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スライム王子

スライム王子が襲来しました

作者: 深水晶

 ある日、我が家の庭に隕石が落ちた。


「そこな人間! 我はカストゥール王国第五王子、リシル・フェン・アルシリア・カストゥールである!! 命が惜しければ食べ物を寄越せ! 三日間飲まず食わずで死にそうなのだ!!」


 そう叫んだのはグネグネと波打つ怪しげな薄青い半透明の不定形生物──ファンタジーやゲーム知識のある者ならばスライムと呼ぶだろう──だった。


「ツッコミたいことは山ほどあるが、リシなんたら王子とやら、お前、そこで燃えてる隕石と一緒に落ちてきたのか?」


「隕石だと!? 我が旗艦アルベール号をなんと……アギャーッ!! 燃えてるぅっ!! 消火、消火だっ!!!」


 スライムに前と後ろの区別があるかどうかは不明だが、どうやら視界は360度前後左右上下のようである。

 ただし、他の何かに気を取られると、集中力または意識の問題なのか、視界が狭くなるのかもしれない。

 慌てふためき、狼狽えつつも、理解不能な謎言語をブツブツ唱え、淡い光を全方位に放つと、我が家の庭のほぼ中央部で盛大に煙と青い炎を上げるそれに、不意に大量の水が降り注いだ。


「おお、魔法……か?」


 ゲームのエフェクトやアニメ以外で初めて見た。まさか我が家の庭だけ局地的に一時的にどしゃ降りになったというわけではなかろう。

 パトカーと消防車どちらを呼ぼうか迷ったが、これで消防車は必要ないだろう。ご近所の方々が通報してない限り。

 しかし、夢にしてはずいぶんリアルだ。昨日見た異世界転移ものアニメの影響だろうか。

 だが、焦げ臭いにおいだの炎の熱さだのは余計な演出でやり過ぎではなかろうか。


 ようやく火の消えたそれは溶けて変形した金属の塊、に見える。大きさはちょっと大きめのラジコン機くらいである。

 火は完全に消されたようだが、熱せられた金属塊の余熱のせいか、周囲の雑草がブスブス燻っている。

 燃えてはいないが、このまま放置するのは危うい。やはり消防車は必要だろうか。

 いや、あの程度なら、水撒きと融雪用に掘って庭の隅々に引いてある井戸水をホースで散布すれば問題ないだろう。

 おき火程度のものでも小火は恐い。延焼などしたら大変だ。

 幸い我が家の庭は無駄に広いが──友人には天然のジャングルだの、サバイバルゲームの舞台に適しているだの、秘密基地が造れそうだの言われるが、他愛のない冗談だと思われる──だからといって降雪量が減って空気が乾燥しつつある季節だ、油断はできない。


 手のひらサイズのスライムがプルプル震えている。


「な、な、なんたることだ! 我輩以外の乗務員はどうなった!? 忠実な執事のカクラコンは!? い、入口が開かない!! も、もしや墜落直前に放り出されたのは!!」


 スライムが甲高い声で叫びながら、プルプル震えている。


「えぇと、大丈夫か?」


 俺は今年高校入学したばかりの男子高生、高田正史(たかだまさふみ)、16歳。

 趣味は読書とゲームと音楽・アニメ鑑賞。ごく普通の少年である。


 残念ながらスライムは好きでも嫌いでもない。触手とかどうでもいい。マニアックな性癖は一切ないので、ノーサンキューである。

 グロ耐性はそこそこ、でもリョナとか勘弁。ゲームのおかげで多少の耐性があるだけで、それを楽しむ趣味とかはない。


 なのに、何故、目の前にプルプル震える手のひらサイズのスライムがいるのだろうか。

 それもロリ系美幼女の声でスライム王子とか誰得だ。もちろんアッーでもない。


 幼なじみが朝起こしに来てくれたり、美少女転校生と廊下でぶつかるイベントなら大歓迎である。

 しかし、現実は非情である。年々過疎が進むド田舎で、隣家に住む幼なじみの美少女は都市伝説であり、平穏だがろくな勤め先のない我が村にわざわざ引っ越す奇特な家族は存在しない。

 そもそも俺の通う高校は、共学なのに全学年で男子が計二十名、女子が三名。

 同学年に女子はいないため、校内で女子を見たら、翌日良い事があるという校内伝説が生まれるくらいである。

 良い事って自販機周辺で百円拾うとかか? 謎である。


 俺は最近、女子高生とか都市伝説ではないかと思い始めている。

 テレビに出てくるのはヤラセか遠い世界の出来事なのだろう。

 うちの村で既婚じゃない妙齢女性など見た事がない。独身はたいてい七十代以降である。

 泣いてなんかいない。大学は村の外にある学校を受ける予定だ。うちの村に大学は存在しないから当然だが。


「カ、カクラコン! ルーベリア! ミナファース!」


 プルプル震えていたスライムが金属塊に突進、体当たりした。


「ウギャアァァーッ!!」


 美幼女系の惨い悲鳴が辺りに響き渡った。


 近所の皆さん、騒音ごめんなさい。お願いだから、通報しないで下さい。



   ◇◇◇◇◇



 幸い無駄に広い庭と、一番近くの家が三百メートル以上離れているという立地のおかげで通報は免れたようである。

 それより大変な事が判明した。どうやら夢ではないようだ。

 どうせ墜落して来るなら、何故美少女じゃなかったのか。

 神とかそれっぽい何かが目の前に現れたら、両肩を掴んでガクガク揺さぶりたい。大きな声で喉から血が出るほど力一杯叫びたい。


 いったい俺が何をしたというのだろう。


「何でも良いから、食べ物をよこせ」


 目の前に、ポリバケツに張った水に浮かぶ不定形生物がいる。

 全裸で無職・金銭はもちろん所持品ゼロのくせに偉そうである。まぁ、スライムが裸だろうとなかろうと、どうでも良いが。


「対価を支払わずに食事を要求するのは、うちの法律で無銭飲食という犯罪だぞ」


 もちろん嘘だが。何故にこの怪しい生き物にタダで餌をやらねばならないのか。


「なっ、何!? 我輩に何を要求しようと言うのか! ハッ、もしや我が王国に身代金要求するつもりか!?

 残念だったな、我が王国の所在する星は、ここから五十億光年先の小さな惑星だ。

 野蛮な貴様には手の届かない果てにあるのだぞ!?」


「それって、お前も帰れないってことだよな」


「……っ!!」


 驚愕したようにブルリと震えたスライムが、脱力したように水の底に沈んだ。


「おい?」


 そういえばスライムは泳げるのだろうか。バケツを覗き込むと、スライムはウネウネと上下左右に小刻みに激しくうねっている。


「?」


 不思議に思っていると、バケツの水が少しずつ減っていった。


「バケツ、前回使ってから洗ってないんだが……はて、二週間くらいだったかな」


 確か母ちゃんが窓拭きするのに使ったはずだ。もちろん使用後に洗って後始末していたと思うが、以来ずっと軒先に放置されていた。

 スライムがヤケド?して慌てていたので、そのまま水を入れて突っ込んだのだが、問題なかっただろうか。


「フゥーッ、不味い! もう一杯くれ!!」


 問題なかったようだ。水を要求するスライムにホースで水を上からかけてやると、ウネウネうねりながらそれを吸収し始めた。

 なんかこれ、面白いな。口らしき器官は見当たらないのだが。

 なんという不思議生物だろう。これはスマホで動画撮ってヨーツベかニヤ動にアップすべきではなかろうか。


 どうせ某巨大掲示板で写真付きでスレ立てても「創作すんな」「釣り乙」とか「きもいコラ作るな」「わざわざCG乙」とか言われるのがオチだ。

 動画でも多少は言われるだろうが、実際作るとなると静止画より難易度高いから、スライムシリーズとか銘打って定期的にアップすれば、その内信じる人も出てくるかもしれない。

 そうなれば、この良くわからない生き物を引き取って貰える。

 うん、そうしよう。


 スマホを尻ポケットから取り出し構えた途端、不定形生物は何やら謎言語を唱えて激しく光った。


「!?」


 目潰しを食らった俺の視界がようやく元に戻った時、びしょ濡れで何故か電源が切れた状態のスマホが、同じく濡れて水のしたたる俺の右手に握られていた。


「……なっ……!」


「そのような武器など恐くないぞ! 我輩、こう見えても水魔法は得意なのだ!!」


 このスライム、ちょっと絞めても良いだろうか。マジで。



   ◇◇◇◇◇



「フハハハ! 我輩、物理不壊属性に加えて、魔法耐性もなかなかなのだ。熱にはちょっと弱いが、すぐに再生するので持続性のない炎熱攻撃であれば問題ない……っおい! 何だ、それは!!」


 文明の利器、オイルライターである。チ○ッカ○ンと違ってボタンを押し続ける必要がないため、火のついた状態で投げる事ができる。

 ファンタジー系RPGならば松明といったものがあるが、そんなものは○ーマにもイ○ンにも売ってない。

 買いに行く暇があればバーベキューなどに使われる着火剤とか、あるいは燃えやすい紙などに着けて投げるというのでも良いかもしれない。

 だが、自宅の庭先で家事になるような事は避けたい。炙るだけで良いのだ、炙るだけで。

 さすがにスライムとはいえ、言葉を話す生き物を殺す度胸はない。

 悲鳴はヘッドホン越し、血しぶきや飛び散る何かはディスプレイ越しで十分である。

 うっかり畑仕事から戻ったばあちゃんに、こいつの悲鳴や苦悶の声を聞かれたら心配されてしまう。

 もしかしたら、ゲームやアニメの音声と勘違いされる可能性もなくはないが。


 しばらく嫌がらせに火炙り?の刑に処した後、ギャンギャン騒ぐスライムをバケツごと、自室へ運んだ。

 ちなみに壊れたスマホは直せないらしい。損害金と慰謝料を要求したいが、無一文の不定形生物には無理だろう。

 しかし、せめて肉体労働で返して欲しい。


「部屋の掃除をしろ」


「何? 掃除したら、我輩に食べ物をよこすのか?」


「そうかもな。でも落ちてる本とかゲームに触るなよ。ゴミだけ回収しろ」


 残念ながら、スライムにゴミとそれ以外の区別はつかないようだった。ガッデム!!

 いったいこいつは何ならできるというのだろう。もしや、畑や庭の水やりか?


「熱い! 熱い!!」


 嫌がらせを兼ねて試しに与えたカップラーメンを、謎言語で魔法?を発動させ、凍らせた。


「我輩、天才!」


 凍ったカップラーメンを、発泡スチロール容器ごと丸飲みした。

 なあ、それ、お前の体積近くないか? っていうか、発泡スチロール食って大丈夫なのかよ?


「不味い! 他にもくれ!!」


 残さず食っておいて良く言う。しかし、この謎生物、どうしたら良いものか。


 やはり某巨大掲示板で相談スレを立てるべきか。しかし、画像なしで真面目に相談に乗って貰えないよな。

 パソコンや携帯ゲーム機で写真や動画を撮れないこともないが、スマホの二の舞になったらマジで泣く。


 ああ、どうしたものか。


 神とかそれっぽいものが目の前に現れたら、問答無用で殴る。絶対殴る。

 いったい俺が何をしたって言うんだ!!

思いつきで勢いで書きました。

役に立たないスライム王子様が庭に襲来したら、スライム好きな人以外は困惑するでしょう。


ところでオイルライター火炙りとかR指定いりますか?

残酷描写警告必要でしょうか。


たぶん問題ないと思いますが。


ノーマルスライムに○ラは可哀想ですが、木の棒で殴るのも、三次元だとヤバイ絵面になるきがします。


スライム王子に不壊属性付けたのは、大気圏突入後の宇宙船?から飛び降りて無事って、有り得ないという理由です。

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