42.王都へ
重たい眼を開けると、もはや見慣れた天井が視界に映るのと同時に、外から工事のような物音が聞こえてくる。
チラッと窓を見るとすでに外は明るく、朝なのか昼なのかわからないがのっそりと起き上がると、隣のベッドからヴァンの寝息が聞こえてくる。
昨日は疲れて何も食べずに寝ちゃったものだからお腹の虫が鳴く。
……お腹空いたな。
とりあえず、まだボーっとする頭を覚ますためにシャワーを浴びようとシャワー室に向かおうとしたら、まだ疲れが残ってるのか、何もないとこで足をとられて躓き、壁に額をぶつけてしまった。
今の衝撃で頭はハッキリしたけど、とりあえず痛みを我慢してシャワー室に入る。
軽くシャワーを浴び、身体を乾かしてスッキリしてお腹が空いたのが鮮明になると、お腹がすっごい鳴る。
冷蔵箱を開き、中に入ってる食材を使って簡単な朝食を作り、テーブルに並べてからヴァンを起こす。
ヨダレを垂らしながら寝てたヴァンが起きると、ものすっごい寝ぐせでボサボサになってる毛に笑いを堪えると、ヴァンにコツンと叩かれた。
毛を整えてからのっそりと朝食が並べられてるテーブルに向かい、イスに座って朝食を食べていく。
……食べている途中でなんか視線を感じ、チラッと見てみると、ヴァンが食べながらこっちを見ている。
「……なに?」
「……いや」
そう一言を言うとまた朝食に向き直って食べていく。
なんなの、いったい?
数分後。食べ終わって片付けをしていたら、ヴァンがやっとこさ口を開いてきた。
「あの、さ。頼みがあんだけど」
「頼み?」
なんか言いづらそうにモジモジしているもんだから片付けが終わり、冷蔵箱から羊乳を取り出して飲んでいく。
「一週間後の俺の昇級試験、俺のパートナーとして出場してくんね?」
ブッ!
突然のヴァンの頼みごとに思い切り飲んでた羊乳をヴァンに向かって吹いた。
一瞬の間をおいてからタオルで羊乳を拭いていく。
てか、今なんて?
ヴァンのランク昇級試験パートナーに……僕が?
「あの……どういう意味?」
「あー……そういえばランク試験の事教えてなかったっけか?」
「うん……」
「ギルドに入るのは自由だが、ランクの昇級はバトルなんだよ」
バトル……?
モンスターとかな?それとも獣人?
「ランクD~Bへのバトルは同じく昇級する獣人とのバトルロイヤルの勝負なんだ。これは指定された人数が勝ち残った奴がランクアップする。んで、ランクAにはタッグを組んでバトル。んでもって、ランクSは一対一でバトルだ」
おお……いきなりバトルロイヤルからのスタートなのか。
たしかヴァンは今Bランクだから……次はAのタッグ……だけどなんで僕なんだ?
別に僕じゃなくてもバルトやマスターと……ベロニカ?がいるのに。
「僕以外はダメなの?」
「あ~……それが……パートナーはギルマスやランクS以外の奴と組まにゃならなくてな、今までバルトに頼んで三回はランクAへの昇格試験を受けたんだが……全部落ちてんだよ。いっつも真っ先にバルトがやられてっからな。まぁ、アイツはランクCだから仕方ないっちゃ仕方ないんだけどよ……ベロニカに関しちゃいっつもいなくて捕まんねぇしよ」
肘をテーブルについてマズルを乗せ、ブスッとした顔で言うヴァン。
バルトってそんなに弱いのだろうか?この前のギルド対抗戦で見た時はかなり速かったから、スピードはあると思うんだよね。もしかして攻撃力や身のこなしに問題が?
う~ん、僕だってまだ戦闘経験が乏しいし、バルトより役に立たないと思うんだよね。
「頼む!もし今回もダメでも文句ねぇからよ!もし審査官の眼に止まればお前も次の昇級枠に入るかもしれないからお前のためにもなるし!」
「ん、どゆこと?」
「Aランク試験のパートナーに格下……つまり、Bランク以下が入るのはなかなかないんだよ。んで、ランクE~Cの奴がタッグパートナーの場合、その試験で評価された奴は昇級試験を受けることができたりすんだ。もしお前がランクAへの試験者の奴を倒せばかなりでけぇしな」
なるほど、そゆことか。
となれば、ダメ元でも経験しとくのもいい……か。
「わかった。どこまでやれるかわからないけどやってみるよ」
「マジか、助かる!じゃあ一週間後頼んだぜ」
ヴァンはホッとしたのか深い息を吐いた。
そんなにバルトとはつらいのか……。まぁ真っ先ってことは開始すぐにやられてるってことだと思うし、それじゃなかなか受かるわけないよね。
「それじゃ僕はそろそろ行くよ。早めに済ませたいし」
「そうか。キツそうとは思うが……頑張ってこいよ」
とりあえず「アハハ……」と苦笑いをしておく。
頑張るのは移動だけで済むのを祈るよ。
街を出て少し離れたとこでドラゴンの姿になり、翼を羽ばたいて飛ぶ。
対抗戦前にも飛ぶ特訓はしたから今は問題なく飛べる。最初は落ちまくっていたから練習しまくったんだけどね。
飛べるようになった今は風がすごく気持ちよくて、飛ぶのが楽しいんだ。
人間の時から見てた鳥もこんな感じなんだろうか?
そんな感じに飛んでいたら、大きなお城が見えてきた。あれがバルセルス城かな?そして手前のがその城下町、か。
地へ降りて変身を解き、まずは城下町に向かって歩く。
鳥に変身して行ってもよかったかもだけど、初めてのとこだし、何かあったら嫌だしね。
やがて街の門に近づくと、門の前には兵らしき獣人が二人見える。
虎と竜人……いや、マスターと比べると細いから竜人じゃなくて龍人か?
門の近くまで行くと、その門の大きさに驚いた。
なにせ、こんな漫画やアニメの世界しか見たことのない大きな門が今リアルにすぐ目の前にあるのだから。
そんな門を今から潜るんだと思ったら、なんだかドキドキしてきたぞ?
「止まれ!身分証を見せてもらおうか」
二人が槍で阻むようにクロスさせるのも漫画やアニメでは見たことあるけれどリアルでは初めて見る。
身分証……これも対抗戦の前にマスターから受け取ったギルドカードでいいのかな。
ギルドカードには本人の名前や所属ギルド、ランクが記されてるだけでなく、中には賞罰やステータスなどが専用の魔法陣で調べればわかるらしい。
まぁ、スキルとかは記されてないから、ちゃんと鑑定してもらわないとだけど。
ギルドカードを渡し、受け取った兵がなにやらカードを板の上に乗せると、映像みたいなのが現れた。
それはギルドカードの情報みたいで、ステータスや賞罰がある。
板をよく見れば、カードを乗せた面になにやら漫画やアニメなんかで見た魔法陣みたいなのが見える。
なるほど、アレで確認をするのか。
「よし、いいだろう」
カードを返され、門が鈍い音を立ててゆっくりと開いていく。
中に入ると、ガヤガヤと騒がしいファンタジーな城下町と奥に大きな王城が見える。
空から見た時はそこまで大きく感じなかったけど、改めて見ると大きいな……近くまで行ったらどんだけだ?
街の中に入り、辺りをゆっくり見渡しながら城を目指す。
ガラスウインドウに剣や盾といった武器や防具、服などのお店や食べ物を売っている出店などがいっぱいある。
まさにザ・ファンタジー世界だ。
ふぅむ……やること終わったらゆっくり城下町を見学をしていこうかな?
そんなことを考えながら辺りを見ながらまっすぐ城の方へ向かっていると、突然口を抑えられて路地裏の方へ連れてかれる。
左右と後ろが建物の壁で阻まれていて、唯一の正面の出口はなんか知らない獣人……ハイエナと熊と猫の三人が塞いでいる。
これってもしかして薄い漫画とかであるような事を?
ハイエナの獣人が僕の前までやってきて、ジロジロと僕を見てくると思ったら、ツカツカと他の獣人の方へ戻っていく。
「この……馬鹿野郎!!」
ボカッといい音をハイエナの獣人が熊の獣人の頭を軽くジャンプして殴って奏でる。
「俺様は雌を連れてこいと言ったろーが!なぜ雄の、しかもガキを連れてくる!?」
「け、けどアニキ。コイツの顔や仕草が雌っぽかったから、アニキだって最初はきっと勘ちが……」
「うるせぇ!」
またボカッと殴られた。
結構なダメージが入ったらしく、熊の獣人は頭を押さえながらプルプルと震え、猫の獣人はその熊獣人の肩をポンと叩く。
痛そー……
一見は漫画とかでよくあるシーンだけど、今現在は犯罪チックなんだよなー。
さて、ここからどうすればいいかなー……
無理矢理逃げると相手を傷つけることになるから、一般市民を傷つけたギルドメンバーって言いつけられたらマズそうだし……あ、でも奴らは僕がギルドのメンバーだって事を知らないよね?
とはいえ、わからないから念のためそれはしない方がいい、か。
と、なると残る逃げ道は。




