ズボンの男。
見るからに、集まったメンバーの中でも年長だ。
「俺から順に時計回りで行こうか。俺は『南十字星』だ。よろしく」
軽く手を上げて挨拶する『南十字星』。
続いて、
「あ、こ、『琴美』です。よろしくおねがいします」
「『東門古濾紙』です」
「『角切もにく』。よろ」
「…………『御前丁』」
「どーもー!『馬みのい』でーす! よろろっ」
「『惣田檸檬』です。本日はよろしくお願いします」
「『蔵塚そるて』だ」
「『蕎麦田空志』…………です」
「『細田三矢』です。えと、よろしくお願いします」
「『瀞蹴かれい』。ふふ、今夜は楽しみにしてますよ」
と、順々に挙手しながらの自己紹介は滞りなく終了した。
──個性の強いのが集まったな。
東門古濾紙はメンバーを眺めながらそんな感想を抱いた。
「何で来たんだろう?」と疑問を抱くほどに怖がっている『琴美』に、絶対お前ヤンキーだろ、と言いたくなる様な格好の『角切もにく』。必要以上のことは口にしないといった雰囲気の『御前丁』に、きゃらきゃらとしゃべりまくる『馬みのい』。
ここまでの半数で、もう個性の強さを感じる。
さらに続く半数は──
穏やかそうに見えるメガネ青年の『惣田檸檬』、何故か白衣を羽織っている『蔵塚そるて』、なんだかボーッとしているような感じの『細田三矢』、見た目からも声からも性別が判断できない不思議な容貌を持つ『瀞蹴かれい』。
普通のようでいてその実は一癖も二癖もありそうな人たちばかりだ。
類は友を呼ぶと云うが。
──そうなると自分もその一部ってことになるんだけど……。
「……まぁ、そうなんだろうな……」
他人事のように思いながら、東門は独り言つ。
「え……? いま、なにか言った……?」
右隣に居た『琴美』が不安そうに東門の顔を覗き込む。
独り言が聞こえていたらしい。
「あ、聞こえてた?」
「う、うん。一瞬、お化けの声かと思っちゃった」
そう言って『琴美』は照れ笑いをした。
少しでも変なことを考えた自分が恥ずかしかったらしい。
「……驚かせてごめんね」
「だ、大丈夫です」
東門が謝ると、『琴美』は両手を握りしめて平気さをアピールした。
その顔にはまだ怯えが残っている。
──全然、大丈夫そうじゃないな。
本当にこの子はなんで参加したんだろう。
東門は『琴美』の事が気になり始めた。
「よーし、じゃー、アトラクションごとに別れるか!」
『南十字星』が取り仕切る。
このオフ会を企画したのは彼だった。
ここにいるメンバーは皆、怖い話が好きな者たちが集まるサイトに加盟している者たちだ。
サイトのチャットページで会話をしているうちに『裏野ドリームランド』が話題に上がった。ウワサも謎も多い『裏野ドリームランド』であったため、話し込んでいるその流れで『南十字星』が、「オフ会を兼ねて『裏野ドリームランド』へ行ってみないか?」と言い出し企画したのだ。
そうして集まったのが、このメンバーだった。
「どーやって別れんだ?」
そう訊いたのは棒つきアメをくわえていた『角切もにく』だ。タンクトップにスカジャン、ショートパンツと言った格好は、短く切った金髪とよく似合っている。と、いうか、雰囲気を持っている。
「そうだなー、適当にウワサ順にするかな」
『南十字星』が言いながら、スマホをいじり出す。
ウワサをメモ機能に抜き出してあったらしい。
「ウワサ①、『廃園になった理由』、は、いいか。子供っていう年齢のやついないし。えーと、ウワサ②、『ジェットコースターで謎の事故』か。これ行くヤツは?」
「あっ、あたし行きたーい!」
そう言って手を上げたのは『馬みのい』。クリーム系の髪色をショートボブに切り揃え、パフスリーブブラウスにハイウエストスカートを合わせているカワイイ系女子だ。
「んじゃ、相棒を誰か──」
と、『南十字星』がメンバー見回そうとする前に、『馬みのい』は隣に立っていた『御前丁』を指差していた。
「え?」
『御前丁』が驚きの表情で『馬みのい』を見下ろす。
頭一つ分の身長差がある二人。
見上げるような格好で『馬みのい』は『御前丁』に向かって小首を傾げる。
「ダメですか?」
「ダメと言うか……私でいいのか?」
「あたしはアナタがいいですっ」
「………………」
なんだか誤解を生みかねないセリフをきぱっと言う『馬みのい』に、『御前丁』は気圧されたようで、それ以上、何も言わなかった。
「じゃあ、それで決定な。あとは──」
ウワサ③『アクアツアーの不気味な生き物』
──『蕎麦田空志』
──『南十字星』
ウワサ④『ミラーハウスでの入れ替わり』
──『角切もにく』
──『琴美』
──『東門古濾紙』
ウワサ⑤『ドリームキャッスルの拷問部屋』
──『惣田檸檬』
──『蔵塚そるて』
ウワサ⑥『廻るメリーゴーラウンド』
──『細田三矢』
──『瀞蹴かれい』
「──おーし、キレイに別れたな。それじゃ、またここで会おう。散開!」
『南十字星』のそのセリフで、東門たちは、集まっていた入園口から、それぞれ目的のアトラクションへと、持参した懐中電灯を手に散って行った。
──闇に包まれた園内を、点々とした光が散っていく。
それを眺める男の姿が一つ。
「侵入者、ですねぇ」
男は微笑する。
「さて、今回の皆さんはどんなストーリーを私に見せてくれるのでしょう」
その声は楽しそうである。
「それでは観ていきましょうか──」