第1話【佐之助の家出】
「が…ッ!!」
夜とは、彼ら忍の時間…闇を駆ける戦忍は出会ってしまえば戦う他ない、ここで逃がすことになんのメリットもないからだ
夜に活動するということは、何か情報を仕入れる、または仕入れてきたということだから
今宵も二人の忍が出会ってしまった
「これが…伝説の力ってか…っ?」
腹部から血を流しながらも敵を見据えたままの男は、余裕そうに笑っていた
だがしかし、彼の頭のなかは警報が鳴り響いていた
逃げろ、死ぬぞ、と
「…」
追いつめた方の忍は一言も発しなかった
それが、話す意味もないと言われてるようで余計に腹が立つ
止めを指すかのように振り上げられた手を見て、思わず目を瞑る
ここで終わりなのか
暫く待っていても何も無かった
うっすらと目を開けると黒い羽根が舞っていた
「佐之助、お前に代を譲る日が来たようだ」
薄暗い部屋で50代くらいの男が膝をついている者に向かってそう言った。
彼、佐之助はその事に対して顔を下げたまま不満そうな顔をした。自分はまだ望月の名を貰うには実力不足だからだ。
先日 伝説の忍、百目鬼 雅に殺されかけたことが原因である。
自身の忍法も手裏剣も何もかも通用しないまま倒されるという屈辱を味わい、いっそ其処で止めを刺してくれれば良いものをあろうことか奴はその場から消え去ったのだ、まるで『殺すにも値しない』と言ってるかのように。
家の者からは生きているだけでも凄いことだと散々言われたが余計不甲斐なく思うだけ、その時の傷も癒えていない状態で望月の姓を名乗るのは不名誉と思えたからだ。
佐之助の心情を察したのか佐之助の父親は片膝をついた。
「お前はまだ当主になりたくないようだが、ワシはもう引退する身だ、我が家にはお前しかいない…わかってくれるか」
望月家は基本子を沢山作るのだが三代目、佐之助の父親は子宝に恵まれず、佐之助しか子供がいなかったため四代目は佐之助しかいなかった。
それでも佐之助は納得出来なかった。
「父上、俺はまだ未熟です…この俺が貴方の後を継げば恥になってしまうでしょう」
その言葉に佐之助の父親は目を見開く。
「なのでもっと修行して、強くなったら…その時は望月の名を継ぎましょう」
「何を…ッ!」
シュンッ
佐之助の父親が手を伸ばした時にはもう佐之助は姿を消していた。
俺はまだ、望月を名乗ってはいけない。
もっと強くなって百目鬼 雅を殺せるぐらい強くなったら…その時は自信持って俺は望月家の四代目当主だって言ってやる。
佐之助はそう心に決め一時的に留まる場所を探していた。
今は戦乱の時代、この国の勢力の何処かについていれば風の便りで生きていることは分かるだろう。
そう思ったからだ。
だがどれだけ色んな所へ交渉しに行っても駄目だった。
望月の名を出せば楽だったかも知れないがそれでは意味がないため自分の名前を伏せて交渉したせいかもしれない。
暗かったはずの空も今は日が登り初めていた。
ダダダダダッ!!!と馬の駆ける音がした。
ここは確か紅蓮という男が治める土地、紅蓮といえば戦好きで有名だ、戦で使える忍ならば雇ってくれるかもしれない…今の実力で果たして雇ってくれるかは分からないが…行かないよりは良いだろう。
佐之助は紅蓮の城へと駆け出した。