春男の書き方
春男の書き方
作家にはそれぞれの作品の書き方というものがある。
登場人物から順番に考える先生もいれば、ラストシーンから考える先生もいる。書いていて、途中から物語の進行を考える先生もいる。
オレが担当している、双子の作家のように、共同で作家活動をしている作家もいる。彼らの場合は、キャラクターと物語を書く担当に別れているのだが。
そんななか、春男はと言えば、こまめな話をたくさん作ってそれをつなぎ合わせるという、変わった作り方をする。いや、こまめに作るという形はそんなに特殊なことではない。
春男の作り方が変わっているのは、主人公を決めずに、物語の一部を書く。そのせいか、つなげてみると、おかしなことになることが多々ある。たとえば、スカートを着ているという話と、海パンで海にいる話がくっつくとどうなるか。どっちにしろ、変人だ。
ほかにも、コートを着ているのに、そとでひまわりを見る。季節はいつなんだということもある。
ほかにも、作品を書いている途中で現実世界で見た、ドラマやバラエティー番組の影響で、台詞が変わってしまうことなど、かなり高い頻度で起こる。だんだんと、どこの地方の人なのか、よくわからなくなる場合もある。
まぁ、春男も気がつくのか、おかしい部分はだいぶ本人の手で直されるのだが、最終的には、オレの手がかかる。どこから持ち出してきたのかわからないような日本語も出てくるし、調べないと本当にこの意味でいいのかわかならい言葉もある。
春男の担当になってから、勉強することが増えたのではないだろうか。季節感もでるようになった。リンゴやスイカのようにわかりやすいものだけではなく、プラムの時期がいつ、などということなど、普段から知っている人がどれだけいることやら。
カレンダーの撮影時期、バザーの時期、バスローブの価格、すずらんの咲く時期、まつぼっくりの落下時期やその地方などなど。とにかく知識は増える。
オレに言わせると、よくこれで作品ができるものだとつくづく思う。
おかげで、使っていない部分も大量に出てくるのだ。いつか使うと保存されたフロッピーがまた新たに追加された。せめて、春夏秋冬くらいには分類してくれないだろうか、と思っているのだが、いまのところ、そんな予定はまったくないようだ。
「僕の知っている作家は携帯で長編小説を書くよ。あれもすごいよね、自分の中でその人物が出来上がってないと、できないよねぇ。」
春男はのんきに言う。
「向こうの作家はお前のことを知っているのか?」
「知らない。」
そんなことだろう……。春男の記憶もあまりあてにはできないのだが。
「ん?春男、ここが変だ。」
「どこが?」
作品を読みながら、声をかけると春男が振り返った。
「なんで、アメジストが赤いんだよ。」
「あれ、赤くないっけ?」
「赤いのはルビーだろう?」
「ルビーは緑だろう?」
こうしたやりとりの後、オレは結局パソコンに向かって調べることになる。会社で見ていると、隣の社員に冷やかされる。
「彼女へのプレゼントでしょ?」と。
春男の調べ物をしていると、作品のために資料ですと言っても信用されない事が多い。調べていっても使われないことも多い。オレはため息をつきながら、春男の使わない部分の入ったフロッピーが増えないことを願っているのだ。




