10.初めての武器での攻撃は三途の川行き(一瞬だけど)
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対峙したのはいいけど……なんだろう?
選んでた時は思わなかったけど、武器の重さにプレッシャーが重くのしかかってきた。
あ、やばい。頭が真っ白になってきた。
まずはどうすればいいんだっけ……
「お前……緊張しすぎだろ」
「え?」
「無理もありませんね。平和な世界から来たみたいですし、初めて剣を持ちましたからね。我々にはわからないプレッシャーがあるのでしょう」
いや、僕にもプレッシャーの正体はわからないけどね?
でも、一つだけわかるんだ。
僕は感動してるんだ。
本物の剣を持ったこと、そしてファンタジー世界の仲間がいること。
今までゲームだと、修行もせずに武器を扱えて、敵と戦うだけでレベルアップや魔法などを身につけてたけど、これからは仲間と修行しながらステータスをアップさせて、魔法も覚えなくちゃいけない。
リアルでやってくのが楽しみになってきた。
……あれ、なんだか急に楽になってきたよ?
一度深呼吸して、再び武器を構える。
「む、だいぶ落ち着いたみたいだな」
「はい、すみませんでした」
「ま、一歩間違えれば死だってありえるからな、しっかりしないとな」
そうだ。ゲームだとセーブしてコンティニューがあるけれど、今はリアルだからノーセーブノーコンティニューでやっていかないといかないんだ。
死んだらそれまで。
……ヴァンが余計な事言うからまた緊張してきた。
シーナはそれを察してか、またヴァンに回し蹴りを腹部に与える。
「あなたのせいで進まないじゃないですか。どう責任とってくれるんですか?命でですか?」
「お、お前……そんなに俺に死んでほしいのか……?」
あいかわらず、シーナはヴァンに容赦ないですね。
でも、なんだか見てて楽しいです。
いつの間にか、笑みがこぼれていた。
「……もう大丈夫みたいねぇ」
「そうだな。よし、思いっきりやってみろ」
「はい!」
「それじゃ、アタシは食事の支度をしとくわね」
ニノシルさんはそう言って部屋を後にした。
僕はヴァンに向かって走り、思い切り剣を振り下ろした……はずが途中ですっぽ抜けて、剣先がヴァンの横顔スレスレで通り過ぎ、壁に突き刺さって、ヴァンの毛が数本ヒラヒラ舞い落ちた。
シーンと静まる部屋内。
ヴァンに至っては、顔が毛皮の上からでもわかるくらい青くなっていた。
「ご、ごめん……」
「……一瞬花畑と川が見えた……」
それ、もしかしなくても三途の川ですよね……
慣れてない武器なのに、いきなり剣はマズイか……な。
「ねぇ……木刀ってない?やっぱり剣を使ったことないのに、いきなりは……」
「そうだな、ちょっと待ってろ」
「さすがに今のはからかうことができませんね……」
いつもからかうシーナも冗談は言えないようだ。
そりゃ、一歩ズレてたら……ね。
ヴァンも呼吸を整えてリラックスしようとしている。
ほんとにごめんなさい。
その後、僕は木刀で剣の修行に没頭していた。
ヴァンから「剣は叩くもんじゃない、切るもんだ」などと指摘を受けながらも、少しずつ形になっていった。
剣道の練習を見たことはあるけれど、構えや攻撃は全く違うから参考にはしにくい。
これは学ぶか独自であみだすしかないね。
「よおし、今日はここまでにしようか。ニノシルが飯を作ってくれたから食べに行くぞ。あと、コウジはヴァンと一緒に明日から初仕事だからな」
「あ……はい」
明日か……どんな仕事だろ、楽しみだな。
簡単な仕事って言ってたから、探し物か何かかな。
そして、ニノシルさんが作ってくれたご飯を食べ、僕は再び先ほどいた稽古場へ訪れた。
選んだ剣を握り、剣の素振りを始める。
そういえば、僕は今まで身体を動かすことでこんなに積極的になったことはなかったな。
しばらくすると、マスターがやってきた。
「精が出るな。無理しすぎると逆効果だぞ?」
「……僕はこの世界の知識が全くありません。別世界で生まれ育ち12年間生きました。そして、死を体感してこの世界の獣人の身体に転生……そんな僕をみんなは受け入れてくれて……すっごく嬉しかったんです。だから、少しでも強くなって恩を返したいんです」
ニッと笑うと、マスターもフッと笑った。
スタスタと近寄ってきたと思ったら、大きな掌でグシャグシャと頭を撫でてきた。
てか痛い痛い痛い!力が強すぎる!!
「無理して強くなんなくたっていいんだ。お前は自分に合ったペースで修行すりゃいい。無理したら逆に身体を壊して動けなくなるぞ?それに、俺達はもう仲間なんだ。仲間なら不足してるとこを助け合うものだろう?」
「マスター……」
「ほら、明日はお前の初出勤なんだ。帰って休め」
「……はい。ありがとうございます!」
ペコリと頭を下げ、僕はヴァンの元へ向かった。
何があったかは知らないけど、なぜかヴァンは壁に埋まっていた。
「……これ、そのうち壁が崩壊しちゃうんじゃない?」
「その時はヴァンに直させますよ」
サラリと答え、茶をすするシーナ。
おそらく、シーナにヴァンが蹴られてこうなったんだろうけど、今度はいったい何を言ったんだろうか?
なんだか、早くもこの光景が見慣れてしまったことに苦笑いしちゃうよ。
「おい……俺の心配は無し……か?」
「あら、もう復活したんですか」
「いやぁ……早くも慣れちゃったからかスルーしちゃった」
笑いながら言ったらヴァンがうなだれた。
なんか……ごめんなさい。
その後、ヴァンと一緒に帰って寝床に入る。
ヴァンがシャワーを浴びているから、ザーザーとシャワー音が聞こえてくる。
……あれ、なぜか鼻血が……
わーっ!垂れる垂れる!紙、紙!
あー……まさか同じ雄なのに想像して鼻血出すとか……まさか、僕にそっちの気が?
ないない!!それは絶対にない!
第一、僕は精神も身体も子供なんだから!!
……でも、人間の時は同じポーズでもそんなこと感じなかったのに……獣人だと……
だー!!だから考えるな、鼻血が出る!!
「おい……大丈夫か?」
タオルを首にひっかけ、Tシャツとパンツ姿のヴァンが牛乳らしきものを飲みながら来た。
なんというか……なぜか似合う。
「なんだ、鼻血出したのか?まさか、エロい事でも想像して……ガキだし、んなわけねぇか」
言えません、ヴァンがシャワー浴びてる姿を想像して鼻血出したなんて……
「お前も飲むか?羊乳」
え、牛乳じゃなくて羊乳なの?
牛じゃなくて羊かぁ……飲むのは初めてだ。
一口貰い、コクリと飲んでみる。
なんて言えばいいだろう……サッパリしてて味は牛乳に近いけど、喉越しは……なぜかオレンジジュースに近い。
あれ、羊乳は聞いたことあるけど、こんな感じなこと言ってたっけ?
こっちの世界の牛乳を飲んでみたいものだ。
「ねぇ、最初の仕事は簡単のだって言ってたけど……ヴァンの初仕事って何だったの?」
「ん?俺はガキの時からアイツに巻き込まれて鍛えられてたからな、ドリラビの討伐だ」
「ドリラビ?」
「ほっそいドリルのような角の生えた兎」
そんなのがいるんだ。
まだ剣も扱えてないから討伐はないな。
よし、早く寝て初仕事頑張ろう!
おやすみなさい!!
誰でも剣が横を飛んで行ったら怖いですよね




