六月某日 通夜の果てに
久渡が巡里加子の死を知ったのは、その喧嘩をした日の晩のことだった。
死因は車による交通事故。運転手と加子両方の不注意ということだ。視界の悪い雨の夜、彼女が住宅街の小道から飛び出したところに、運悪く法定速度を越えた車が走っていた。文字面で並べればそれだけのことだったらしい。
警察の検死が済むと、通夜は早々に行われた。
線香の香りに、坊主の唱える経文。
葬儀場の参列者は、誰もがうなだれて、まるで悲しみを運ぶ黒アリのようだった。
しめっぽい空気の中、彼女の遺影写真だけが微笑みを浮かべている。その笑顔が、よけいに参列者を泣かせて、親族を涙に沈めて――彼に後悔を抱かせた。
(……僕が、加子を殺したようなものだ……)
どうして、あんなくだらない口論をしてしまったのか――
久渡が悔く。だが、いくら悔やんだところで、もう遅い。
償いは、もうできない。
それから数日も経てば、日常は再び始まった。
生徒達はみな、加子の死などは忘れたように振舞っている。それが普通のコトなのだろう。
たったそれだけの普通のことが久渡にはできなかった。なにも手につかず、なにも考えられない。どうしても前に、進めない――彼女の死は、あまりに唐突だった。
彼だけが、すっかり世界に置き去りにされたようだった。
移り変わる暦――気がつけば梅雨が明けて、夏が訪れている。
そうして得意の試験の結果までもが散々なものに終わると、大人たちは泡をくったように面談を実施して、横暴な言動を口にした。
「巡里がいなくなって、つらいのはわかる。でもな、お前まで人生を棒に振ることはないだろ――」
久渡はさらに虚しくなった。彼らはなにも分かっていない。分かる気もない。ただ欲しているだけだ。難関校の合格者の数字を――
――久渡が、本当にそうしたいと思ってるならね――
加子の言葉が、まるで潮の満ち引きのように、久渡の心を支配していた。
どんなに隠そうと思っても、忘れようと思っても、それは絶対に消えてはくれない。
毎日、毎晩、うなされて……
そして、彼は思い出した。疑似体験のことを――