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五月十一日 自宅 (1/3)
次に目を覚ました場所は、自分の部屋だった。
寝慣れたベッドに、くすんだ天井。開いた窓から、夕陽のオレンジになった光がさしこんでおり、レースのカーテンが小さく揺れている。外からは、カラスの鳴き声が聞こえていた。
(……もう、現実に帰ってきた?)
ふと戸惑ったが、その疑問はすぐに解消された。
久渡はむくりと起き上がると、自分の机を見やった。
そこには置きっぱなしにしていた疑似体験の資料が、ない。カレンダーを見れば、月日は五月の暦を示している。つまり、ここは過去における自分の部屋であり、疑似体験はまだ続いていることになる。
階段を降りて、家の中を見回ると、他に人の気配はなかった。
(五月で、親が家にいないってことは……あの日だよな……)
ゴールデンウィークはとっくに終わっている。
この日は、五月十一日の金曜日に違いない。ちょうど両親が夫婦だけの旅行で家を空けており、家に自分一人しかいなかった日である。
状況を確認したところで、ちょうど家のインターホンが鳴った。
(そう……。だから僕はこの日、加子を家に呼んだんだ――)