告白
終わりが近いよ。
若社長にバレてしまった次の日。
私の回りには敵ばかりが居ると知った。
「あら!ごめんなさい‼」
食堂でカレーうどんを食べていた私。
白いブラウスにカレーがはねないように気を付けながら、百合ちゃんにそんなに気にするならカレーうどんにしなければ良いのに‼って笑われながらカレーうどんを食べていた私………
今や胸元にはねた………いや、こぼしたレベルのカレーが滴った状態である。
一部始終を見ていた百合ちゃんが真っ青になっている。
「まあ、そんなダサい服なら大丈夫ですよね?あ、それともクリーニング代いります?」
「「「クスクス……」」」
ぶつかって来たのは秘書課の若い子達だ。
私からしたら目をギラつかせた雌豹の群だ。
私は立ち上がると百合ちゃんが慌てて差し出したおしぼりで滴っているカレーをぬぐった。
「酷い事になってますよ‼目障りだから帰ってくれません?」
私はカレーうどんのどんぶりに手を突っ込んでからぶつかってきた雌豹のスーツの肩をガッチリとつかんで言った。
「全然気にしないで~目障りなのは貴女達も一緒だから。」
漸く自分の状況が解ったらしい彼女の悲鳴が食堂に響いた。
さらに手に残ったカレーを降って他の雌豹達にもカレー汁をプレゼントしてあげた。
「信じらんない‼あんたバカじゃないの?ブス目障りなのよブス!」
「そっくりそのままお返しするけど……クリーニング代いります?」
雌豹の群はプルプル震えながら去っていった。
「松本さん~‼」
百合ちゃんが完璧に怯えている。
ああ、何だかムカつきが収まらない。
私は百合ちゃんに笑顔を向けた。
「着替えてくる。」
「着替えありますか?」
「会社で着る用じゃないのがね………ちょっと気合い入れてくるわ!」
百合ちゃんが後片付けをしてくれている間に私は更衣室に急いだ。
エレベーターに乗り1階の更衣室から4階の経理部までむかう。
エレベーターの中の他の社員達に何故か見られているが知るか!
イライラしているのを悟られないように目があった人には笑顔をむけた。
3階でエレベーターが止まると若社長と紺野君と田中が立っていた。
3人とも驚いた顔をしていたが、若社長が一番最初にエレベーターに乗り込んだ。
3人が乗り込んで上に上がり始めたエレベーターの中、若社長が私に笑顔をむけて言った。
「鈴ちゃんは今日は美人仕様?」
「うるさい‼誰のせいだと思ってるんですか?」
思いっきりメンチ切ってしまった。
イライラしているのだから仕方がない。
「俺のせい?」
「黙って。」
「責任とろうか?」
「は?」
「結婚しよ。」
私は何を言われたのか解らず首をかしげた。
悪い冗談にもほどがある。
頭痛すらしてきそうだ。
「聞こえた?」
「聞こえません‼」
「じゃあ、もう一回。」
「しゃべるな‼」
私はエレベーターの扉が開くのと同時にエレベーターから飛び出した。
若社長は何を考えているんだ?
訳が解らない。
急いで自分のデスクの椅子に腰を下ろした。
「松本君、こr………だ、誰?………え?ま、松本君?」
部長がおしゃれ使用の私に動揺している。
部長の手に持っているファイルを確認すると用意していた書類を手渡した。
「え?整形?」
「プチでもお昼休みの間にはできないと思いますけど?」
「え?じゃあ、何で?」
「カレーうどんを溢してしまったので、ある服とそれに合うメイクをしただけです。」
「え?毎日そっちにしなよ‼回りがやる気出るから。」
部長にしげしげと見られた。
もう、今日は厄日だ。
そこに慌てた様子の若社長が現れ、私はぐったりとデスクに項垂れた。
「鈴ちゃん!メール見て‼」
「メール?」
スマホを取り出してメールボックスを開くと萌恵からメールが来ていた。
『鈴ちゃん、どうしよう!妊娠しちゃった。』
………私は一気に立ち上がった。
私は若社長に指を指して言った。
「ブライダルショップに電話!ドレスチェンジ!」
「あ、はい。」
私は洋太に電話をかけた。
『もしもしリンリン?』
「パンダみたいに呼ぶな‼お前やってくれたな‼バカ!どうしようも無いバカ!一生に一度の結婚式に何やってんの?殺すよ?」
『え?何が?』
………まさか、旦那になる洋太にまだ言ってないの?
「鈴ちゃん、たぶん、一番に鈴ちゃんで二番目に俺にメールしたんじゃないかな?」
私はため息をついて、電話ごしに洋太に同情した。
「ごめん。なんかごめん。萌恵が妊娠した。洋太今日からお父さんだから。後はゆっくり萌恵に聞いて。結婚式の変更は私が先に優駿さんと手配するから。」
『え?に、妊娠?‼‼‼‼‼‼‼‼‼』
私は電話を一方的に切った。
「部長、早退します。」
「あ、うん。」
「鈴ちゃん、どうやって行く気?」
「電車ですけど?」
「………送ってく。」
「は?」
「萌恵が心配する。だから、送ってく。」
「大丈夫ですよ。」
「その格好で電車乗ったって知ったら萌恵騒ぐだろ?赤ちゃんに良くない。」
「………わ、解りました。」
萌恵プラス赤ちゃん、なにその最強タッグ私に逆らえるわけないじゃない‼
私はこうして若社長ととりあえず萌恵のもとに向かうことになった。
車の中で若社長がゆっくりと言った。
「萌恵の子供、可愛いだろうな。」
「当たり前です‼」
「………鈴ちゃん。」
「はい?」
若社長はかけていた眼鏡をくいっと持ち上げて言った。
「萌恵はきっと結婚しても出産で里帰りするよね。」
「そうですね。」
「鈴ちゃん、萌恵と萌恵の赤ちゃんを一緒に育てたいって思わない?」
「思いますよ‼それは、勿論‼」
「………じゃあ、俺と結婚しよ。」
「は?」
ま、また、訳の解らない事を若社長が言い始めた。
「だって、本家はあの家だから萌恵はあの家に帰ってくる。俺と結婚すれば萌恵とずっと一緒にいれて、一緒に子育て出来るよ。」
「………」
「俺は鈴ちゃんが好きだよ。それに、俺が一番じゃなくても良いんだ。」
「え?」
「鈴ちゃんが萌恵を大事に思っているのを俺は理解している。だから、萌恵を最優先にして良い。誕生日ぐらいは一番にしてほしい気もするけど、それ以外は二番で良い。これは鈴ちゃんには都合が良いんじゃないかな?」
つ、都合が良い?
………私は何を言ったら良いのか解らなくなった。
それは、若社長にとっても失礼な事じゃないのか?
いや、絶対に失礼だ。
「暫く考えてみて。」
若社長の言葉は私の心に深く突き刺さったのだった。
若社長が仕掛けて来ました‼
鈴ちゃんどうなる?