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呪い VS 呪い 上

呪い VS 呪い


春男には伝説がある。それは自分の担当者を自らの意思でやめさせてしまう能力である。だが、編集長は「それは、あいつのかける呪いだ!」

と、言い切っている。

「あいつの愚痴で担当者がこれ以上、やめていくなら作家の方を切ってやる!」

と、編集長が青筋をたてて、言い切るような作家だ。


春男がいままでにやめさせてしまった担当者は全部で四人。一人目は駆け落ち、二人目は胃潰瘍で倒れ、三人目は入院中に、オレが春男を見ている間に、田舎へ引っ越してしまった。

オレは四番目と六番目の担当者を兼ねている。五番目の編集員は俺が風邪で倒れている間に、たった一回会っただけで、自分の夢をかなえる事を決意して、そのまま南極に行ってしまった。いまでも、ときどき春男の元には写真が届く。

「お前以外にあいつには担当者をつけん!呪われるのは一人でいいんだ!」

とも編集長は言い切り、また決めているようだ。まぁ、オレの場合は、別に呪いにかからなかったようなのだが。


ところで春男のような伝説をもつ作家は少なくない。逆にずっと同じ人間が担当者を続ける方が珍しい。しかし担当者が変わるだけで春男のようにこの世界から引退させてしまう作家は春男くらいなものだろう……。


 そしてもう一人、春男とは別の伝説をもつ女性がいた…。

その日はほかの作家の家から戻ってきたところだった。編集長の怒鳴り声が廊下まで聞こえてきたのだ。ただでさえ、声が大きいのだが、怒り度と声の大きさが比例するようで、かなり怒っているようだ。

「また貰えなかっただと!お前、仏の上条先生からもらえないとはどういうことだ!」

 とにかく編集長の声はでかいことだけはわかった。そして当然怒鳴っているのだから機嫌も、そうとう悪いこともわかった。オレは溜め息を付いて会社から再び出た。話をしようにも、あれだけ怒鳴っている時に声をかけたら、こっちまでどやされるという事をオレは知っていたからだ。

「あれだと……一時間でいいな。」


オレは喫茶店で時間を潰した。

一時間後もどると、その怒られていた当人である、岡田 真由は泣きはらした目をしながらオレと擦れ違った。

「佐々木!」

 オレを呼ぶ声がとげとげしい…一時間では足りなかっただろうか。

「なんでしょう?」

「お前独身だったな?」

なんだというのか、急に。

「そうですけど?」

「ついでに婚約者がいるとか恋人がいるとかじゃないな?」

 さすがにそこまでいきなり言われるとカチンと来る。

「だったらなんだっていうんですか!」

「岡田と結婚しろ。」

「…はぁ!?」

「結婚でもしてくれ!そして引退させろ!あいつに原稿を取ってこさせるのは無理だ!悪魔だ!呪いなんだぁ〜!君が結婚すれば犠牲は一人ですむ!」

「そんな無茶な!」

「編集長〜。もういっかいチャンスを下さい〜これが最後にしますからぁ〜。」

 戻ってきた岡田はまだ、半べそ状態だった。

「無理だ!仏の上条先生の作品を落とすなんて!」

「え!?貰えなかったの?」


オレも目を丸くした。

「はい……。」

岡田はうなだれていた。上条先生といえば、担当者の間でも仏と言われるほど、きちんと締切りには間に合う作家だ。長年作家をやっているし、売り上げも春男とは比べ物にもならない。

「そこをなんとかぁ〜。」

岡田はとにかく縋り付くように編集長に拝み倒していた。

「無理だ!お前の呪いに勝てる作家なんか……。」


 編集長は急に何か思いついたように、無言でオレの顔をじっと見つめた。なんだか、さむい空気が流れたようにオレには感じられた。それは嫌な予感がした。そしてそれはほとんど当たる。

「わかった、佐々木、あの作家を貸せ。」

やっぱり…。

「春男は彼女には無理ですよ。」

「いーや、性格はともかく、作品の締切りだけは仏に近い。どんな作家でもやるよな?

「は、はぁ……。」

岡田は不安そうだ。

「やるのか、やらないのか!」

「やります!」


 こうして彼女は一ヶ月、春男の担当者になった。逆にオレは春男の家に出入り禁止命令が下された。まぁ、別に春男の家に毎日顔を出しているわけでもないので、できそうだった。

とりあえず、春男の家までは案内した。

「初めまして。岡田 真由です。よろしくお願いします。」

岡田は緊張したお面持ちで、ペコンと頭を下げた。


「いいけど……とりあえずスカートで来るのはやめたほうがいいみたいだね。」

春男はため息をついた。

「そう……ですね……。」

 春男の家に送られて来た段ボールをタイトスカートではまたぎきれなかったようだ。

 とりあえず、明日から来るということになって、岡田は帰っていった。

「珍しいね、あの編集長があたらしい人を僕のところによこすなんて。とくに女性だもんなぁ。なにかあるのかい?」

 春男もだんだん鋭い。

「別にずっとじゃないしな。ところで……。」


 オレは目の前の食事に言葉を失った。

特別に嫌いではないが好きすぎない食材というものが、食事の8割を占めているのではないかとオレは思う。夏と言えば、かき氷のような冷たいものを思い浮かべていた昔。いまではすっかり春男の料理に洗脳されて野菜が浮かぶようになっている。

「あー、お前、結婚遠いな。」

いまのオレの生活の日々をしる人は声をそろえてそう言うのだ。しかし、夏の野菜と言えばトウモロコシ。それは間違っていない。が!

コーンスープにコーンの入っているハンバーグ、サラダにも添えられ、しまいには。

「どこに、かき氷にトウモロコシを乗っける奴がいるんだ!」

オレはぶちぶちと言ったが春男は平然としていた。

「日本じゃ見ないけどアジアにはあるよ。別に豆の変わりだと思えば、そんなにまずくないよ。」

たしかに、まずくはなかった。しかし、違和感だけは拭い去れない。

「で。おふくろさんはいま、トウモロコシにはまっているのか?」

 大抵、こんな大量に荷物を送ってくるのは、春男の母親だ。

「いや。屋台をやるはずだった友人が夜逃げしたらしくって、その資金援助のために、父さんがトウモロコシを大量に買い込んだらしいよ。」


「夜逃げ……なにやったんだよ、その人。」

「さぁ?父さんの知り合いみたいだから、よくわからない。」

「なるほど。」

「明日、……岡田さんだっけ?彼女にも食べさせようっと。」

春男はのんきに言った。さて、どうなることやら……。オレはなんだか、うきうきしている様子の春男と違って心がどんよりしてきた。


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