閑話 ロイファー(2)
ロイファーは私、シュプリンガーに対してこう言った。
「じゃあ、シュプリンガー。やらせていただいても良いけれどもー、ちょっとばっかし話をさせていただきますよー」
そうニコニコ笑いながら言うロイファーに対して、私はすぐさま返事を返していた。
ロイファーと初めて会ったのはあるクエストを行う際の事である。私がただの冒険者として、彼が冒険者の荷物持ちとして会った時である。最初はただ軽い、真剣みにかける男としての印象だった。
『やぁ、こんにちはー。おっはようごっざいまーす。わたくしの名前はロイファーと申しちゃいまーす。私のお仕事は、皆様が快適に行えるように持ち物を持たせて貰いますねー!』
本当に軽い、私の取り巻き連中達もこいつで大丈夫かと思うくらい軽すぎる男だった。私はそんな男を見ながら、どうやって操ろうかと計画していた。
私の『血』は、物語の吸血鬼のように相手に血を流し込む事でそいつを私の虜に出来る。この取り巻き連中も、全員そうやって集めた奴らであった。男女を問わず、ただただ自分の力がどの程度使えるか、そして自分の力になるかを厳選して集めた奴らだった。そして、あのロイファーと言う男もすぐさま虜にして、荷物持ちならぬ椅子にでもしようかと考えていた。
決行はその日の夜に行った。そいつには無駄に重い物をたくさん渡していたので疲れて眠っている所にこっそりと噛み付き、自分の血を流し込んだ。明日には私の血の虜になっているだろうとほくそ笑み、その日は眠りについた。
翌朝、私が目を覚ますと驚きの光景が広がっていた。私達の貴重品の金品と共に、昨日血を送って操ったはずのロイファーの姿が無かった。ここから導き出される結論は一つ、私達の荷物から高く売れる金品を盗んで逃げだした。
(ムカつク!)
私達は大急ぎでロイファーの行方を捜した。けれども転々と場所と職業を変えながら逃げているので、名前と顔しか手がかりのない私達は見つけるのに時間がかかった。それに血が効かなかったと言う事も気になった。私の血は、どんな豪傑も、どんな美女も、私の血には逆らえないはずなのに。
ようやくロイファーを見つけたのは、盗まれてからもう4か月は経っていた頃だった。
「うっわー。まさか追って来たの? そんなにあの品って大事だったりしたー? それだったらGO☆ME☆Nね! もう全部売っちゃったからさー」
別に大切にしていた物は無かったが、盗まれていた事に、なおかつ私の『血』の力が効かなかった事がイラついていただけだった。
「私達はそんな品を取り戻死に来たのではありませン! あなたが私の魔法にかからなかったかラ、追って来たのでス!」
「魔法に? まさか君、仲間を魔法で洗脳しているのかい? うっわー、とんだ外道の女だね。私はお金しか興味がないからそんな事をしている君がとっても変だよー。なんでそんなまでして仲間を増やしているのー?」
その言葉に私は答えられなかった。私がこうして洗脳しているのは、単に私の『血』がどこまで出来るか試すため。そのためだけだったから。彼のようにお金を稼ぎたいとかの明確な欲望が私には無かった。
「答えられないのかー。だったら私なんかにかまけていないで、他にやりたい事でも探せばー?」
「ウ、うるさいでス! お前ラ、やって死まいなさイ!」
私がそう命令すると、取り巻きの男や女達はそれぞれ自分の得意属性の魔法を詠唱し始める。
『火』、『水』、『雷』、『風』。そして私の『血』。5つの魔法属性で魔法を撃てば、相手が何者であろうとも倒せるはずだ。『血』は攻撃力も高くて、それに万能だ。例えあいつが血を入れて洗脳出来ないとしても倒す事は出来るはず。
「くらいなさイ!」
そうして放たれた球を見たロイファーは……ニヤリと笑った。そして、魔法が当たって煙が包んだと思ったら、またしても消えて居た。
そうしてまた追いかける日々が始まった。追いついたかと思えば逃げられ、逃げたかと思えばその場で隠れていてと、逃げられる日々だ。その最中で血によって操ってたやつらは足手まといだと考えて、1人ずつ殺しておいた。今ではもう、本当に強い奴しか残っていない。
そしてロイファーの事も分かった。あいつはどうしようもない軽口野郎だが、その実力は本物であり、なおかつ奴が隠している秘密、奴の魔法属性が『雲』と言う私と同じ普通とは違うのにも運命を感じた。そしてその頃から私は、こいつと共に世界を制覇させようと言う望みを持っていた。
(やはりあいつは面白イ! 絶対ニ、私の世界制覇に協力させてやル!)
そして今日こそこいつを捕まえてやるのだ。そして、世界制覇に力を貸させてやるのだ。
「じゃあーさー、鬼ごっこで良いのではー? あなたがさー、目を瞑って10秒を数えている間に私がー逃げてー、君が捕まえたらー勝ちだよー」
なんとも簡単そうな話ですけれども、ロイファーは何か考えているのかも知れない。けれども鬼ごっこで良いのならば簡単である。この周りには私の部下もスタンバイしているから、捕まえるのも速い。
「分かっタ! じゃア、数えるわネ! いーチ!」
今日こそ捕まえてやるんだから!
☆
「あーぁ、面倒臭かった」
と、逃げた私、ロイファーは遠くに離れていく地面を見てそう呟いていた。
『雲』の隠しておきたかった特性、それは分身と変装。『雲』はどんな物にもなれる。そう、私そのものにも。
鬼ごっこを提案してシュプリンガーが目を瞑った瞬間、私は分身を作り出した。私そのものの分身を。そして逃がして、自分は『雲』をまとって全く別の人間になった。変装が無いと、この世界、私にとっては住みづらいばかりですから。
まぁ、あいつらには30秒したら勝手に消える私の分身を追っかけて貰い、私は乗り物で悠々ととんずらだ。
まさかあの女も、鬼ごっこと言われていきなり逃げるとは思っているだろうが、船を連呼していた私の言葉から船を調べるのも時間の問題だった。
だから、『雲』となって飛ぶ計画を立てた。空を飛ぶ物に化けて逃げるなんて、思いつきもしないだろう。けれどもこれ、魔力をかなり使うし、風任せだからどこに行くか分からないのが欠点なんですよね。
「まぁー、逃げられれば良いや」
風任せ運任せ。世の中、なるようになる。
バイバイ、シュプリンガー。もう二度と会わない事を祈っているよ。
私はそう思いながら、一眠りする事にした。
なんとか10万文字行けたので、一次審査を終えるまでは更新を止めて置きます。続きは一次審査を通ってから考えます。
いやー、一時はどうなるかと思いましたが、10万文字行けて良かったです。




