25.狐司・フェンリルVSビーストマスター:魔王ネリアル
邪悪な黒い魔力がネリアルを包み込む。
う……この禍々しい魔力……気持ち悪……気分が悪くなってきた……
これは《魔力感知》が裏目に出たかな……?
いや、これくらいでへこたれてたまるか!
とりあえず、ここは離れた方がいいな。
すでに校舎はボロボロだし、ここで更に戦ったりなんかしたら、崩れ落ちること間違いなし!
「戦うんなら外に移動するよ!!」
そう言って、僕は窓から飛び降りる。
場所は二階だったから、怪我なしで着地する。人間だったら怪我をしてただろうけどね!
フェンリルとネリアルも降りてきた。ネリアルに至っては乗ってきていた大きい鳥に乗ってだ。
大勢のフェンリルには大量の魔獣の相手をしてもらい、今ネリアルに挑んでいるのは僕とフェンリル、そして子フェンリル。
禍々しい魔力を纏ってるネリアルが怪しい笑みをしているのを見て、心臓の高鳴りがさっきより一段と大きくなった気がする。
落ち着け……落ち着け……僕は強くなるって決めたんだ……こんなことで弱気になってどうする……
『相手は仮にも魔王だ。怖がるなとは言わんが、しっかり奴を見て動いて決して隙を見せるな。これはお前を信じてるから言ってるのだ』
僕を信じてる?
今日初めて会って、本来なら敵の獣人である僕を?
……嬉しいねぇ、最強の魔狼であるフェンリルからそう言ってもらえるなんて。
「さぁ、作戦会議とこの世の別れはできたかしら?くらいなさい、《土固突起》。」
ネリアルが指をクンッと上げると、僕達の足元の土が波のようにうねりだした。
そして、土が固形のように固くなって一気にせりあがってきた。
その攻撃で吹っ飛ばされた僕達は、ダメージを受けながらもなんとか空中で体制を立て直そうとしたけど、ネリアルの次の攻撃が目の前まで迫っていた。
「《土水流撃》」
二ヤリとした口からボソリと聞こえ、土でできた水流が僕達を飲み込んで地面へと向かっていく。
《土固突起》に《土水流撃》……ネリアルは土属性か!
そう思ってる間に、僕達は地面に叩きつけられてしまった。
ぐうぅ……これはかなりの攻撃力だ……《衝撃耐性》があるのにめっちゃ痛い……。あと、口の中に土が入ってジャリジャリする……。
土を吐き捨てていると、フェンリルが僕を銜えて背に乗せた。
『ボーッとするな。次は我々の番だ!』
別にボーッとしてはいないんだけどな。
でも、魔王を相手に痛がったり土を吐き捨ててる場合じゃないか!
僕はしっかりとフェンリルにまたがって左手で支え、右手でネリアルに狙いをしっかりと定めて《獄炎弾》を放つ。
ネリアルはそれを《土固突起》でガードする。
フェンリルは走りながら僕が《獄炎弾》を連射し、ネリアルは操作がしやすい《土水流撃》でかき消していく。
このままじゃ攻撃が当たらないな……と思っていたら、後ろから魔力を感知した。
ほぼ無理矢理だけどフェンリルを左へ方向転換させると、ネリアルの攻撃が地面に直撃する。
《土水流撃》が後ろに迫っていたのだ。
『すまない、助かった』
「いや、僕も無理矢理でごめん。でも、このままだと埒があかないよ」
「あら、お喋りなんて余裕じゃない?私の《土水流撃》は一本じゃないのよ?」
ちょ……なにあの数は……いったい何本あって……
あきらかに10本や20本じゃない!!
「私のは……100本よ!!」
ちょお!?
無数の《土水流撃》が僕達を襲い、フェンリルに乗ってたけど別々にされてしまった。
近づこうにも、この数に遮られて逆に遠のいていく。
あーもう!うざったい!!
あまりのウザさに若干自棄気味になり、ネリアルに《サンダーボルト》を放った。
すると、多くの《土水流撃》がネリアルの近くへ集まり、僕の《サンダーボルト》を防ぐけど、受けた《土水流撃》は全て消滅した。
なんでわざわざ……まさか?
「そんなものかしら?そんなんじゃ私を倒すなんて無理ね!」
うう……消滅したはずの《土水流撃》がまた復活したよ。
でも、僕のカンが正しいなら……なんとかなるはず!
再び襲い掛かる《土水流撃》。
これ、もう触手でいいんじゃない?うん、もう触手でいいや……ヌメヌメ感はないけど。
あれ、なんかさっきまでのと違うような……って電撃纏ってね!?
「あらぁ?もしかしてさっきまでと同じかと思ったかしら?だとしたら甘いわね!!」
くそ……これ、かすっただけでもダメージがすごいくるじゃん!
避けるだけで精一杯で反撃するチャンスが……
「逃がさないわよ!」
う!この魔力は……《│土固突起》が来る!
予想通り、目の前の足元から《│土固突起》が姿を現し、僕はすかさず横に跳んだ。
しかしそれがいけなかったのか、跳んで動けなくなった僕に容赦なく、電撃を纏った《土水流撃》が襲い掛かる。
これは避けられな……!
結果、僕はまともに攻撃をくらってしまった。
『小僧!?くっ!』
痛い……痺れる……攻撃力が圧倒的だ……
これ、ただの人間だったら即死レベルだよ……!
気絶しなかったのは《気絶耐性》のおかげだろうか……?
「あら、もう終わりかしらぁ?一撃で終わりなんてお粗末ねぇ」
よく言う……50本くらい叩き込んだくせに……
くっそ……動こうにも体が痺れて……!
「動けない?なら残念だけどここまでのようね」
僕にネリアルが近づいてくると、手を挙げて土でできた刃を創り出す。
まさかそれで僕を……!?
「はい、さようなら」
振り下ろされ、僕の体は切り裂かれ……るギリギリのとこで、別個体のフェンリルが僕を咥えて救い出してくれた。
た、助かった……
「あ、ありがと……」
「ガウ(気にすんな)」
僕がお礼を言うと、フェンリルが一鳴きした。
とりあえず、今のうちに《キュア》を……
「邪魔するんじゃないわよ!!」
突然、上からフェンリルと一緒に何かに押しつぶされた。
なに……これ……重い……
まさかこれは重力……!?
「どうかしら?私の《│重力魔法》は。どんどん重くしていくわよ!」
「か……は……!」
どんどん重くなって押し潰されていく。
とあるバトル漫画には重力を使って強くなった描写はあるけど……これは僕を殺すための重力……桁が違いすぎる……!
『耐えろ!耐えるんだお前達!!」』
《土水流撃》を避けながら僕達に叫ぶフェンリル。
でも……どんどん重くなっていく重力にはもうさすがに……
意識が……なくなって……
「《│炎柱輪翔破》」
突如、ネリアルの足元から炎が出現した。
しかしネリアルの反応が早く、かわされてしまった。
ていうか、今の声は……
「大丈夫か、コウジ!?すまん、遅くなった」
僕の前に現れたのはマスターだった。
よかった……助かった……
「貴様、魔王のビーストマスター・ネリアルか。よくも仲間をここまでボロボロにしてくれたな?」
「ギルドマスターのライクウ……だったかしら?……ま、ここまでにしといてあげましょ。ギルドマスターを相手にするほど馬鹿じゃないし。じゃあね、狐の坊や……思ったより楽しめたわよ」
「待て!!」
ライクウの叫びも虚しく、ネリアルは最初の大型の鳥に乗って去って行ってしまった。
フェンリルと戦ってた残りの魔獣も、ビーストマスターが去ったことで自分達もここにいる意味がないと思ったのか、一気にこの場から去っていった。
しかし、校庭にはフェンリルの十倍以上はありそうな魔獣の死骸がドッサリと転がっていた。
すごいな……さすが最強の魔獣……
「すまない、遅くなって……少し手間取ってしまった」
「い、いえ……おかげで命拾いしまし……た……」
倒れてる僕をしゃがんで抱え込み、心配そうな目で僕を見てくる。
ああ……体が本当に動かないや……
フェンリル達も僕達の周りに集まってきた。
『すまない、小僧……助っ人に来たのにこのザマで……』
「気にしないで……みんなが来てくれてなかったら……僕はもう死んでるよ……」
「コウジ……このフェンリル達は……?どうやら敵意はなさそうだが?」
「あ……子供を罠から助けた礼にって一緒に戦ってくれたの……」
本当にいてくれて助かった……
やっぱりあの時無視し続けないで人助け……じゃなくて魔獣助けをして正解だった……ね。
『お兄ちゃん……大丈夫……?』
「大丈夫大丈夫……君が無事でよかったよ……僕もすぐに元気に……な……る……」
心配しながら鳴く子フェンリルに心配され、頭を撫でようとしたけど力尽きてしまい、僕は体力の限界で意識を手放していく。
薄れ消えていく意識の中で、最後に聞いたのはマスターとフェンリル、子フェンリルが何度も僕を呼ぶ声だった。
早くも戦うことになったビーストマスターこと魔王との勝負は完敗。
この先どうなるのかな?




