妹の親友 優駿目線
優駿目線です。
俺は女が苦手だ。
勿論男が好きって訳ではない。
偏見もない。
俺を狙わなければ、女も男も偏見なんて持たない。
「再婚したい人ができた。」
親父がそう言った時、俺が思ったのは(会ってみないと解らないが、嫌だな。)だった。
俺も33歳だし、母親が欲しいなんて思いやしない。
だが親父が自分から結婚したいなんて初めてだったし、前向きに考えようと思った。
俺が7歳の時に両親が別れ、何度か親父の再婚相手にと女が家にやって来た。
小さい俺に母親が必要だと親父が考えたからだ。
その中の数人に襲われそうになったりと、女が嫌いになる理由は沢山あった。
思春期前の少年に何しようって言うんだ。
そのせいで思春期真っ只中の時は女が怖かったし、親父も好きになれる女が居なかったみたいで俺のために母親を見付けようとしなくなった。
そんな親父が結婚したい女が出来たらな、俺は反対しない。
俺に害があるなら、家を出ていけば良いだけだ。
だから、俺は幸恵さんと俺の妹になる萌恵に会わせたいと言われた時も嫌がらなかった。
妹なんて、嫌だな。
萌恵と初めてあった時さらに嫌だと思った。
「うわ~超イケメン!」
萌恵の目がキラキラしていた。
「お兄ちゃんと一緒に居たら洋ちゃんに嫉妬されちゃう‼」
「……ヨウチャン?」
「婚約者なの!夏に結婚するの!一緒に居られるのはちょっとだけだけど仲良くしてください‼」
「ああ。」
ハッキリ言って萌恵は俺に恋愛感情を抱くことは無かった。
今時の綿菓子みたいにフワフワしたイメージの萌恵は婚約者の三浦洋太の事が大好きで仕方がない感じで、俺も萌恵が可愛い妹だと思えた。
そんな萌恵が何時もと違う反応をしたのは洋太が遊びに来た時に話題に上がった"鈴ちゃん"の話の時だった。
「そう言えば、リンリンが昨日家に遊びに来てさ……」
「え?嫌だ‼浮気だ‼」
「いや、違うぞ‼」
「電話してやる!」
萌恵が携帯を急いで出すと、すぐに電話をかけ始めた。
「……鈴ちゃん!昨日洋ちゃんの家に遊びに行ったの?」
相手の声は聞こえない。
「なんで私と遊んでくれないの?私より洋ちゃんの方が良いの?鈴ちゃんが遊びたいって言ってくれたら萌恵は直ぐに鈴ちゃんの所に駆け付けるのに‼浮気だよ鈴ちゃん!」
妹よ、何かおかしいぞ?
洋太を見ればあからさまにショックをうけていた。
可哀想な洋太。
「じゃあ、今週の土曜日遊んでくれるの?嬉しい‼いっぱいおめかしして待ってる‼あ、お兄ちゃん!お兄ちゃん土曜日居る?」
「え?ああ。」
「やった!もしもし、萌恵のお兄ちゃんイケメンだから鈴ちゃんにも見て欲しいな‼好きになったら駄目だよ‼鈴ちゃんの一番は萌恵だからね!」
萌恵はひとしきり"鈴ちゃん"と会話を楽しむと電話を切った‼
「萌恵の方が浮気だ‼」
洋太の言い分はもっともだ。
「じゃあ、別れる?鈴ちゃんに嫉妬するなら結婚出来ません。」
俺はギョッとした。
あんなに洋太LOVEの萌恵がその鈴ちゃんと言う人物のためなら洋太を要らないと言う。
「リンリンが一番でも、良いから捨てないで‼」
「うん!洋ちゃんも大好きだよ!」
妹よ、洋太が可哀想だ。
だが、俺はその鈴ちゃんと言う人物に少しだけ興味をもった。
「鈴ちゃんってどんな人?」
妹に滅茶苦茶睨まれた!
なんで?
「リンリンは俺の幼馴染みでダサい地味子っすよ。見た目は。」
「見た目は?」
「ダサい地味子に見えるように気を使ってる綺麗系美人が正解っす。」
洋太の幼馴染み。
綺麗系美人。
「お兄ちゃん、鈴ちゃんに手をだしたら怒るからね。」
萌恵は鈴ちゃんの事になると性格がキツくなるな。
俺はそんなことを漠然と考えていた。
土曜日
朝から萌恵は落ち着かない様子でウロウロしていた。
その鈴ちゃんとやらは普通の女子だろうか?
面倒臭い女なら直ぐに用事があると言って出掛ければ良い。
そして、家に遊びに来た女性は体型の解らないようなダボついた服を着ていて真っ黒な黒髪で前髪も地味に長く、後ろの髪の毛も肩下20㎝ほどに伸ばしっぱなしで黒縁眼鏡のヤボったい女だった。
彼女は俺を見ると目を見開いて固まった。
普通の女子なら顔を赤らめたりキャーキャー言って来そうなもんだが、彼女は怯えたような顔をした。
何故だ?
ハッキリ言って鈴ちゃんは俺から距離をとろうとしているように見えた。
何故だ?
怯えられるような事はあまり無いと思う。
萌恵と鈴ちゃんは本当に仲良しだ。
鈴ちゃんは俺と目を合わせようともしない。
よくよく観察すれば鈴ちゃんは綺麗な顔立ちをしている。
磨けば光りまくるだろうに、何でこんなダサダサの格好をしているんだ?
見れば見るほど鈴ちゃんの事が気になった。
名前を呼べと言えばめちゃめちゃ嫌そうな顔をするし………
なのに萌恵には滅茶苦茶可愛い笑顔をむける。
その顔を見た時俺は、あの顔を俺に向けてほしいと思った。
今までに抱いたことのない感情に可笑しいと思った。
「………面白い。」
思わず呟いた言葉に首を傾げる鈴ちゃんは、もう可愛いとしか見えなくなっていた。
鈴ちゃんが帰ると萌恵は俺を睨んだ。
「鈴ちゃんにちょっかい出さないで‼」
「………それは約束出来ないな。」
「駄目!鈴ちゃんは私の‼」
「でも、萌恵は結婚して洋太のものになるんだろ?」
「鈴ちゃんの一番は私なの‼」
今思えば初めての兄妹喧嘩だった。
「それより、鈴ちゃんは何であんなダサダサの格好をしてるんだ?」
「男よけ。」
「は?」
「ちゃんと可愛い格好に可愛いメイクだってできるんだよ!でも、男が寄って来るのが面倒臭いからダサダサの格好で興味すら持たれないようにしてるの!」
「頭いい。」
「だから、興味持っちゃ駄目!」
萌恵が可愛くふくれて見せたが、俺にはきかない。
鈴ちゃん
あの子に興味をもって欲しい。
俺は初めての感情に思わずほくそ笑むのだった。
優駿兄さん鈴ちゃんをロックオン!




