雷の少年と護衛(1)
―――翌日。
僕とニーナは『アエトリンケン』の前で、メリッサさんを待っていた。僕とニーナはメリッサさんの護衛の申し出を受けて、そのメリッサさんを待っていた。メリッサさんは荷物輸送する商人さんと、その商人さん達を護衛する他のメンバーを連れて、こっちに来てくれるそうだ。
「あぁ……心配だわ。メリッサちゃんがあなた達をどう手玉に取ってしまうかが心配よね。ニーナもヒューズベルトちゃんも心配よね~」
そう言って頬を手で押さえながら、くねくねと身体を動かすメーダリオさん。……これがメリッサさんの言う通り、昔は一騎当千の実力者だったりするのだろうか? 信じられない。
「大丈夫ですよ、メーダリオさん。メリッサさんは素直そうな良い人じゃなかったですか」
僕はメリッサさんの姿を思い浮かべながら、そう返事を返す。メリッサさんは素直って言うよりかは実直そうで生真面目な印象が強かったから、メーダリオさんが言うような手玉に取るような事はないと思うのだけれども。
「メリッサちゃんは生真面目な分、余計太刀が悪いのよ~。メリッサちゃんは生真面目だから、気付かないうちに手玉に取っているから難しいのよ。悪気はない分、メリッサちゃんは厄介と言うか……。昔はそれで色々と苦労したわ~。まぁ、私はその分男漁りに精を出したのだけれどもね。
あぁ、あの頃に会った数々の男の子との思い出が脳裏を駆け巡るわ~」
「「…………」」
やっぱりメーダリオさんは色々と残念である。まぁ、メリッサさんがちょっと気を付けなければならない相手であると言うのは、伝わって来たから良いのだけれども。
「あぁ、それにしても心配だわ~。よりによってメリッサなんかに目を付けられるかなんてね。
これはこの頼れる女、メーダリオさんがヒューズベルト君のために宿屋を休んで付いて行った方が良いのかしら? それとも、これからの出逢いを待って宿屋に残る道を選ぶべきなのかしら? あぁ、あまりにも考えすぎて心が引き裂かれそうだわ~!」
そう言って、「あぁ、どうすれば……! どう、すれば……!?」と言いつつ、頭を抱えるメーダリオさん。僕とニーナはメーダリオさんを無視して、メリッサさんを待っていた。
数十分後。メリッサさんがゆっくりと動く馬車に乗って、『アエトリンケン』へとやって来ていた。
「待たせて悪いですね」
と、馬車の中からメリッサさんが降りて来た。昨日の濃い藍色の防具と違って、薄く赤みがかった鎧を着ている。ちょっと暑そうに見えるのだが、メリッサさんが言うには鎧の節々に隙間があったりして意外と快適な着心地なのだそうだ。
「あぁ、そうでしたね。紹介がまだでした。こちらが今回、ゲウムベーンまでの護衛をお願いした依頼人、フーリー・イナキアさんです」
「フーリーです。よろしくお願いします」
と、馬車に座っていた男性、フーリーさんが手を出す。優しそうな瞳とほどほどに筋肉がついた優男と言う印象の男性であった。僕とニーナは頭を下げる。
「フーリーさんが運ぼうとしているのは、食糧です。特に悪と規制されるような禁止食材はなかったから、ゲウムベーンに入ったとしても狙われる心配はないでしょう」
「メリッサさん、一応こっちは依頼人ですから……。いくら護衛さんとは言っても、そんなに簡単に情報をばらさないでください」
「何を言っているんですか、フーリーさん。後々になって、運んでいる物のせいで襲われたら大変です。それにこの2人は信用出来る人物だと私は思っているので」
「そうですか? メリッサさんがそう言うのなら、良いんですけれども……」
まぁ、メリッサさんの過剰すぎる信頼はともかくとしても、中に入っている物が何かを教わるのはありがたい。水に入ったらダメとか、日光に当てすぎたらダメとかを後で言われても困るしな。
「―――で、こちらはもう二方の護衛の方達です」
そう言ってメリッサさんは、馬車の後ろを歩くようにして着いて来ていた2人を指差す。1人は長い黄色い髪を頭の上でお団子状に丸めた、槍を持った元気そうな表情を浮かべた少女。もう1人は薄い水色の長めの髪を左側だけくくって短くしている、何本もの短刀を腰に差した可愛らしい笑みを浮かべた少女であった。
「おぉ! そっちがメリッサさんの話にあったお二人なのか!? わたしの名前はトカリ・リヤ! トカリ、って呼んでくれて構わないぞ! 見ての通りの槍使いである! そしてこっちが……」
「ボクは短刀使いのユメハだよ。トカリ共々、よろしくね」
黄色い髪のトカリさんは元気よく挨拶し、薄い水色の髪のユメハは笑みを絶やさず上品に挨拶していた。それに対して僕とニーナも挨拶を返す。
「ヒューズベルト・ランスです。剣を使います。よろしくお願いします。そしてこっちが旅の仲間のニーナです」
「ニーナです。ヒューと同じく剣を使います」
僕とニーナがそう挨拶を返すと、トカリはうんうんと嬉しそうな顔で見ていた。
「ヒューにニーナ、と言うのか。とりあえずはヒューって呼ばせて貰うけれども、ヒュー。どうしてヒューは折角、槍という名前なのに槍を使わないのはないのだ?」
「トカリ……。いい加減、誰これ構わず槍を勧めるのは止めといた方が良いよ。相手もいきなり勧められて、迷惑だろう?」
「何を言っているのだ、ユメハは! 槍ほど素晴らしい武器はないのだ! 槍は良いぞ~。突く、斬る、投げる、守ると様々な事に活用できる上に、長いからこそ敵との距離が取れる! さらにそこから相手の弱点を見つけ出す事だって容易なのだ! 攻撃範囲が広い槍こそ、この世界を背負って立つ者が扱う武器なのだ!」
「……ボクは違うと思うけど。ごめんね、トカリは槍が大好きなんで、隙を見たら勧めたがるの。まぁ、ボクもちょっとは気になったけれども」
と、横に居る興味津々のトカリと同じような、興味津々そうな顔でユメハさんがそう聞いて来る。
「まぁ……ちょっと省いて言わせて貰えれば、ちょっと家では槍は神聖な物として、使わせて貰えなかったと言うのが本当です。それに武器の戦闘法とかを教えてくれた方の得意武器が剣でして、ね」
僕はそう言って、戦闘方法を教えてくれたニーナの方を向いていた。ニーナはこちらの視線に気づいて、コクリと頭を振っていた。
「なんだー。まぁ、そう言った事情ならばこの機会に槍を教える事も……」
「ボクはそんな事を考えるよりかは、護衛を頑張った方が良いと思いますが」
「またまた~、ユメハは相も変わらず硬いな~」
「……メリッサさん、話を進めて貰いますか? ボクが言うのもなんですが、こうなるとトカリは長いので」
「どうぞ、どうぞ」とさっさと話すように言うユメハ。メリッサさんはそれを受けて、さっさと話を進めるのであった。
「とりあえずは簡単に言ってしまえば、ゲウムベーンに行くまでに魔物、もしくは狩り場泥棒、または考えてもないような敵を倒しておいてください。私はとりあえずフーリーさんを中心として守るので、追撃とか偵察とかはあなた達に任せますから。では、行きましょう」
そして僕達は馬車に乗って、そのままゲウムベーンへと出発するのであった。




