番外編:その後のコロシアムでは
全員が寝静まったころのコロシアムでは、誰かがステージの周りを漁っていた。
月明かりに照らされたそれは、グランヴァルツと戦ったグランロードだった。
グランロードは小さい何かを探すように、月明かりを頼りに地面を見つめている。
「……これを持ち帰るか」
何かを見つけたらしく、それを拾い上げると、なにやら数本の毛のように見える。
それをギュッと握りしめ、深い溜息を吐くが次第に口が吊り上がる。
「ク……クク……しかし、やはりグランヴァルツ様は素晴らしかった。あのような体でも私を圧倒する力……それだけに、そのグランヴァルツ様の魂を持つアイツが許せない……」
ググ……っと腕に力を入れると、腕の表面に鱗がザワザワと音をたてながら姿を現す。
鱗の出現だけでなく、爪や鼻先が伸び、翼が姿を現していくと、その姿は人間体からドラゴン……というより竜人寄りに変わっていくようで。
しかしすぐにハッとなり、元の人間体に戻っていき落ち着きを取り戻す。
一度深呼吸をしてから拾った物を持ち帰るべく、何かを唱えるとその場から消えてしまった。
……何だったんだ、さっきの奴は?
森で順調に生きていたらこっから気になる爆発音があったから来てみたら、変な奴がステージっぽいやつの上でなにやらゴソゴソしてやがった。
あの様子だと探し物をしていたようだな。
なんか辺りが穴ぼこだらけで戦いがあったみたいにボロボロだし……アイツが戦ってできた傷跡なんだろうか?そしてその時に落とした何かを探していた……ってとこか。
……てか、んなこと考えても仕方ない。
そもそも、だ。この世界の事も全くわかってねぇんだよな。
おそらく俺の今の姿は魔族側……モンスターなんだろう。
この世界にも人間がいるんなら、俺は人間の敵として戦うんだろうな……
爪に気をつけながら頭を掻き、深い溜息を吐く。
さて、もうここにいる意味がなさそうだし、とりあえず森に帰……
「お前はそんなとこで何をやっている?」
うおおおおあああああああああああ!?
な、コイツはさっきの……いつの間に背後に!!
俺は一気に後退り、とっさに剣を構える。
しかしコイツは構える素振りもなく、ただ俺を見下すように見ている。
だがわかる。俺なんかより圧倒的な力を持っているのが……
なんなんだ、コイツは?
「ふん、剣を構えるか。しかもそんなボロボロので」
「う、うるせぇ!やってみなくちゃわかんねぇだろうがよ!」
「ならやってみるといい」
チ……ナメやがって。
俺は一気に接近し、剣を思いっきり振る。
しかし、俺の剣は奴の指一本で防がれてしまった。
「な……剣を指一本で……」
「この程度か?」
「ク……これでどうだ!『爆炎斬』!」
剣に炎が纏い、奴に向かって一気に振り下ろす。
俺が森でモンスターと戦ってる時に習得した現在最強の技だ……これなら!
「ふん」
「ガ……ハ……」
あっさりと俺の技は流され、腹部にカウンターの一撃を受けた俺。
か、勝てねぇ……意識……が……
俺が最後に見たのは、俺を見下ろしてくる奴の顔だった。
気絶したリザードマンを見下ろしながら何かを考えこむグランロード。
そして何かを決めたように顔をあげると、リザードマンを担ぎ上げ、彼が持っていた剣を拾い上げるとその場を後にした。
そして場所は変わり古城。
未だ気絶しているリザードマンを肩に担ぎながら広い通路をカツカツカッという音をたてて歩いていくグランロード。
たまにずり落ちそうになるのを担ぎなおしながら歩いていると、その振動でリザードマンが目を覚ます。
「ん……ぅ……?俺は……な、なんだこれ!?」
「気がついたか?」
「テメ、なんだここは!俺に何をする気だ!!」
抜け出そうと足をバタバタさせたり、グランロードの背をググッと押しこんだりするも全くびくともしない。
そればかりか、リザードマンが必死に抜け出そうとしているにもかかわらず、グランロードは平然と歩き続けている。
抜け出せないと悟ったのか、グデッと力が抜けるリザードマン。
諦めたかのような表情で身を任せていると、急に止まるのを感じて身を捩って見てみると、目の前の大きい扉を見てリザードマンは驚愕する。
それはアニメや漫画とかでしか見たことなかったからである。
リザードマンのあんぐりとした口が塞がらないのに対し、グランロードは平然とそのバカでかい扉を開ける。
その中の大広間に入り、中央部辺りまで歩くとドサッとリザードマンを床に落とす。
「いっつつつ……」
「ただいま戻りました、我が王よ」
落とされたリザードマンは痛みがある部分を撫で、グランロードは魔王の前に膝まづく。
そのグランロードの姿を見たリザードマンがその正面を見た瞬間、シルエットながらその迫力に身震いする。
そして、その場から立ち去りたくても足が震えて立ち上がることさえできないでいる。
そのリザードマンの姿をチラッと見たグランロードはフッと鼻で笑い、再び王に向かって頭を下げる。
「ふむ、そいつはどうした?」
「先の方から連れてまいりました。この者を鍛え、我が軍の方へ向かえようかと」
「ほう……?使えそうなのか?」
「はい」
リザードマンの意志関係なく話が進んでいく。
話についていけない彼はポカンとしながら、グランロードと王の姿を交互に見る。
「ならやってみるといい」
「ありがとうございます。それと……こちら、あの方から頼まれてた物です」
「ん、渡しておこう」
「では失礼します」
グランロードは毛のようなのが入ったケースを渡し、リザードマンの手を掴んでから引きずるように部屋を後にする。
そしてリザードマンを連れて行った場所は、何もない……簡素な空間だった。
そこにリザードマンを放り投げる。
「いちち……な、なんなんだよ!ここはいったい……!」
「ここは四人魔王様達、四大魔王様がいらっしゃる城だ。そして、今からお前は俺の指揮下に入り、強くなってもらう」
「は!?んな勝手な……」
「お前に拒否権はない。拒否するなら今ここで……死ぬか?」
完全に脅迫だった。
歯を思いきり噛みしめ、悔しそうにするリザードマンをグランロードは腕を組みながら見下ろしている。
首を横に振れば今この場で殺され、縦に振れば生きるが魔王軍の仲間入り。
答えはもう一つしかなかった。
「わ、わかった……」
「いい判断だ。今日はもう遅い、明日から訓練に入ってもらうから覚悟しろよ」
うなだれているリザードマンにそう言い残すとグランロードは部屋を出て扉を閉める。
そんなグランロードにリザードマンは屈辱感や劣等感などの感情が入り交じり、拳を力強く握って床に思いきり叩きつける。
「みてろよ……絶対にアイツより強くなって抜け出してやる」
まだ諦めていないリザードマン。
打倒グランロードを目指すのを心に決め、今日のところは部屋の隅で眠りにつくのだった。




