焼き鳥屋
雪です。
10㎝って感じです。
ど、どうしてこうなった?
私は今、若社長の車に乗っている。
若社長に恥をかかせるわけにはいかないので化粧も綺麗目にしている。
「焼き鳥で良いんだよね?」
「う、は、はい。」
「帰りは代行にたのもう。飲みすぎないようにしないとだね。」
「はい。」
若社長と焼き鳥屋さん………
似合わない。
若社長ならイタリアンとかフレンチとかコース料理のイメージだ。
嫌だって言っても良いのに、若社長は紳士的だ。
「俺、実は居酒屋好きなんだよね‼」
「へ?」
「似合わないだろ?顔のせいでよく言われるんだよ‼仲間内皆でご飯食べに行く約束したのかと思って行ったら女の子1人しか居なくて、意識もしてないから近い店に入ろうとしたら『もっと素敵な店に連れていってくれるんだと思ってた~‼』なんて言われたり………だから鈴ちゃんが焼き鳥屋って言ってくれて嬉しかったんだ。」
何やら若社長を喜ばせてしまったらしい。
しかもついたお店はおしゃれさの欠片もない、ザ・居酒屋!
私はウキウキする気持ちを押さえられずに若社長を見た。
「ここ?」
「うん。ここ旨いんだよ。」
私は若社長の左手の袖を掴むと言った。
「入りましょう!」
「本当に好きなんだね。」
「はい。スッゴク好き!大好きなの………あ、飲んじゃう‼絶対飲んじゃう‼」
若社長はニコニコ笑って私を店の中にエスコートしてくれた。
「し、幸せ~‼」
私は美味しい焼き鳥と美味しいお酒にうっとりしていた。
「お嬢ちゃん、これも旨いんだぞ‼おっちゃんのちょっと食べて良いぞ‼」
「良いの!おっちゃん男前!好きになっちゃう‼」
「王子みたいな男連れて浮気か~?おっちゃん勝てる気がしないぞ~‼」
私は若社長を見ると言った。
「楽しいです。」
「うん。楽しいなら良かった。」
私はおっちゃんにもらった砂肝をモグモグしながらちびちびと日本酒を煽る若社長に私の前にある、だし巻きを一口大に切って若社長の口元に近づけた。
「優駿さん、はい、あーん。」
「………あーん。」
「美味しい?」
「………うん。」
私がニコッと笑うと若社長は困ったように笑い言った。
「また、誘っても良い?」
「はい!また来たいです!」
「良かった。そろそろ帰らないと萌恵に怒られちゃうかな?」
「………そうですね。酔いが一瞬で覚めました。」
「ハハハ!萌恵がそんなに怖い?」
「怖くは無いです。でも萌恵の事大好きだから、萌恵に心配かけたくないんです………心配かけちゃってますけどね。」
若社長はゆっくり私の頭を撫でた。
「鈴ちゃんが良い子で俺も嬉しい。」
若社長の手は冷たくて気持ちが良い。
私は頭の上の手を掴むと自分の頬に当てて笑った。
「冷たくて気持ちが良い。」
「………」
「ありがとうございます。………酔いました。帰ります。」
「代行呼ぶよ。送ってもらおう。」
若社長は顔から離れた手を掴むとニコッと笑った。
代行に家まで送ってもらい若社長に頭を下げた。
「今日はありがとうございました。ごちそうさまです。」
「楽しかったよ。また行こうね。」
若社長はそれだけ言って手をふって帰っていった。
自分の部屋の中、私は何だかぼーとした頭で萌恵にメールを送った。
『萌恵、ごめんね。実は言って無かったけど、今日お兄さんと居酒屋に行ってきたよ。お兄さんは紳士的だったし、話も楽しかったし、私が回りのおじちゃん達と仲良くしても怒らなかった。萌恵のお兄さんはいい人だよ。次は萌恵も一緒に行こうね‼美味しい焼き鳥屋さんだったから萌恵にも食べさせたいよ‼』
萌恵からの返信は滅茶苦茶早かった。
『大丈夫?襲われなかった?鈴ちゃんが楽しかったなら良いけど、今お家に居るの?』
『楽しかったよ。だから萌恵も次は一緒に行こうね。ちなみに送ってもらって家にちゃんといるよ‼お兄さんにありがとうを言っといてね‼じゃあ、おやすみなさい。』
『そっか、なら良かった。おやすみなさい♪』
萌恵からのメールを見つめながら私はベッドに倒れこんだ。
うん、地味に酔った。
布団が気持ちいい。
このまま寝ちゃいたい。
私の瞼はゆっくりと閉じていったのだった。
寒い。
眠い。
辛い。
読んでくださってありがとうございます。