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ハーメルン王国・大将ジョシュア=フリークの逆襲

 

「それにしても本当に驚いたよ!君、本当に魔力0なんだね!それにめちゃくちゃ強い!!さっきから影で君の戦いを見てたけど、僕なんかじゃとても太刀打ちできないよ!」


 ハーメルンの大将と名乗る青年は軽い調子でヒジリに話しかけた。

 歳はヒジリと20歳前後、サラサラの金髪に整った顔立ち、そして高級そうなマントを方だけでだらしなく羽織っており、腰には立派な剣が携えてある。

 先程の軍人達とは違い、リネアと同じく高貴な身分であることが一目で分かる。


「気を付けてください。彼、すごい魔力です……」


 敵の大将・ジョシュアの異様な行動に、ヒジリとリネアは警戒心を強める。

 ここ異世界・ヴェルドの代理戦争において、大将は守られるべきものであり、リネアのような国王やその血統の者等身分の高い人物が務めることが多い。

 そのため、自軍の兵が劣勢に立つ状況に置かれた場合、大将がとれる行動は降伏するか、逃亡するかくらいしかない。

 そんな中、今ヒジリとリネアの目の前にいる青年は自軍が全滅している状況で敵の前にのこのこ出て、余裕の態度を見せている。

 そして、その余裕の源となっているのが、彼・ジョシュアの多大な魔力量である。

 ここヴェルドの代理戦争において、各国の最大の武器となっているのが魔法である。

 その魔法も魔力なしでは扱えず、魔法の威力・使用回数は魔力の大きさによって比例する。

 そのため、魔力量の多い魔術師はかなり重宝される。

 そして、目の前の男、ジョシュアの魔力量は、


「……魔力値78000……ランクAです……」


 リネアが額に汗をにじませながらヒジリに聞こえるようにひっそり呟く。

 このヴェルドにおいて、魔力を有する者は他人の魔力値を一目見れば正確に把握することができるものの、異世界人で魔力等持ち合わせていないヒジリには全く分からないのだ。

 しかし、


「AだのBだの魔力だの言われても俺には分からん。―だが、少なくともこいつがさっきまで戦ってた奴らより手強いってことくらいは俺でも分かる。」


 元の世界で散々戦争に参加させられてきたヒジリである。相手の持つ雰囲気でどれくらい強いのかは大体分かるのだ。


「なになに?そんなに警戒しなくても大丈夫だよ?僕なんかより君の方が強いみたいだし」


 警戒する二人にジョシュアは相変わらず軽い調子で話しかけるが……


「まぁ、『普通に戦えば』の話だけどね」


 次の瞬間ニヤリと不敵な笑みを浮かべると一気に駆け出す。


「―炎を持って敵を焼き尽くせ―灼熱地獄(ファイヤー)!」


 ジョシュアは走りながら詠唱を行い、左手から強大な炎を放つ。


「!!」


(さっきの奴らと同じ魔法のはずなのにこんなに威力が違うもんなのかよ!……だが……)


(ライト)!」


 ヒジリは向かってくる炎に向かって左手を突き出し短く呟く。

 炎が当たる寸前、辺り一帯が強烈な光に包まれる。

 同時にヒジリはジョシュアの懐に一気に踏み込み、首筋めがけて手套を繰り出す。

 しかし……


「へえ、さすがじゃん!さすが、僕の軍を一人で壊滅しただけあるね!」


 ジョシュアは半身振り向きながら右手で手套を防ぎながら余裕の表情を浮かべている。


「……そりゃどうもッ!」


 刹那、ヒジリはバックステップで一旦距離を取る。


「……そんな!!」


 今まで全ての相手を一撃で倒してきたヒジリの攻撃が防がれ、リネアは驚愕の表情を浮かべる。


「そんなに驚くこともないだろ?目が見えなくたって足音で大体の位置は分かるし。それに今の攻撃はさっきまでの戦闘で何回も見てるんだから防いだところで何の自慢にもならないよ。―そうだろ、そこの君?」


 ジョシュアは挑発的な目でヒジリを見やる。


「せっかく初めて防いだんだ。遠慮せずに喜んどけよ。あと俺の名前はヒジリだ。霧崎ヒジリ。こっちもせっかくだから覚えとけ。」


(やっぱりさっきまでの奴らとは格が違うな……)


「それじゃあ、ここは素直に喜んどくとするよ。ありがとう!―お礼に僕もちょっと本気を出すことにするよ!―灼熱地獄(ファイヤー)!」


 再び、ジョシュアの手から炎が放たれる。しかし、威力は先程よりも劣る。


(なるほど。魔力量以外にも、詠唱の長さで威力も違うみてぇだな)


(ライト)


 ヒジリも先程と同じように光を生み出し炎魔法を防ぐ。

 そして、やはり同じように敵の懐に踏み込もうと足に力を入れる。

 しかし……


「いいのかい?僕の方ばかり気にしていて……」


 ジョシュアはニヤリと笑う、呟く。


局地炎熱(ヒート・ポイント)


「きゃあああ!」

「!!」


 直後、ヒジリの後から悲鳴が上がる。

 ヒジリは急停止し振り返ると、光が和らいでいるその先が炎に包まれていた。


「リネア!!」


 ヒジリは叫び、リネアの方に急いで駆け寄る。


(ライト)!」


 リネアに触れながら叫ぶと、次の瞬間リネアを覆っていた炎が光に変わる。


「おい、大丈夫か!?」


 リネアを抱きかかえながら必死に問いかける。


「あ、ありがとうございます……こ、これくらい大丈夫です……」


 あちこち、服が焼けていた来、軽い火傷はあるものの、すぐに対処したため重症は免れた。

 しかし……


「今度は僕の方が御留守だよ!」

「!!」


後ろからの声に咄嗟に振り返った瞬間、


ザシュ


「ぐはッ!」


 ヒジリから血飛沫が飛ぶ。


「ヒジリさん!!」


 その血飛沫を浴びたジョシュアは剣を片手に不敵に笑っている。

 ヒジリは、左の肩口から左胸にかけて刀傷を押さえながらジョシュアを睨みつける。その抑えた手からは血が次々と滴り落ちている。


「ダメじゃん、敵に背中を見せちゃ。」


 そんなヒジリにジョシュアは口の端を釣り上げ、挑発的に見下す。


「まさか、女を狙うなんて卑怯だ!とか言わないよね?戦争で敵の大将を狙うなんて当然でしょ?」

「……くっ!」

「だから言ったじゃん。『普通に戦えば君の方が強い』って」


 ジョシュアの言うとおり、純粋な戦闘能力に限れば、ヒジリの方が一枚上手である。


 しかし、ここは戦場でヒジリはリネアという大将を守りながら戦わなくてはならない。さらに相手は先程までのように簡単に片づけられるような敵ではない。


(チッ!俺としたことが、ちょっと戦争から遠ざかっただけでこんな初歩的なミスを犯すなんてな)


「ヒジリさん!ここは一旦撤退しましょう!早く手当てをしないと!!」


 リネアが目に涙を浮かべながら、ヒジリに訴えかける。


「大丈夫だ。これくらい問題ねぇよ。」


 ヒジリは、苦悶の表情を浮かべて額に脂汗を浮かべながらも無理に取り繕う。


「しかし……」

「おいおい、リネア。何普通に心配してるんだよ。ヒジリ君は君のせいでこの傷を負ったんだよ。普通もっと責任感じるんじゃないのかな?」


 ヒジリとリネアのやり取りを見ていたジョシュアが意地悪い笑みを湛えてながら挑発する。


「そ、それは……」

「いやあ。ヒジリ君も災難だよね。こんな足手まといの下に就いたもんだから僕みたいな格下に負けちゃって。―どうだい?この戦争が終わったら僕の下で働かないかい?給料も弾むし、親衛隊の隊長として迎えたあげるよ!」


 さらにジョシュアの挑発は続く。


「安心して。リネアも殺さないし、なんなら僕の婚約者として迎えてあげるよ!!―だからリネア!、降伏してくれよ!」


 リネアは俯き、ただ黙って唇を噛みしめる。


「早く決断してくれよ!―じゃないとヒジリ君を殺すよ」


 そして、ジョシュアは先程までのヘラヘラした表情から一転、冷酷な目つきでリネアに決断を迫る。

 その表情に気圧されるように、リネアは震える口を開き、


「わ、我がブリッツは……こ、こうふ―」

「やれるもんならやってみろよ、クソガキ」


 リネアの声はヒジリの怒りに満ちた鋭い声によってかき消された。


「―なんだよ、負け惜しみ?」


 ジョシュアが鋭い目つきでヒジリを睨みつける。


「やれやれ、人が手加減してやってれば調子に乗りやがって……ちょっとお仕置きが必要みてぇだな!」


 ヒジリが嘲るような口調で応対しながら立ちあがる。


「リネアがいて、お前の攻撃は完璧に攻略済み。さらにお前自身怪我をしている……この状況でお前に勝ち目なんてあるわけないだろ!」


 ヒジリの余裕を感じさせる挑発返しにジョシュアの口調は強くなる。


「まぁ、そんなに怒るなよ。何ならハンデでもやろうか?」


 言いながらリネアを促し立ち上がらせる。


「もう謝ったって許すもんか!!この死に損ないが!!」



 ジョシュアは遂に激昂し、


「―炎を持って敵を焼き尽くせ―灼熱地獄(ファイヤー)!」


 その手から一瞬で辺り一帯を焼き払わんばかりの威力の炎が繰り出される。

 しかし、ヒジリは余裕の表情で、


「さて、やるか。」


 片手を向かってくる炎に向けて今までと同じように、


(ライト)


 巨大な炎は一瞬にして光に変わる。


「馬鹿の一つ覚えにっ!それなら、」


局地炎熱(ヒート・ポイント)二重(ダブル)


 何もないところからいきなり炎が噴き出し、その炎が身体を包む。―ヒジリとリネア二人同時に―


「きゃああ!」

「っく!」

「はははっ!一か所しか炎を出せないわけないだろ!」


 ヒジリは全身を襲う炎に苦悶の表情を見せながらもリネアに駆け寄り、抱きかかえると


(ライト)


 二人を包んだ炎は光へと変わる。

 しかし、


「偉そうなこと言っておいて、さっきと全く同じゃないか!僕を馬鹿にした罰だ!死ね!!」


 背後には先ほどと同じように既にジョシュアが迫っており、ヒジリは手を向けるが、


「遅いんだよ!死ね!!」


 居合切りの如く剣を横薙いだ。

 剣が迫りリネアは思わず目をつぶる。


重力(グラヴィティ)


 刹那、地に伏していたのは―ジョシュアの方だった。


「っな!?」

「どうした?いきなり土下座なんかして。」


 何が起こったのか信じられないといった表情で両手両膝をついているジョシュアを見下ろしながらヒジリは嘲るが、


「まぁ、謝っても許してやらねぇけどな!」


ドカッ


「んぐぁ!」


 鋭い目つきで渾身の蹴りをジョシュアの顔面に叩きつける。

 蹴りをくらったジョシュアは、完全に気を失い仰向けに倒れている。


「悪いな。俺は別に光操作の能力者じゃねぇんだ。―あんまり化け物を舐めるなよ!」


 そして、鋭い目で倒れているジョシュアに冷たく言い放つ。


『ブリッツ王国VSハーメルンの代理戦争はブリッツ王国の勝利とする!!』


 直後、審判の宣言が戦場一体に響きわたった。


「ヒジリさん!大丈夫ですか!?早く怪我の手当てをしないと!!」


 ヒジリの下にリネアが心配そうな顔で駆け寄る。


「これくらい問題ねぇよ。―久々の実戦でちょっと油断しちまったな。」


 ヒジリは自嘲気味に笑い、そっぽを向く。


「それでも手当てはしないといけません!見せてください!!」


しかし、リネアは強引にヒジリを引き寄せる。


「ここでは応急処置しかできませんが……」


 そう言いながらあらかじめ持ってきていた小さなウエストバッグから包帯を取り出し、ヒジリの傷口に巻きつける。


「いや、だから別にいいって―」

「やらせて下さい!!」


 ヒジリが照れくさそうに断ろうとするが、リネアの声に遮られる。


「―私にはこれくらいしかできませんので……」


 リネアは俯き、悲しそうな表情を浮かべながら自嘲気味に笑った。

 先程の戦闘で自分が完全に足手まといだったこと、そしてそのせいでヒジリが怪我を負ったことに負い目を感じているのだろう。


「―お前を危険な前線に連れてきたのは俺の作戦だ。その結果、お前にもかなり危ない目に遭わせた。」


 ヒジリは真剣な目でリネアを見やる。

 着ていた服はあちこち焼け焦げ、さらに重症ではないものの火傷もいくつか散見される。


「だからお前が気にするようなことじゃ―」

「それでも!私はヒジリさんの足手まといにはなりたくありません!少しでも力になりたいのです!!私はあなたの『本当の味方』なんですから!」


 リネアは必死に叫ぶ。リネアには一つの不安が芽生えていた。

 リネアはヒジリにとっての『本当の味方』でいたいと思っている。

 しかし、ヒジリはリネアにとっての大きな手助けになっていても、その逆は今のところない。

 これでは『本当の味方』ではないのではないか?自分はただの重荷にしかなっていないのではないか?という焦燥感が、ジョシュアとの戦いを通してリネアを襲っていたのだ。

 そんなリネアの気持ちを察したのか、ヒジリはゆっくりと立ち上がると、


「別にいいじゃねぇか、足引っ張ったって。お前のその気持ちはありがたい。だけど、人にはできないこともあるし、一人ではどうしようもないことだってある。―出来ないことがあれば俺を頼ればいい。全てを懸けて助けてやる。その代わり俺が困ってたら全てを懸けて助けてくれ。―それが俺が思う『本当の味方』だ。」

「でも、私がヒジリさんを助けられることなんて……」


 リネアの言葉を遮り、ヒジリは照れくさそうにリネアから目を反らしながら言葉を紡ぐ。


「別に慌てる必要なんてねぇよ。今助けられることがないなら、俺が助けを求めるまで見守ってるだけでいい。―俺はそれだけで十分だよ。」

「はい!ありがとうございます!!」


 リネアは目に涙を浮かべながらも眩しいほどの満面の笑みで返事をする。


「お、おう。」


 そんなリネアに対しても、お礼を言われ慣れていないヒジリは素直に慣れず、不器用に返答する。


「さ、さっさと帰るぞ!」


 ヒジリは居た堪れなくなり、踵を返して一人歩きだす。


「そうですね。―でも」

「おわっ」


 リネアはヒジリの肩に手を回し自分の方に引き寄せ、ヒジリを支える体制になる。


「ヒジリさんは怪我されているんです!無理はしないように!」

「いや、別に―」

「困ってるのを見つけたら全てを懸けて助けるのが『本当の味方』なんですよね?」


 リネアは悪戯っぽく笑う。


「し、仕方ねぇな……」


 ヒジリは頬を赤くしてそっぽを向く。

 それを見てリネアはまたくすくすと笑う。

 しかし、リネアは一方で


(最後の技はまた見たことのないものでした……それにしても光を屈折させて私を隠していた技といい、一体どれだけの能力を持っているんでしょうか?)


 ヒジリのことは心強いと思いつつも底知れない強さを目の当たりにして不安を感じる自分に気付いていた。


「俺の能力なら帰ってから教えてやるから安心しとけ。」


 そんなリネアを見透かすようにヒジリが口を開く。


「いえ、私は別に……」


 今度はリネアが目を反らす。


「別に秘密にしておくことでもねぇし、ダンのおっさんも交えてちゃんと話してやるよ。―『本当の味方』同士で遠慮はなしだ。」

「はい!」

「というわけで俺の労働時間は1日1時間にしてくれ。」

「子供のゲームの時間じゃないんですから!!」

「仕方がない。それじゃあ、勤務時間は他の奴と一緒でいい。その代わり週休5日制で頼む。」

「や、休みすぎです!ヒジリさんはもっと遠慮してください!」


 そんな他愛ない会話をしながら、二人はブリッツ王国城まで歩いて行った。





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