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雷の英雄と半翼の戦天使  作者: アッキ@瓶の蓋。


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雷の少年と宿屋

 そう言ってこちらをじっと見つめて来るそのオカマに捕まった僕達は、そのオカマが運営している宿屋、『アエトリンケン』へと連れて来られた。


「この『アエトリンケン』はこの私、メーダリオが経営している、私が作った小さな王国よ」


 と、メーダリオさんと名乗ったオカマはそう得意げな様子で言うのであった。ここまで連れて来られる際にベタベタと身体を触って来て、なんだか気持ちが悪かった。これが異性だったら別に問題はない(まぁ、それはそれで問題なのかも知れないけれども)のだけれども、同性で、しかも自分よりも遥かにガタイの良い奴で視線も怪しいのだからちょっと身の危険を覚える。

 メーダリオさんは僕の背後に回り込むようにして、僕の身体を執拗に撫で回して来る。


「ウフフ……本当に良い身体つきで惚れ惚れするわぁ。細いながらも確かに筋肉が付いていて、触っていて本当に良い感じの筋肉ねー。表情も凄く良いわぁ。あぁ、本当に良いわぁ……」

「……」

「あらあら、そんなに硬くならなくて大丈夫よ。別に何も考えていないから……。あなたが本気でない限りは、ね」


 僕を見る視線が何か普通の者とは違うと感じ取ったニーナは、助けようと思いながらこちらを見てるけれどもずっと、せわしなくしながらおろおろしているばかりである。


「えっと……その……えっとー……。あぅー……」


 ……ちょっと可愛い。


「あらあら、お嬢ちゃんも居たのよね。ごめんなさい、私、うっかりしてたわ。ごめんなさい、今でも少し女とかって苦手でね」


 ……それって真面目にヤバい方の奴なんじゃないかと思う僕とニーナ。「ごめんなさいね~」とメーダリオさんは言って、僕から離れる。


「ごめんなさい、ね。ちょっと好みの男の子を見ちゃうと、襲っちゃう性質があっちゃってね。まぁ、昔のトラウマの反動みたいなものよ」

((どんな性質だよ……))


 と、僕とニーナは心の中でそう突っ込んでいた。


「まぁ、昔双子の妹が私を玩具にして、手玉に取っちゃって、女の子に軽いトラウマがあるのよ。

 ――――――そして、そんな私を救ってくれたのが同性の男だったから、私は男が好きになっちゃったのよ。ウフフ……♡

 まぁ、仕事と私情はわきまえてるから大丈夫よ。そう、あなたの事は私情で、私個人の意思として落とさせて貰うわ。ウフフ……♡」


 ゾクリ、と背筋に伝わって来る寒気。僕は「アハハ……」と素っ気なく笑いつつ、渡された宿泊帳(その際に手を撫でながら渡していた)に僕とニーナの名前、後男子は必ず記入と書いてあった『店主との恋愛OK?』と書かれた謎の項目に大きく×印を記載して返す。


「ほうほう。ヒューベルト・ランス君にニーナさん、ね。そして……あら、残念。私との恋愛はノーサンキューと言う訳ね。残念ねー、どうして私は運命の相手に出会えないのかしら~」

「……同性に拘らなかったら良いのに」

「……ですね」

「ウフフ、ありがとう。まぁ、私が異性と恋愛関係になるなんて万に一つもないけれども。同性ならば万に百万の可能性であるけれども♡」


 そう言って、不気味に笑うメーダリオさん。それに対して僕とニーナはアハハと愛想笑いをするのであった。


 メーダリオさんが経営する『アエトリンケン』は、とある一点を除けば本当に良いお宿であった。どの部屋も日光が差し込んでいて気分良いし、部屋に置いてある2人用の布団はフカフカとしていて寝るのにも適してそうだ。値段も結構お手頃な価格設定らしくて、さっき食べさせてもらったお菓子も美味しかった。ちょっと大きめの緑溢れる庭があって、とっても良さそうだ。そう、この宿屋を運営している方がちょ――――――っと同性に興味津々な、宿屋の経営主さんに問題さえなければ普通に何度でも来たいお宿なのだ。まぁ、その一点が台無しにしているのかもしれないけれども。


「良いお宿ですなぁ、ニーナ。あれさえなければ……」

「そうですね、ヒュー。あの方がまともでさえあれば……」


 まぁ、そんな事を言っても仕方ない。あの人はああいう人であると受け入れて置くのが一番である。それ以上、どうする事も出来ないのだから。


「しかし、この世界にもああ言う人も居るんですね。私、びっくりしましたです」

「この世界もって事は……」

「えぇ、天界にも普通に居ます、ちょっとした異常性癖の持ち主が……」


 ニーナはそう言って話を止めて、自分用の剣を取り出していた。そして僕にも剣を取り出すように言うニーナ。


「まぁ、それはともかく剣の鍛錬をしておきましょう。剣の鍛錬と言うものは、一日鍛錬を休むだけで感覚が研ぎ澄まされませんからね」


 ニーナは真剣な眼差しでこちらを見つめていた。ニーナは戦天使であり、戦う事に関しての僕の師匠である。ニーナには魔法に関して色々と教えて貰ったけれども、それ以外にも戦うために剣の技術も教えて貰った。「魔法だけでは倒せない敵も多いし、剣術も学んでおいた方が良い」と言われて、魔法が使えない分剣術に関してはみっちりとしごかれていた。


「船の上で剣を振るのは流石に常識外れだとは思いますが、ここならば良いと思います」

「そうだな。早速、剣の修行を教えてください、ニーナさん」

「はいです」


 「さぁさぁ、張り切って剣の修行を開始しましょうです」と、ニーナはワクワクしながら向かって行くニーナを後ろからついて行く僕なのであった。


 そして僕は中庭でニーナの指導の下、剣を振っていた。一応、メーダリオさんには許可を取った。『男が一生懸命になって剣を振るう姿。うなる筋肉、流れる汗……。あぁ、なんて素晴らしい光景なのかしら♡ 是非是非、使って貰って構わないわよ。そこのニーナちゃんも別に構わないわよ』との事である。なんかその際もゾクリと背筋に悪寒が走ったけれども、もう無視する事にした。実害が出ない限りは大丈夫……であると信じたい。


「フッ! フッ!」


 1回、そしてもう1回と剣を振る僕。


「――――――剣を振る際はただ惰性と言う気持ちではなく、1回1回をきちんとした気持ちで振って置いた方が良いです」


 ニーナの言葉を受けつつ、僕はニーナの言葉を実践する。

 ニーナの言う所、剣を振ると言うある意味単純にしか見えないような行動でも、意識してやるのとそうでないのとでは大きく違って来るらしい。意識して自分が考えたイメージ通りに身体と剣が動くようになれば、それだけでも違ってくるのだそうである。まぁ、ニーナが言うような、そんな身体とイメージががっちりとぶつかるような領域には達していないのだけれども。


「……フッ! フッ!」


 と、僕が剣を振っていると、横でよしよしと思ったニーナもまた剣の素振りを始めていた。横目でニーナの素振りを覗いていると、ニーナの素振りは凄まじかった。1回剣を振るごとに風が音を立てて発せられていた。


「…………」


 剣と共に発せられる衝撃波を見て、僕はまだまだ道は遠いなと思いながら剣を振るうのであった。

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