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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

御風激闘伝

作者: 井村六郎

ちょっと趣味に走ってみようと思って書きました。暇潰しにどうぞ。ちなみに、聖神帝レイジンと同一の世界です。

一人の女子高生が、通勤電車を降りて、改札を出た。


「あっ!こっちこっちー!」


そんな彼女が行く先には、二人の友人が。


「ねぇ昨日のテレビ何見たー?」


「あたしお笑い劇場スペシャル見た!」


「えー?あれつまんないでしょ。毎回毎回同じネタばっかりやってさ」


「面白いじゃん!特に…」


女子高生達は合流すると、自分達が通う高校を目指し、談笑しながら歩き出す。




そんな三人を見ている女性がいた。見た目や服装は、彼女達とさほど変わりない。こちらも、女子高生といった感じだ。


「ふむ…三人とも自己主張はあんまり強くないと。」


女性の視線は、三人の女子高生の胸に向いている。それから、視線を三人の足へと向けた。右端の女子高生、彼女をAとしよう。Aは黒いストッキングと、黒のストラップシューズを着用している。次に真ん中をBとして、彼女は白いハイソックスと、黒のローファーを履いていた。最後に左のC。彼女が履いているのは、紺のニーソックスと赤いスニーカーだ。女性は三人の足を見てから、


「…やっぱり女子高生といったら、白のハイソックスと黒のローファーよね。清純さがあって綺麗…たまらないわ。ずっと見てても飽きない…」


と呟いた。どうやら、女性はBが気に入ったようだ。しばらく凝視していると、Bに異変が起こる。


「…えっ?」


Bが驚いて、突然立ち止まったのだ。


「どうしたの?」


「…えっ!?ええっ!?あ、足が動かないっ!」


「はあ?」


Bの足が、突然動かなくなってしまった。上げようとしても上がらない。前に進まない。足踏みさえできないのである。


「あんた何言ってんの?」


「ホントだって!全然動かない!どうなってるの!?」


いぶかしむAと慌てふためくB。上半身をぱたぱたと動かして暴れているが、肝心の足だけはどんなにもがいても、その場から動かすことができないのだ。


「あ、しまった。」


それを見ていた女性は、すぐに踵を返して人混みの中に消える。と同時に、Bの足は動くようになった。


「きゃっ!?」


いきなり動くようになったのでバランスを崩して倒れそうになったが、両脇の二人がすぐに掴んで止めてくれたので、転倒は避けられた。


「ごめんありがと。」


「あんたどうしたの?」


「私にもわかんない。どうして足が…」


「病気?」


「かなぁ?」


女子高生達は不審がるが、結局なぜBの足が硬直したのかはわからず、仕方なくそのまま学校へと向かった。




「危ない危ない。またやっちゃった」


女性は人通りの少ない場所に来て、額の汗をハンカチで拭っていた。と、


「ちょっとそこの君。」


誰かが女性を呼んだ。声色からして、男性のものだ。


「ちっ!」


女性はおもいっきり舌打ちをすると、声が聞こえた方向に顔を向ける。予想通り男性で、装いから察するに警察官のようだ。


「何ですか?」


「その腰に差してあるものは何かな?」


警官は女性の腰を指差した。実は女性の腰には、一本の日本刀が差してある。


「刀です。」


「そう。刀だね」


「だから何ですか?」


「銃刀法違反って知ってる?許可はもらったの?」


「もらってません。」


女性は不快感ありありといった感じで、警官の質問に答えていく。


「じゃあ持っちゃいけないってわかってるよね?それ、没収させてもらうから。」


警官はそう言って、女性の腰へと手を伸ばす。しかし、


「触らないで!!」


「痛っ!」


女性は激怒し、警官の手を払った。警官の手は腫れており、女性が凄まじい力で叩いたことが伺える。


「何するんだ!!」


当然警官も怒るが、女性の怒りはそれ以上だ。


「うるさい!!みすぼらしい男が、私の前に立つな!!」


女性が力強く警官の目を睨み付ける。すると、警官の動きが完全に止まり、目が虚ろになった。女性は警官に言う。


「あなたは何も見ていないし、誰にも会っていない。だから私が刀を持っていることも知らないし、私の姿を見てもいない。ただパトロールをしているだけだった。いいわね?」


「…はい。」


警官は虚ろな目付きのまま、女性に答える。


「わかったらさっさと仕事に戻りなさい。二度と私の前に現れないで」


「…はい。」


女性が言うと、警官は回れ右をして歩き始めた。


「…まったく、今日は転校初日だっていうのに、男に話しかけられるなんてついてないわ…相手がミニスカートの女性警官だったらよかったのに…」


女性は、相手が警官だったから不快感を感じていたのではない。相手が男だったから不快感だったのだ。もし相手が女性警官だったら、もっともっとソフトに対応していた。


「…あ、そうだ学校!私も行かなきゃ!」


と、女性は今日が転校初日だということを思い出した。早くいかないと遅刻してしまう。女性は学校に向かって走り出した。











桃華宮女子高等学校。二年生の片平真由美は、ホームルームの開始を待っていた。


「ねぇねぇ聞いた?今日転校生来るんだって!」


「マジ?どんな娘?」


「なんかさ、すごい綺麗な娘らしいよ。」


周囲のクラスメイト達が何か騒いでいるが、真由美はそれに混ざることもなく、窓の外をただ見つめている。彼女は周囲の人間との関わりをあまり好んでおらず、友人もいない。だからいつも一人だった。しかしそれを寂しいと感じたことはなく、またこのままでいいとも感じていた。


(早く学校終わってくれないかな…)


来たばかりだというのにもう帰ることを考えていると、


「お前ら静かにしろー。ホームルーム、始めるぞー。」


この教室、二年二組の担任の教師、木下が入ってきた。男言葉だが、立派な女性である。怒らせると非常に恐ろしい先生なので、騒いでいた生徒達は速やかに己の席に戻って黙る。全員が黙ったのを確認してから、木下は告げた。


「もう知ってるやつもいるみたいだが、今日は転校生がいる。入れ」


「はい。」


教室の扉が開いて、一人の女子生徒が入ってきた。長い黒髪と、大きな胸。すらりと伸びた長い手足。ただ歩くだけでも目を惹く、成人と見紛うほどのとても美しい女子だ。そしてその腰には、美しい女体に似合わない日本刀を帯刀していた。女子はチョークを手に取ると、黒板に自分の名前を書く。


竹本たけもと御風みかぜです。よろしくお願いします」


「お前らいろいろと聞きたいことはあるだろうが、転校生だからってはしゃぐなよ?面倒事は御免だからな。じゃあ竹本、あそこに座れ。」


「はい。」


木下が指差したのは、真由美の隣の席だ。ちょうど誰もいない。木下の指示に従って、御風は真由美の隣に座る。


「失礼するわね。あなた名前は?」


「…片平真由美。」


「片平さんね。これからよろしく」


「う、うん…よろしくね…」


御風が見せた綺麗な笑顔が、何だか恥ずかしくて、真由美は目を反らした。




ホームルーム終了後、一時限目までの五分間。やはりたくさんの生徒が押し寄せ、御風を質問攻めにした。


「竹本さん!どこに住んでるの!?」


「成山区四番地よ。うちは屋敷なんだけど知ってる?」


「うそ!?じゃああの大きなお屋敷って竹本さんの家なの!?」


「もしかしてかなりのお金持ちだったりする?」


「母が財団の団長なの。」


「すごーい!」


「ねぇねぇ!その刀ってどうしたの!?」


「買ったのよ。剣をたしなんでいてね、でも普通の刀だと私の技量に耐えられないから、オーダーメイドよ。もちろんこれで誰かを斬ったりとかはしないから、安心してね。」


何だか回答が滅茶苦茶だが、御風は笑顔で丁寧に答えていく。真由美はそれらの喧騒から少しでも離れようと、窓に顔を寄せて外を見ていた。転校生なんだから仕方ないと割り切ってはいたものの、うるさいことに変わりはない。早く終わって欲しいものだ。


「片平さん。」


と、質問を次々と捌いていた御風が、突然真由美に声をかけてきた。


「…何?私の相手なんてしてていいの?」


真由美は迷惑そうに答えた。御風の周囲にはまだたくさんの生徒が質問待ちをしており、とても真由美の相手をしている暇はなさそうなのだが。


「あなただから話しているのよ。」


「えっ?」


それより大事な用があったようだ。


「こうして隣の席になったのも何かの縁だし、お昼休みにこの学校を案内してくれないかしら?」


「…いいけど…」


「よかった!じゃあお願いね!」


真由美がお願いを承認した時、御風はとても嬉しそうだった。と同時に、一時限目を知らせるチャイムが鳴る。


「みんな。私の相手をしてくれるのは嬉しいけど、もう時間よ。次の休み時間にまた話すから、今は戻ってね。」


全員名残惜しそうだったが、御風がそう言うと大人しく席に戻った。











昼休み。


「じゃあ片平さん。お願いできる?」


「…いいけど、その前に購買部に行かせてもらえない?お昼御飯買いたいから。」


「…そういえばそうね。なら私も一緒に行くわ」


というわけで、二人は購買部へ。


「そういえば竹本さん。お昼御飯はどうするの?」


「私も購買部で買うつもりよ。」


「…ふーん…」


御風はいいところのお嬢様のようなので、てっきり弁当を持ってきているものと思っていたのだが、少し意外だ。そうこうしている間に、二人は購買部にたどり着く。購買部の前には多数の生徒がひしめいており、誰もが目的の品を持って会計を頼んでいる。女子といえど変わらない、まさに激戦区。真由美はいつもこの荒波の中に飛び込んでいるのだが、やはりこれを見る度に憂鬱になる。真由美が苦い顔をしている横で、一方御風は笑顔のままだった。あらあら、みんなお腹が空いてるのねぇ、しょうがない娘達、といった感じなのだろうか。


「さてと…」


いつまでもこうしているわけにはいかないので、真由美も目的の物を購入しようと近付いていく。と、


「ちょっと待って。」


御風が真由美の手を掴んで止めた。


「何?今度はどうしたの?」


振り向く真由美。だが、御風はそれに答えない。じっ、と生徒達を見ている。だが次の瞬間、御風の目力がほんの少しだけ強まった。それと同時に、荒れ狂っていた生徒達が一斉に止まる。


「あら?どうしたの?」


生徒達の相手をしていた購買部のおばちゃんは、突然止まってしまった生徒達に困惑している。


「えっ?何?」


「行きましょう。」


真由美も困惑していたが、御風は構わず真由美の手を引き、人混みに紛れ込んでいく。だが全員止まっているので、歩く上では特に支障はない。真由美は止まっている生徒達の顔を確認しながら、御風と一緒に目的の物を探す。生徒達は全員虚ろな目で、まるで意識を失っているかのようだ。


「これにするわ。片平さんは?」


「あ、ちょっと待って。」


あっけに取られている間に、御風は自分が食べたい物を見つけたようだ。真由美も慌てて目的の物、クリームメロンパンを探し出し、二人で一緒に会計する。それぞれ食べ物を買った二人は、止まっている人混みの中から出る。


「ねぇ、あの娘達…」


真由美は未だに止まったままの群衆を指差した。しかし御風は、無言のまま指を鳴らす。すると、止まっていた女子は我に返り、再び会計を求め出した。


「次からはお弁当にするわ。片平さんも、そうした方がいいわよ。」


「う、うん…」


御風にそう言われ、真由美は気が付くと頷いていた。











真由美はいつも屋上で食べている。広くて解放感があるからだ。しかしいつも真由美一人しかいないこの指定席とも言うべき場所に、今回は客人がいる。


「いい所ね。」


御風だ。真由美が屋上で食べると言うと、御風もついてきた。まぁ、それ以外の目的もあるのだが。


「ねぇ竹本さん。」


「何?」


「…あれ、何なの?」


「あれって?」


「…睨んだだけで、人を止めてたじゃない。あれは何なの?竹本さんって、一体何者なの?」


昼食以外の目的、御風が使った謎の力についての質問をしたが、


「秘密。」


御風は答えてくれなかった。


「秘密って…」


「秘密は女を鮮やかに見せる。謎の女って魅力的でしょ?」


御風は謎の美学を語り、話をはぐらかそうとしている。


「…それにしても…」


御風は、視線を真由美の足に向けた。白ハイソックスに、白い上履きだ。


「綺麗な足…」


「えっ?」


「足が綺麗って、言われたことない?」


「…あるけど…」


自慢ではないが、真由美は家族やクラスメイトから、足が綺麗だと言われることが多い。


「…あんまりじろじろ見ないでよ。」


「もっと見せてくれたら、さっきの質問に答えてあげてもいいわ。どう?」


何だか邪な交換条件を出されている。だが、御風が使った力が何なのか、とても気になっていた。見られているのは足だし、見せるだけならどうということはない。


「…見るだけなら。」


なので、了承した。


「ありがとう。じゃあ、ちょっと組んでみてくれる?」


喜んだ御風は、真由美に足を組むよう仕向ける。真由美は少し恥ずかしく思いながらも、言う通り足を組んだ。


「ああ…やっぱり綺麗…あなた美脚ね。羨ましいわ…」


「…竹本さんの足も、かなり綺麗だと思うけど…」


「嬉しいわね。そう言ってもらえると」


御風もまた、白いハイソックスを履いていた。どうやら、彼女は白のハイソックスが好きらしい。


「…」


御風は二分くらい、真由美の足を見ていた。それもただ見ているのではなく、情熱的な目で、絡みつくように見ているのである。


「ねぇ、いつになったら教えてくれるの?」


さすがに恥ずかしさも限界に達して、真由美は御風に尋ねた。しかし、御風は相変わらず真由美の足を注視したまま。


「…ねぇ!」


いい加減我慢できなくなった真由美は、身を乗り出して怒る。だが、その時気付いた。


「…えっ?」


足が、動かないのだ。


「な、なに…」


真由美は驚いてもがく。触ってみても普通の感触なのだが、足は石になってしまったかのように、全く動かすことができない。そしてまた気付いた。御風は足に向けていた顔を真由美の顔に向け、してやったりといった顔でにやにやと微笑んでいるのだ。


「わ、私の足に何をしたの!?」


「さっきの娘達にしたのと同じことよ。」


御風はそっと、真由美の頬に触れる。


「もうあなたは逃げられない。動かない足じゃ、どこにも行けないもの。」


そう言って笑いながら近付いてくる御風の顔はとても蠱惑的であり、妖しい魅力を漂わせていた。これ以上近付いてしまうと、戻れないような気がする。そう感じた真由美は、


「やめてっ!」


唯一動かせる手を使って御風を押さえ、接近を妨げる。しかし、


「あなたが知りたいって言ったんでしょう?」


御風はその手を捕まえてそばに置き、逆に押さえつけてしまう。華奢な細腕からは考えられない剛力を秘めており、真由美が自分の腕に全力を込めても、全く抵抗できなかった。それから御風が真由美の手を見ると、手も動かなくなってしまう。文字通り、手も足も出なくなってしまった真由美。


「だから教えてあげるわ。ゆっくりと時間をかけて、たっぷりとね。」


「い、嫌…!!」


最後に残った首を振って嫌がるが、御風は容赦なく真由美にこちらを向かせ、真由美と目を合わせる。そして御風が手を離した時、首すらも動かせなくなっていた。恐怖。真由美の中には今、恐怖しかない。御風は得体の知れない力を使い、逃走も抵抗も、軽い身じろぎすら封じ込めてしまったのだ。


「怖がらなくていいわ。痛いこともないし、苦しくもない。ただ気持ち良くなるだけ…私から逃げようなんて、思わなくなるくらいに…」


御風の顔が、さらに近付いてくる。キスするつもりだ。


(やだ!!私そんな趣味ないのに!!)


女子校に入ることを選んだのは自分だが、真由美自身は極めてノーマルであり、普通に男性と恋をしたいと思っている。それなのに、初めてのキスが、同性に奪われようとしているのだ。耐えられなかった。だが、動けない自分にはどうすることもできない。このままキスされてしまう。



そう思っていた時だった。



「動くな!!」


突然男性の声が聞こえた。これは異常なことだ。この桃華宮女子校は、生徒はもちろん教師や用務員に至るまで全員が女性の完全な女子校なのである。だからここにいる限り、男性の声を聞くことはまずない。あるとすれば、それは校外から部外者が訪問してきた場合のみだ。しかし、ここは屋上である。職員室ならともかく、こんな場所に用があるとは思えない。


「ちっ」


舌打ちをして声がした方向を見る御風。同時に真由美を縛り付けていた奇妙な感覚がなくなり、動けるようになった。真由美も一緒に声がした方向を見る。すると、屋上への出入口から、銃で武装して顔を仮面で隠した数名の男性が飛び込んできていた。






同時刻、職員室。


「動くな!!全員両手を頭に置いて床に伏せろ!!」


ここにも仮面を付けた集団が現れ、教師達を無力化していた。




ニュース。


「臨時ニュースをお伝えします。たった今、アンチジャスティスと名乗る集団から脅迫状が届きました。桃華宮女子高等学校を占拠しており、生徒と教師全員の身柄と引き換えに、身代金二十億円を要求するとのことです。」




複数の男性に包囲された御風と真由美。真由美は怖くて仕方なかったが、御風は恐怖など全く感じていないようで、それどころか敵意を剥き出しにして男性達を睨んでいる。


「あなた達は誰?ここに何の用があって来たの?」


御風は恐れることなく男性達に訊いた。


「俺達はアンチジャスティスだ。わかりやすく言うとテロリストだよ!」


「お前達は人質だ。お前達全員の身柄と引き換えに、俺達は莫大な資金を手に入れる!」


「立派な剣を持っているらしいが、変な気は起こすなよ?剣が銃に勝てるわけないんだからな。」


なんと言うことだろうか。彼らはテロリストで、自分達は人質なのだという。怖くて震え上がる真由美。しかし、


「本当にそうかしら?」


御風はこれでもまだテロリスト達を恐れていなかった。


「は?」


テロリストの一人が言った瞬間、御風がその一人へと飛び掛かっていた。同時に抜刀。真横に振り抜き、次の瞬間にはテロリストの首が一つ、屋上のアスファルトの上に落ちていた。もう一瞬遅れて首の切断面からは鮮血が勢いよく吹き出し、もう二瞬遅れてテロリストの胴体が倒れる。


「っ!」


恐ろしさのあまり真由美の目尻には涙が浮かび、口から小さな悲鳴が漏れる。


「てめぇ!!」


仲間を殺されて怒った二人は、すぐに銃を御風に向ける。だが、引き金は引けなかった。それより早く、御風が二人を睨み付けたからだ。


「な、何だ…!?」


「身体が…!!」


御風が睨み付けただけで、二人のテロリストはその一切の動きを封じられてしまっていたのだ。


「男は、死ね!!」


何もできないテロリスト達に接近し、御風は二人に一太刀ずつ浴びせる。御風の攻撃はテロリスト達の急所を的確に捉えており、テロリスト達はそれぞれ一撃で絶命した。


「な、何が…」


「片平さん。悪いけど、私と来て。」


「えっ?」

「私は今から、この学校を解放しに行くわ。でも、あなた一人ここに待たせておくのは危険すぎる。危ないことに変わりはないけど、私がそばにいる分危険は軽減されるはず。」


「でも、警察に任せた方が…」


「男は信用できない。大丈夫。私があなたを守るから」


「あっ…」


御風は嫌がる真由美の手を強引に引き、


「男なんて人間の風上にも置けないけだものなんかに、念願の女子校を踏み荒らされてたまるもんですか!」


一緒に屋上を後にした。











アンチジャスティスと名乗るテログループは予想以上に大規模らしく、教室は全て押さえられてしまっている。御風は一階ずつ教室を解放していくことにした。


「見ろ!!」


「まだ残っている生徒がいたのか!!」


「殺すなよ!?大事な人質だからな!!手足を撃ち抜く程度に留めておけ!!」


御風の存在に気付いたテロリスト達が次と教室から姿を現し、御風に向かってくる。


「片平さん、隠れて!」


御風は真由美を物陰に隠し、前から向かってくるテロリスト達を睨み付け、後ろから向かってくるテロリストも振り向いて睨み付ける。たったそれだけの動作で、テロリスト達の動きは止まった。


「私が修得している剣術は、ただの剣術じゃない。」


御風は説明しながら、テロリストを次々切り捨てていく。


「二階堂平法っていう古流剣術なの。」


「動くな!!こいつがどうなってもいいのか!?」


仲間が倒されていくのをみたテロリストの一人が、生徒を一人人質にして、こめかみに銃口を押し当てながら出てきた。だが、人質作戦に意味はなく、御風が睨み付けるとテロリストは止まる。


「そして今使ったのが、二階堂平法奥義」


「や、やめろ!!来るな!!」


無力化されたテロリストは御風の接近を許し、刀で顔面を貫かれた。


「…心の一方。またの名を、射すくみの術。相手の目に自分の気迫を叩きつけて、金縛りに掛ける術よ。」


御風は刀を引き抜いた。それからも、テロリスト達を無力化しつつ、教室を解放していく。強い気迫を持つ者を見ると、萎縮してしまう。その気迫を無理矢理相手の目に叩き込むことで、脳が強い恐怖のイメージを刻みつけられ、肉体が金縛りにかかってしまう。これが、御風が修得している剣術、二階堂平法の奥義、心の一方だ。動かない相手など、ただの的である。


「もう気付いているでしょうけど、私は同性愛者よ。そして、サディストでもある。ネットでこの剣術のことを知った私は、可愛い女の子を捕まえて動けなくして、たくさん愛でてあげるのに使えると思って、師範を日本中を捜して見つけ出して、師事して修得したの。」


「動機が不純すぎるよ!!」


真由美は突っ込んだ。古流剣術を学んだ理由が自分の趣味嗜好のためとか、不純すぎるだろう。もっと何かないのか。あまりにもひどすぎる。それが真由美の感想だ。


「で、でもよく修得できたね…修行とか大変だったんじゃないの?」


「確かに、一朝一夕では無理だったわ。でも大好きな女の子のことを思うとね、全然苦じゃないの。寝る間も惜しんで修行して、半年で修得したわ。ちなみに中学二年生の時よ」


「半年!?」


古流剣術なんだから、普通何年もかかって修得するものだろう。だが御風はたった半年で、奥義である心の一方を修得するところまでこぎつけたのだ。


「好きなことだから、いくらでも挑戦できたわ。おかげで心の一方は相手の目を見なくても、縛りたいところを見るだけでかけられるくらい極められたの。他にも催眠状態にして操ったり、記憶を消したりとか…」


「極めすぎ!!」


元々相手の動きを止めるだけの技でそこまでできるようになるとか、極めすぎである。


「ただ欠点もあるの。私は脚フェチでもあってね、よく綺麗な脚を凝視するんだけど、見すぎてうっかり無意識に心の一方をかけちゃって、相手に迷惑をかけることが何回もあるのよ。」


極めるのも大概であると自重気味に笑う御風。真由美はそれを聞いて、いや本当に自重して欲しいと思った。


「…っていうか、どうしてそんなに女の子が好きなの…?」


次の階に向かいながら、真由美は尋ねた。


「…あれは小学生の時だったわ。」


御風は小学生の時、友達だった女の子を、男の子のいじめから助けた。しかし、それが気に食わなかった男の子は、仲間を呼んで数人がかりで復讐してきたのだ。リンチにされた御風は、それ以来男の存在がトラウマになってしまった。


「男は嫌い。陰険で陰湿で醜くてみすぼらしくて…私にはもう、女の子しか愛せる対象が残っていなかった。だから私はね、女の子が大好きなの。」


「竹本さん…」


意外に凄惨な過去を抱えていた御風。悪いことを聞いてしまったと、真由美は少し反省した。


「でも、男は大っっっ嫌い。視界に入るだけでも鳥肌が立つわ。だから…」


御風が廊下に出ようとした時、待ち構えていたテロリスト達が撃ってきた。


「男は皆殺しよ!!」


御風は真由美を隠すと、廊下に飛び出して跳躍を繰り返し、壁や天井を目にも止まらぬ速さで縦横無尽に駆け回りながら、銃弾を掻い潜りつつ接近。テロリストの一人を銃ごと真横に一閃、両断した。


「二階堂平法初伝、一文字」


御風が言い終えると、テロリストは真っ二つになって絶命した。壁や天井をものともしないスピードと移動方法も、二階堂平法の一部である。一人が倒れると、後は簡単だった。連携は総崩れとなり、たった一人の、それも女子高生相手に、テロリストは全滅したのだ。


「こ、今度は心の一方?だっけ…使わなかったね…」


御風の凄まじい戦いぶりに震えながらも、勇気を出して話し掛ける真由美。


「男を縛ったって可愛くないもの。できることなら、心の一方は女の子にだけ使いたいわ。元々そういう目的で身に付けた技だし、ね。」


訂正しよう。御風は性格も凄まじかった。


「さ、次の階に行きましょ。一階には職員室や校長室もあるから、ちょっと面倒かも。」


これだけ容易く大量虐殺を引き起こせる実力を持ちながら、今さら面倒なことなどあるのだろうか。まぁ本気でそう思っているわけではないのだろうが、と思った時、真由美は気付いた。


(…あれ?)


御風は恐ろしく強い。単純な剣の腕もそうだが、心の一方に抵抗できる者など、この女子校には絶対にいないだろう。そう、ここは女子校。そして御風は同性愛者である上に、女子を愛でるために心の一方を身に付けた。となると…


(これ竹本さんが勝ってもまずいんじゃ…?)


御風が勝てば、命の危険はなくなるだろう。しかしそれと引き換えに、この女子校の生徒全員が貞操の危機に陥ることになる。


「ねぇ竹本さん。」


「なぁに?」


「もしかしてテロリストを全員倒したら、助かったみんなといかがわしいことしようって、考えたり、してる…?」


「もちろん。と言いたいところだけど、それは半分。この女子校には別の目的があって来たの」


「別の目的?」


半分はその気があるというのが少し引っ掛かるが、御風に女子を愛でる以外の目的があったというのは驚いた。かなり興味がある。


「私はもう女の子しか愛せない。でもそれとは別に、生涯を懸けて愛せる、私の全てを捧げられる女の子を見つけたい。女子校なら見つけられるかなって」


やはり根本的には女子を愛することだった。まぁ、かなり本気になっている分趣味とは違うとわかるが。


「…片平さんも、かなり私好みなんだけど…」


「え、ええっ!?」


「うふふ。まぁ詳しいお話は、馬鹿な男連中を駆逐してからにしましょ。」


どうやら真由美は御風にロックオンされているらしい。


(もうだめかもしれない…)


貞操の危機を感じながらも、置いてきぼりされるのが怖かったので、御風についていった。











その頃職員室。


「おーおー派手にやってるねぇ。」


木下は床に寝転びながら、スマホを見ていた。スマホの画面には、テロリストを蹴散らしていく御風の姿が映っている。と、


「おいお前!何してる!」


テロリストの一人が木下に気付き、銃を頭に押し付けた。


「あ~?」


木下は銃を掴んで押し退けると、仰向けになった。そして次の瞬間、


「ぐあっ!!」


テロリストを蹴り飛ばしていた。


「な、何だ!?」


「貴様!!」


それに気付いた他のテロリストが、驚いて木下を押さえつけようとする。しかし、木下は巧みな体捌きでテロリスト達の攻撃をかわし、殴ったり蹴飛ばしたりして一瞬で無力化していく。


「な…な…!?」


「か弱い女しかいないと思って桃華宮ココを狙ったんだろうけど、当てが外れたね。」


最後に一人残って困惑しているテロリストに、木下は言い放つ。


「く、くそぉこのアマがぁぁぁぁぁ!!!」


やけを起こしたテロリストは銃で木下を撃とうとするが、もう遅かった。木下は拳を放っており、木下の拳は吸い込まれるようにテロリストの顔面に叩き込まれ、仮面は砕け散り、テロリストは一撃で意識を刈り取られた。


「木下良子、三十三歳独身。趣味は機械いじりと通教です」


もう聞こえていない相手へと、木下は言った。他の教師達は驚く。


「き、木下先生!!何なんですか今のは!?」


「通教で習ったジークンドーです。通教が趣味だって言ったでしょ?」


木下は言い返し、再びスマホを手に取る。


「そ、それは…?」


「学校中に隠しカメラをセットして、校内の様子が見れるように細工したんです。校長には内緒な」


木下は涼しげに言った。











「さて、こんなところかしら。」


一階の教室も全て解放した御風。


「す、すごいね…」


真由美はかなり怯えている。一階のテロリストがいる教室は、職員室以外全て解放された。御風がテロリストを皆殺しにしたのだ。それを御風は、憎悪が込められた顔でやってのけた。とても恐ろしいことだ。


「それにしても、これだけの連中を率いているはずのボスが見当たらなかったわね。」


「知らないうちに一緒に殺しちゃったんじゃないの。」


もういろいろ面倒だった。真由美は面倒事を嫌う体質で、同性ならさほど面倒なこともないだろうと思ったから、この女子校に入学したのだ。それなのに、どうしてこんなことになっているのだろう。御風の案内を引き受けたからだろうか?それくらいなら別に面倒ではないのだが、やはり少しでも面倒なことは引き受けるべきではない。真由美はそう思った。


「お前か!!俺の仲間を全滅させたのは!!」


一人の男が現れた。


「あなたがこの無粋な連中のボスかしら?」


「そうだ!!お前のせいで計画は失敗だ!!職員室にもなんか強い教師がいたみたいだし、何なんだこの学校は!?女子校だろ!?それも弱い女しかいない完全女子校の桃華宮だろ!?どういうことだ!!!」


女に逆襲されることを想定していなかったのか、ボスはかなり錯乱している。当然だ。ここは女子校は女子校でも完全な女子校だ。教師の中にすら、男はいない。だからこそ、テロリスト達はここを狙ったのだ。しかし蓋を開けてみれば、恐ろしく強い生徒と教師が紛れ込んでいた。錯乱しないはずがない。


「あら、職員室は解決していたみたいね。行く手間が省けたわ」


これで残りは、この男一人。躊躇いはない。他のテロリスト同様、軽く切り捨てて…


「待ちなさい!!」


その時、テロリストと同じ装いの女が飛び込んできた。


「お前は!!」


「隊長。ここは私に任せて、最終兵器の準備を。」


「最終兵器!?あれを使えばこの学校は消し飛ぶぞ!?人質はどうする!!」


「既にこの学校に残っているのは、私と隊長のみです。もう我々の作戦は失敗したも同然、このまま帰還すれば、リーダーに何をされるか…」


「う…」


「だから、この学校を吹き飛ばして大量虐殺を引き起こすという新しい作戦を立てるのです。幸いにも、我々はあらゆる悪行を美徳とするアンチジャスティスですから、この作戦にさえ成功すればリーダーは許して下さいます。さぁ、早く!」


「わ、わかった!」


女テロリストに言われて、ボスは外へと逃げていった。


「あっ、逃げちゃう!竹本さん!」


真由美は御風に逃げたボスを追うように言うが、


「…」


御風は女を見たまま動かない。


「何してるの竹本さん!?さっきあいつ、すごくヤバいこと言ってたんだけど!?」


確か、この桃華宮を消し飛ばす、みたいなことを言っていた。ゆっくりしている暇はないはずだが、御風はそれでも動かない。


「…はっ!」


なぜ動かないのか。真由美はその理由がわかった。わかってしまった。相手は女だ。そして御風は、同性愛者なのだ。


「…悪いけど、ここは退いてもらえないかしら?私、女の子とは戦いたくないの。」


「そうはいかないわ。このまま尻尾を巻いて帰ったら、私達はリーダーに処刑される。何の戦果も挙げられない部下は、アンチジャスティスには必要ないの。」


真由美が恐れていた通りだった。御風は相手が女性であるため、戦意が極限まで落ちているのだ。その証拠に、相手を説得した。だが相手はテロリストだ。いくら戦いたくないと説得したところで、彼女らにも命が懸かっているのだから聞くわけがない。


「戦うしかないというの…?」


「そうよ。せっかくここまで奮闘してもらったのに申し訳ないけど、あなたには死んでもらうわ!!仲間の仇よ!!」


女はマシンガンの銃口を御風に向け、引き金を引いた。真由美はすぐ壁の陰に隠れ、御風は周囲を跳躍したり、刀で弾丸を斬りながら女に接近し、マシンガンを破壊して女の首筋に刀を突き付けた。


「無駄よ。私と、この姫百合に銃なんて効かないわ。」


御風の刀、名は姫百合。この刀は玉鋼よりも遥かに硬い、新大和鋼という新しい金属で造ってある。最高の素材と最高の職人によって造られたこの刀の硬度と切れ味は、日本刀三百本分。鋼鉄や超合金すら紙のように切り裂き、ミサイルが着弾しても傷一つ付かない。また御風には、二階堂平法のスピードと敏捷性がある。マシンガン程度の装備では、御風に対抗するなど不可能だ。だから、圧倒的な力の差を見せつけて、降伏を迫る。


「それでも…負けを認めるわけにはいかないのよ!!」


「くっ…」


しかし止まらない。ナイフを二本抜いて反撃してくる。女には女で、テロリストとしての強い意地があるのだ。


「光学迷彩、解除!」


一方ボスは、あるスイッチを押した。すると、何もなかったはずの校庭に、巨大な飛行機が現れたではないか。コックピットに、ボスが乗っているのが見える。


「な、何あれ!?」


驚く真由美に、女が答える。


「私達アンチジャスティスが開発した最新鋭の戦闘輸送機、フライングトロイよ。最大で三十人まで収容可能で、光学迷彩の搭載と消音に成功しているわ。いつ来たのかわからなかったでしょう?そして機首には、拠点殲滅用の主砲も搭載されているのよ!!撃つためにかなりのエネルギーを消費するから光学迷彩を解かなきゃいけないし、チャージに時間もかかるけど、この学校にあれを止められる実力者はあなたしかいないでしょ?ならあなたを命懸けで足止めすればいいわ!!」


女が言うと、フライングトロイが飛び上がり、機首が横に開くようにして展開され、砲台が現れた。あんな巨大な砲台で撃たれたら、学校は木っ端微塵に吹き飛んでしまう。


「竹本さん!!」


「わかってるわ!!」


撃たせるわけにはいかない。だが、あれを止めに行くには女を何とかしなければならないのだ。御風のスピードなら女を無視して行くこともできるが、その場合残された真由美が危険だ。フライングトロイを破壊されれば、今度こそ完全にテロリスト達の計画は崩壊する。だが一人生き残り孤立した女が、真由美を道連れに自爆しようとするかもしれない。どちらも絶対に避けなければならないことだが、女を斬りたくもない。


「言うことを聞かないなら、無理にでも聞かせるまで!!心の一方!!!」


「うっ!?」



御風は女を睨み付け、心の一方を発動する。女の動きが止まり、御風はさらに続けた。


「あなたはテロリストの仲間なんかじゃない。気を失って起きた時、あなたは普通の女の子になっているわ。」


今御風がかけたのは催眠タイプの心の一方だ。女を気絶させ、さらにテロリストとしての記憶も消して、普通の女の子として生きさせる。それが、御風が考案した最良の作戦だ。だが、


「む、無駄よ…!!」


何と女には催眠がかからず、心の一方を自力で解いてしまった。


「私は対催眠の訓練を受けているわ!!催眠なんて効かない!!」


原理は不明だが、女は催眠にかからない訓練を受けていたらしい。これで振り出しに戻った。


「どうしよう…」


真由美は焦る。こうなったら、もうあの女を倒してもらうしかない。だが、御風は同性愛者ゆえ、戦えない。どうしたらいいか、必死で考える。


「!!」


そこで真由美は、あることを思い出した。御風がこの学校に入学した理由である。自分が生涯を懸けて愛せる、最愛の女性を見つけるため。それが、御風がこの桃華宮女子校に来たもう一つの目的。


(…やるしかない!!)


決意した真由美は、御風に言った。


「御風っ!!」


「!?」


御風は思わず振り向いた。名前。真由美は御風を名字ではなく、名前で呼んだ。


「私が…私があなたの大切な人になってあげる!!私があなたの一番になる!!だから…だから浮気しないで!!そんな女に惑わされないで!!!」


「!!?」


御風は強い衝撃を受け、顔を真っ赤に紅潮させる。


「ほ、本当に…?」


こんなことを言われたのは初めてだ。嘘ではないかと尋ねる御風。


「うん!!」


迷わず、力強く頷く真由美。だが内心では、


(ひゃあああああああああ~!!!言っちゃった言っちゃった言っちゃったぁぁぁ~~!!!!)


頭を抱えて恥ずかしがっていた。御風は、真由美は結構好きなタイプだと言っていた。それを思い出した真由美は、自分がこう言えば御風はきっと乗ってくれると思って言ったのだ。しかし、こんな恋人同士で言うべきことをこんな場面で、しかも同性相手に言うなど、恥ずかしくて仕方ない。実際恥ずかしかった。


「もらったぁぁぁぁぁぁ!!!!」


一方、動きが止まった御風に向かって、女が襲い掛かる。



しかし次の瞬間、



「二階堂平法奥義、十文字」



女は十字に斬られて絶命した。


「…本当は嫌だったけど、あなたに愛と敬意を表して、奥義で葬らせてもらったわ。」


二階堂平法奥義、十文字。本来はただ真っ向唐竹割りに斬る技なのだが、御風はこれを相手を十字に斬る技に改造している。


「竹本さん!」


駆け寄る真由美。御風は涙を流しながら真由美に言った。


「つらいわ、女の子を斬ることになるなんて。でも、そうしなきゃいけなかった。あなたのおかげよ、片平さん。あなたが私の背中を押してくれたおかげで、私は踏み切れた。ありがとう…そうよね、浮気は駄目よね…」


「竹本さん…」


御風は女の子をこよなく愛する同性愛者だ。それなのに女性を殺すことになるなど、どれだけつらかっただろうか。真由美も残酷なことをさせてしまったと、反省している。


「…あ、そうだ竹本さん!!あれ!!」


真由美は外を指差した。外には、エネルギーをチャージしつつあるフライングトロイ。あれを破壊しなければ、何のためにつらい決断をさせたかわからない。


「でもどうやって…相手は飛んでるのに…」


「大丈夫よ片平さん。」


御風は真由美を安心させると、外に向かってゆっくり歩いていく。


「私は女の子を絶対に斬りたくないけど、男には絶対に容赦しないから。」


御風がそう言った時、真由美は異変に気付いた。


「な、なんか見える!!」


御風が一歩踏み出す度に、御風の全身から青い炎のようなものが立ち上ぼり、勢いを増しているのだ。




読者の皆さんは奇妙に思わなかっただろうか?相手の脳に強い恐怖のイメージを刻み付けて動きを封じる技で、どうして一部だけ拘束したり、催眠状態にしたりできるのかと。一般的な心の一方は、先ほど説明した通りの技だ。目から気迫を叩き込む。しかし御風の場合、その気迫があまりにも強すぎるのである。御風が強く念じれば、念じた通りの気が目を介さなくとも相手に伝わり、望んだ結果をもたらす。御風の気は、もはや条件がなくとも他者に物理的な影響を与え、肉眼で視認することさえ可能になっている。


「あなたなんかに奪わせないわよ…ようやくたどり着いた念願の楽園…私のパラダイスを…!!」


御風は中学時代も女子校に通っていた。しかし、教師や用務員に男がいたため完全な女子校ではなく、御風はその僅かな男の存在にさえ苦痛を感じていた。女しかいない学校に、女だけの世界に行きたい。そう望み続けて、やっとたどり着いたのがこの桃華宮女子校なのだ。穢らわしい男などに壊させはしない。御風の気は、常人なら一日で死ぬレベルの鍛練とこの世の全ての女への愛。そして全ての男への殺意によって、遠距離攻撃の手段に利用できるほど高まっていたのである。御風は特殊な超能力が使えるわけではない。ただ同性愛と異性への殺意の精神のみで、並みの超能力者を瞬殺できるほどの力を得たのだ。現在の御風の姿は、他者から見て非常に恐ろしいものがあった。


「ひっ、ひぃィィ!!!」


極限状態が振り切れ、恐怖のままに引き金を引くボス。フライングトロイの主砲から、巨大なエネルギー弾が発射される。



しかし、



「二階堂平法奥義、修羅十文字!!!」



御風は気を姫百合に乗せて十字に斬った。すると、十字型の気の刃の軌跡が巨大化しながら飛んでいき、エネルギー弾を消滅させ、


「うっ、うわあああああああああああ!!!!!」


フライングトロイも消滅させた。御風のオリジナル奥義、修羅十文字はその余波で、空の雲を一つ残らず吹き飛ばした。


「…男、死すべし。」


戦いが終わり、姫百合を鞘に納める御風。一方真由美は、


「もう勘弁して欲しい。」


と呟いた。











桃華宮女子校の生徒と教師を人質に、身代金の要求を迫ったアンチジャスティスと名乗るテロリスト集団は、御風の活躍によって全滅した。警察や報道陣に対しては、御風が心の一方で自分は何もしていないと催眠を掛けることで、うまく自分の存在を隠した。



翌日の放課後。


「どうしたの?竹本さん。」


御風に呼び出された真由美は、教室に残っていた。今、教室にはこの二人しかいない。


「約束を果たしてもらおうと思って。」


「約束?」


「テロリストと戦ってる時、あなた言ったじゃない。私があなたの一番になるって」


「…う、うん…言ったけど…」


「だからね、一番になってもらおうと思ったのよ。」


「えっ?」


御風はそう言った瞬間、真由美に心の一方を掛けた。


「えっ、ちょっ、身体が…えっ、心の一方!?何で!?」


驚く真由美の目の前で、御風は悠々と教室の扉全てを閉め、鍵を掛けていく。


「これでもう誰も邪魔できない。二人きりよ…うふふふふ…」


真由美を監禁した御風は、ゆっくりと真由美に近付いていく。


「や、やだ!動けない!!」


「心の一方はね、相手を縛ることに特化させれば、私より強い相手でも絶対に一分は止められるの。だから、あなたじゃ死ぬまでかかっても絶対に解けない。」


要するに、催眠などの本来と違う使い方さえしなければ、心の一方は格上相手にも通じる強力な拘束技なのである。御風より遥かに格下の力しかない真由美では、絶対に逃げられない。


「これ解いてよ!!」


「だぁ~め。私の一番ってことは、私の好きにしていいってことだもの。それとも、あの言葉は嘘だったのかしら?」


「う、嘘なんかじゃ…」


正直、あの時は助かるために勢いに任せて言ってしまったから、その後どうなるかを全く考えていなかった。そして今、ようやく思い出したのだ。


「…まぁいいわ。嘘だったとしても、あなたが私を好きになるように調教すればいいだけだし。」


御風は相手を縛るのが大好きな、ドSでもあったということを。


「ち、調教!?」


「ええ。だって私、あなたのこと好きになっちゃったんだもの。私を後押ししてくれたあなたの勇気に、惚れ込んじゃったわ。」


真由美にそっちの気がないことは、初めて見た時からわかっていた。勢いだろうと嘘だろうと、本当ならあんなことは言えない。それでも言えた真由美の勇気を、御風は本当に好きになってしまったのだ。真由美なら、全てを犠牲にしても愛せると思うほどに。


「んむっ!」


「んっ!!」


御風は真由美にキスをした。舌を絡ませる、甘くて深い、情熱的なディープキス。どれくらい長く絡ませていただろうか。気付けば、真由美もまた自分から御風の舌を求めていた。互いに互いを十分に味わってから、口を放す。


「み、御風ぇ…」


「あらあら、そんな切なそうな顔しちゃって。」


「なんか変なの…御風にキスされたら、私の中の何かが…」


「私のキスで目覚めちゃったのかしらね。」


御風は少し驚いた。真由美に同性愛の気はなかったと思ったのだが、どうやら御風にキスされたことで、真由美の中の内なる百合が咲いたらしい。


「御風ぇ…もっとぉ…」


「慌てないの。これからたっぷり愛してあげるから」


それから二人は、御風の宣言通り、長い時間愛し合った。女子校時代を終えて、大人になっても。互いに死を迎えるまで、二人は愛し続けた。




「あなたはもう私のものよ、真由美。永遠にね」





変態に技術と力を与えたらこのザマだよ!!百合ってのもいいですね。可愛い娘×可愛いは本当においしいです。拘束に脚フェチとか、もう最高ですね!皆さんは百合は好きですか?楽しんで頂けたなら幸いです。



では!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 心の一方の使い方がすごくよかったです。金縛りとか好きなもので。・・・足が動かなくなるというシチュは特に。
[気になる点] 男に親でも殺されたのか。 御風のあまりの男に対しての嫌悪にちょっとなあ、って思った。 [一言] これ以上は倫理的な問題になることので、ひとまず隅に置いて、おもしろかったです。 今後も…
2016/02/25 00:49 退会済み
管理
[良い点] 勢いがあってよかったです。 [一言] 敵の説明口調や御風が剣術を修得した直球動機で笑ってしまいました。 ネタに反して相手を容赦なく殺してゆくところがちょっと雰囲気と合っていない印象を受けま…
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