41.突然の告白タイム。各自帰路へ
お待たせしました
フリーズ。
突然の事に頭が真っ白になり、何がなんだかわからなくなった。
突然口が塞がられ、何かが入ってくる。
わけがわからないまま硬直してると、突然軽い衝撃と共にヴァノが横の方へ視界から消えていった。
どうやらヴァンが蹴り飛ばしたらしく、ヴァノは頭から瓦礫に突っ込んでる形で埋まってる。
頭隠して尻隠さず……な図である。
まぁ、まずは……
「え……と……とりあえず忘れよう……うん」
同性に唇(?)を奪われるなんて黒歴史だわ……
なんでそうしたのかはわからないけど、今はその記憶を抹消しなければ……
「てめぇ……いったい何してんだ?」
『主に何してるんだ……?』
すごい殺気を放ちながらヴァンとフェンリルがヴァノに詰め寄る。
さすがのヴァノも一瞬顔が引きつったけど、何かに気が付いたかのようにパアアアァァァッと一気に表情が明るくなった。
「そっかぁ、ヴァンたらヤキモチ焼いてるんだな!安心しろ、お前にもやってやギャアアア!」
ヴァンとフェンリルの一斉攻撃を受けるヴァノ。
さすがのヴァノもこれは死……んでないな。ピクピクと動いてるや。
ちょっと残念に思いながらも僕はフェンリルを撫でて落ち着かす。
「ありがとね、手助けしてくれた上に制裁まで。でもこれ以上は危ないからやめておこうか」
『む……主がそう言うならば……』
ポンポンと叩きながら撫でると、尻尾を振りながら伏せている。
なんというか……言っちゃ悪いけど、こうしてると犬と大差無く感じる。
……大きさと強さ以外は。
「……つうか、アイツなにもんなんだよ?魔狼王といわれるフェンリルを使役したり、戦闘中にドラゴンになったりしてたよな?」
「フフフ……詳しくは言えんが、まぁウチの切り札とでも言っておこうか。まだまだ危なっかしいがな」
マスター同士で何か話してるけど、ちょっと遠くて聞こえない。僕を指さしてるから僕の事だろうけど……ウチのマスターは何でドヤ顔してるんだろうか?
「あ、そういえばバトルの方はどうなるのー?」
バルトの一言で思い出される。
そういえばゴタゴタで忘れかけてたよ。
チラッとヴァノの方を見ると、そこにはすでに姿はなく、いつの間にか目の前にいて手を握ってきた。
てかまた近い!
なんか周りがキラキラして見えるんだけど!!
「いやぁ、身体を乗っ取られていたとはいえ、君の心優しい気持ちが俺のハートに届いたよ。ぜひ、俺と付き合ってほじ!!」
「だから貴様は何を言ってやがんだ」
ヴァンのかかと落としが脳天に炸裂。
錯覚かもだけど、ヴァノが押さえて悶えてる頭からは煙が出ているように見える。
「ヴァン……もしかして嫉妬かい?安心しろ、俺は二人を愛する自信はあるさ!」
僕とヴァンは恐怖というか、気持ち悪さで引いた。
そして周りの視線を感じてか、ヴァノはキョロキョロして咳ばらいを一つ。
「……コホン、まぁとにかく色々あったが……俺は第三戦のバトルは棄権する。戦う気力は残ってないしな」
「……仕方ないな」
突然のヴァノの宣言にギルテシムのマスターも溜息を一つ吐いて了承する。
あまりにも突然なことに追いつけてないけど……ヴァノが棄権するってことは、二対一でウチの勝ち……でいいんだよね?
「いいのか?」
「ああ。本人が言ってるし、俺はアイツの意見や答えはできるだけ尊重してるからな」
どうやら大丈夫っぽいけど、若干納得がいってない表情だ。
まぁ、そりゃ試合途中で乱入があってとはいえ、試合放棄してるんだから。
これもエースゆえ……か?
そして、改めてフェンリル達にお礼を言って別れ、ちょっとした閉会式を行ってギルテシムの連中とは別れた。
なんか別れ際にヴァノが「いつか迎えに行くからな」とか手を握りながら言ってたけどスルーした。
とりあえずこれでもうこんな賭け勝負はやらなくていいからかマスターはご機嫌で、ヴァンとシーナは疲れてるからか歩きながら軽いストレッチをしている。
そして、僕の後ろを歩いているシルフィーは……
「……あの、シルフィーさん?歩きながら睨みつけるのは勘弁してくれませんかね……?」
僕ってシルフィーに嫌われてるのだろうか……?
「それは私の勝手でしょ?それより……さっさとコレ読みなさいよ!」
ベシッと僕の顔面に何かを投げつける。
それは手紙のようなもので……あ、そういえば試合前に渡されてたっけ。
たしか、差出人の名前はルーシィ……だったっけ?
どんな獣人か聞こうとしたら呼ばれて聞けなかったんだっけか……
「差出人に名前ってたしかルーシィって名前だったでしょ?どんな獣人なの?」
「ああ、そういえばまだ言ってなかったわね。ルーシィさんはタクト……まぁアンタと血の繋がったお姉さんよ」
へー、僕のお姉……さん?
「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
僕の驚きの声が辺り一帯に響き渡る。
そりゃそうなるわ!だって、親が亡くなって一人だと思ったところに姉の存在だよ?叫ばずにはいらんないって!
「おい、ライクウ……調べなかったのか?」
「……してなかったな」
ちょ、マスター?
……まぁ、初の依頼から帰ってきてから色々あったし?仕方ないんだろうけど、さ?
とりあえず読んでみよう。
えっと……?
『タクトへ。話を通しておくからすぐバルセルス城へ来なさい』
……え、これだけ?ほぼ一行で終わりですか?
眉間を押さえて溜息を吐くと、ヴァンが肩をポンと乗せてきた。
「ま、とりあえず血が繋がった姉がいるなら会ってみたらいいんじゃないか?」
「うん、できればそうしたいんだけど……」
なんか、この手紙から殺気というか……怒りを感じるんだよね……
怒り……もしかして?
「ねぇ、シルフィー?このレベッカって獣人に僕がタクトの身体に転生したこと、話したりした?」
「してないわよ。話したら、たぶんアンタ死んでるわよ?」
いや、そんなハッキリと……じゃあなんで?
僕の気のせいなんだろうか……?
とりあえず会ってみるか……な。
「わかった。会ってみるよ」
「よし。コウジ、明日から三日間のオフをやるから会ってきなさい。あとギルドに戻ったら伝えることがあるから、しっかりと体を休ませなさい」
「わかりました」
「あ、わかってると思うけど、会うなら絶対タクトの身体に転生したなんて言わない方がいいわよ?……死にたいなら話は別だけど」
わかってるよ、死にたくないし。
しかし中身が違うとはいえ、身体は弟の身体なのに命を奪えるのか、タクトの姉は。
もうすでに会うのが憂鬱だわ……ハァ。
シールスの近くでシルフィーと別れ、僕達はビスコティアに戻る。
とはいえ、さすがに今からだと遅くなるから、僕がみんなが乗れるサイズのドラゴンに変化して街へ戻った。
さすがに疲れたわ。
「やれやれ、さすがに疲れたな」
肩をコキコキと鳴らしながらギルドに入るヴァンといろんな疲れがきてる顔をしたマスターとシーナ。
さすがに疲れるよね。
重い足取りでマスター室に入り、マスターを前に全員が並ぶ。
「みんな、今日はご苦労だったな。全員明日はオフにするから、ゆっくり休んでくれ。コウジは三日間だが……まぁ頑張ってくれ」
ですよねー。
「そしてヴァン。お前は一週間後に昇格試験を受けられる連絡が来てるが……どうする?」
「ったりめーだろ」
「昇格試験……?」
「今の個人のランクを一つ上に上げるための試験だ。今の俺はBランクだから、Aランクに上げるために受けるんだ」
あー、ランクがあるのは聞いたけど……やっぱり試験てあるんだ。
漫画とかだと受けた依頼の数やポイントとかで自動的に上がったりしたけど……ていうか、僕は自分のランクを知らないんだけど。
「あの、今の僕のランクって……?」
「ん、言ってなかったか?今のコウジは最低ランクであるEだ」
E……か。
マスターがSってことは、ランクはE~Sまであるってことかな?
僕はまだその時ではない……か。
僕ももっとがんばろっと。
「とりあえずお前達への連絡事項はここまでだな。何か質問はあるか?」
シーンと静まる室内。
「では解散!ゆっくり休め」
各々のタイミングで部屋を出て、僕とヴァンは無言で帰路につく。
さすがに足が重いからフラフラするけど、何とか部屋に着いて僕達はそのまま布団にダイブし、さらにそのまま深い眠りについた。
今日はいい眠りにつけそうだ……。
まだまだ続きますよ




