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ブリッツVSハーメルン~100対3からの逆襲~後篇

「囲め、囲めー!!」

「相手は未知の魔法を使う!油断するな!!」


 上位魔導士達の指示の下、一般兵士達は迅速な動きを見せ、ものの数十秒でヒジリを完全に包囲してしまった。

 一方ヒジリは大見栄きって名乗ったはいいものの、一般兵士達に取り囲まれるの腕を組んでボケっと眺めているだけで何の行動を起こす素振りも見せない。

 そんなヒジリに一人の上級魔導士の男が話しかける。


「おい、貴様。先ほどブリッツ王国の者だと言っていたが……バズとトニックを連れ去ったのは貴様か?」

「あ?そのバスとかトラックとかが誰かは知らんが、お前んとこの魔導士2人ならうちの本陣で寝てるはずだぞ」


 ヒジリは相手の男の問いにあからさまに面倒くさそうなオーラを醸し出して答える。


「おい、聞いたか?こいつ本当にバズ様とトニック様を捕えたらしいぞ!」

「どう考えても嘘に決まってる!こんなヤル気0の奴にあのお二方がやられるわけないだろ!!……」

「確かに。こいつ魔力もまったくねぇし……」


 包囲した後も全く微動だにしないヒジリに、兵士達は戸惑いを見せる。


「なぁ、悪いんだけど早く大将出してくんね?さっさと終わらせて帰りたいんだけど」


 そんな兵士達の言動など全く意に介さず、目を半開きにしたヤル気のない表情で口を開く。


「そんなにうちの大将に合いたければ自分で探しに行けばいい。―まぁ、この状況を切り抜けられればの話しだがな!!―行け!!」


 そう言って、さっきヒジリに質問した魔導士とは別のモヒカン頭をした魔導士が兵士達に攻撃を命じる。

 そして、その命令の直後、50名程の兵士達が四方八方から一斉に襲い掛かる。


「さすがにこの人数では危険か……しゃあない。ここはあれでいくか!……面倒くせ……」


 少し真剣さを思い出したような顔になり、ヒジリは小さく呟く。


(ライト)


 刹那、辺り一帯が白く強烈な光に包まれる。

 そして……


「ぐあっ!」

「ど、どうし―ぐはっ!!」

「クソッ!敵が見え―ぐっ……。」


 光で視界が効かないなか、聞こえるのは何かを素手で殴る鈍い音とハーメルンの兵士達の呻き声だけである。

 そして、しばらくして視界が回復する。


「な、なんだこれは……っつーか、なんでそいつがここに……?」


 モヒカンの魔導士が驚きの声を上げる。

 その眼前に広がっているのは、50人程のハーメルンの兵士達が地面に横たわっている様と一人無傷のまま立っているヒジリの姿だけ……ではなかった。

 ヒジリの横にもう一人、肩までのショートカットヘアに白い肌、そして小柄なのにとある一か所だけが豊満になっているロリ巨乳少女―リネアが立っていたのだ。

 予想外過ぎる光景に上級魔導士達も驚きのあまり固まっている。

 そして、そんな彼らにヒジリは振り返り


「さっさと大将連れてこいよ……あんまり女王陛下を待たせるもんじゃねぇぞ」


 ニヤリと不敵な笑みを湛え、悪戯っぽく言い放った。


「こんな最前線に女王自ら出陣だと……?そんなことありえるわけねぇ!」

「だが、事前に聞いてた通りの女だぞ?偽物にしては似過ぎてないか?」

「っていうかいつの間に現れたんだよ!ついさっきまではいなかったじゃん!」

「待て!そんなことより、今の一瞬で俺達の部下50人が奴一人にやられたんだぞ!!」


 ハーメルンの魔導士達は明らかに動揺した様子でざわつく。

 その様子をヒジリは楽しそうに、そしてリネアは落ち着かない様子で眺めていた。

 そんな中、


「てめぇら!!浮ついてんじゃねぇ!!」


 一つの怒号が鳴り響く。


「す、すみません、隊長!」

「……チッ!」

「ごめんよ、ネビルさん」


 先程まで好きなように言い合っていたハーメルンの魔導士達がスキンヘッドの男、ハーメルンの代理戦争部隊隊長・ネビルの一喝で冷静さを取り戻した。


「こんなことでイチイチうろたえてるようじゃ、相手の思うつぼだ!敵国の女王陛下が突然現れたとか、敵が一人で50人の兵を倒したとか……今はそんなことどうでもいい!」


 ハーメルンの魔導士達は表情や態度はそれぞれ違えど、一同黙ってネビルの声に耳を傾けている。


「今は最大のチャンスだ!敵の大将は目の前で、俺達は上級魔導士が4人。そして相手の戦力は一人だ。とにかく今は敵を倒すことに全精力を注げ!!いいか!!!」

「はい!!」

「言われなくってもそのつもりだっつーの……」

「りょーかーい!」


 ネビルの呼びかけにそれぞれが応える。

 そして、ハーメルンの上級魔導士4人はネビルを中心に戦闘態勢に入る。

 リネアは思わず一歩後ろに下がる。

 しかし、


「いやいや、何かヤル気になってるとこ悪いんだけど、用があるのはお前らの大将だけだから。別にお前ら全員倒したいわけじゃないんだけど……」


完全に一触即発の緊張感の中、ヒジリだけがその雰囲気に取り残されていた。


「いくぞ!」


 ヒジリの声は誰にも届かず、ネビルの掛け声とともにハーメルンの魔導士達が一斉に攻撃してきた。


「ひ、ヒジリさん!!」


 リネアは咄嗟に目を瞑り、ヒジリの名前を叫ぶ。


「「「灼熱地獄(ファイヤー)!」」」


 極限まで短縮された敵の詠唱により、巨大な炎が勢いよく四方から繰り出される。

 そんな状況でもヒジリは怖がるリネアを自分の方に抱き寄せると、ただ冷静に一言呟く


(ライト)


 すると、炎が当たる直前、ヒジリの周りが激しく光った。


「!!気をつけろ!また光に乗じて殴りかかってくるぞ!!」


 数分前に起きた光景を即座に思い出し、ネビルがハーメルン兵達に指示を送る。


バシッ


「……へぇ、やるねぇ」


 光の中攻め込んだヒジリの上段蹴りをネビルはしっかりガードしていた。


「そう何度も同じ手が使えるわけねぇだろ!」


 ガードしたネビルは少し顔をゆがめながらも、ニヤリと笑って見せる。


「さすがにゼロ距離なら効くだろ……灼熱地獄(ファイヤー)!!」


(サウンド)


ドンッ!


 突然耳をつんざくようなとてつもない音量が鳴り響いた。


「ヒジリさん!」


 あまりの大きな音にリネアは悲鳴にも似た心配そうな声でヒジリの名を呼ぶ。


 バシッ


「ぐっ……」


 今度は鈍い打撃音とともに低い呻きが聞こえた。

 そして、倒れたのは……ネビルであった。

  突然の爆音に驚き、思わず半歩下がってしまったネビルを、ヒジリは見逃すことなく再び上段蹴りで片付けた。


「だから、早く大将出せって……話し合いで解決しようぜ……」


 ヒジリは面倒くさそうに再度ハーメルンの魔導士に進言する。

 しかし……


「てめぇ……よくもネビルを……」

「隊長の仇は俺がとります。」

「お兄さん、ちょーっと調子に乗り過ぎだよね……」


 他の3人は一層目の鋭さを増し、引く気配はみじんもない。


「いやいや、ヤル気出すのはいいことかもしれんが、お前らに勝ち目がないことくらい分かっただろ?」


 殺気だった空気の中、ヒジリは何食わぬ顔で耳をほじりながら応対する。


「確かにでめぇは強いらしい……魔力がないくせに見たこともない魔法を使うしな……だがな!!」


 3人の魔導士の一人、モヒカン頭の男が勢いよく地面を蹴り、


「きゃっ!」


 リネアの後ろに回り込むと首筋にナイフを突き付けた。


「これで俺達の勝ちだ!」


 モヒカン男はニヤリと笑いかける。


「もう勝負はついた。早く降参しろ」

「大将をこんな最前線まで連れてこればそりゃこうなるよ」


 今度は3人の魔導士がヒジリに降伏を求める。


「ひ、ヒジリさん……私のことは気にせず、早く敵の大将を!……この戦には絶対に負けられないんです!!」


 リネアの顔は恐怖で覆われているものの、必死にヒジリに訴えかける。

 そんなリネアの様子を目の当たりにして、ヒジリは頭を掻き大きなため息をつく。


「しゃあねぇ……敵の大将の居場所を聞き出すのは諦めるしかねぇな……」

「い、いけません、ヒジリさん!!」


 リネアが涙ながら必死に叫ぶ。

と同時にヒジリはハーメルン側の緊張感が少し緩んだのを見逃さず誰にも聞こえない小さな声で呟いた。


「ふん。さっさと―ぐはッ……」


 リネアを人質にとっていたモヒカンが地面に倒れこむ。


「レギン!!」


 ボスッ


「ぐわっ!」


 真っ先にモヒカン男・レギンに注意を払った坊主頭の男も腹を押さえながら倒れた。


「クソッ!二人ともB+級の魔導士だぞ!どうなってるんだよ!!」


 残されたおかっぱ頭の魔導士も他の二人の魔導士が一瞬でやられたことに動揺しつつも戦闘態勢に入る。

 しかし、ヒジリは最後にもう一度呟く


運動(ムーブメント)


 そして、ヒジリが地面を蹴った直後、


 ドカッ


「ガハッ……」


 おかっぱ男は首筋を手套で殴られ気絶した。


「大将は自分で探すとするか……あぁ、めんどくせぇなぁ……」


 そして、さっきまでそのおかっぱ頭が立っていた場所にはリネアを抱えたヒジリがヤル気の感じられない表情で立っていた。


「す、すみません。迷惑懸けてしまって……」


 ヒジリに抱きかかえられたリネアが申し訳なさそうな顔でヒジリの方を見た。


「これくらい迷惑なんかじゃねぇよ」

「そ、そうですか……それでは、助けていただいてありがとうございます。」


 少し考えた後、今度は満面の笑みで頭を下げる。


「ま、まぁ、そもそもこの作戦考えたのは俺だしな。万が一お前が怪我なんてしたら俺が尾のおっさんにグチグチ言われるし。」


 褒められていないヒジリは照れて、つい目を反らしてしまった。

 その様子を見て、再びリネアが笑顔を見せる。

 しかし直後、ふとヒジリが真剣な表情に変わる。


「どうやら、あっちから来てくれたみたいだな……おい、出てこいよ!」


 ヒジリが周りを警戒しながら、誰もいないように見える空間に声をかけると


「いやー、さすがだね。まさかこんなに早く見つかるなんて。」


 木の影から茶色いサラサラした髪のヘラヘラした男が出てきた。


「僕はジョシュア=フリーク。……この代理戦争の大将だ!」

「なるほど……まさか大将が一番手ごわそうな奴とはな……」


 ヒジリの額から一筋の汗が流れおちた。


「ジョシュア……」


 一方リネアは憎悪と恐怖心の混じった表情でジョシュアを睨みつけていた。





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