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雷の英雄と半翼の戦天使  作者: アッキ@瓶の蓋。


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雷の少年の旅立ちと対決

 僕、ヒューベルト・ランスが14になり、旅に出たいと告げた時、僕の父と母は大いに笑い、そして悲しそうな眼をしていた。

 僕の父は結婚する前は有名な冒険家で、母はどこにでも居る村娘であった。母の姿を一目見た父は母に熱烈なアプローチをかけ、満更でもなかった母はそのアプローチを受けて結婚した。結婚してからしばらくしても父は冒険家を続けていたのだが、僕が生まれる少し前に山の冒険中に魔物の攻撃に合って、大怪我をしてしまった。大怪我で帰って来た父の姿を見て母は大いに嘆き、その事を後で人伝(ひとづて)にしった父はそれ以来、冒険家を辞めて今ではこの村で農作物を相手に奮闘する毎日を送っている。

 僕はそんな父に、旅の楽しみやこの村の外にどんな町があるのかと言ったワクワクするような事を教わった。同時に冒険家がいかに危険な事であるかを教わった。魔物とは1000年前に異端卿が現れた際に一緒に生まれた化け物であり、その強さは様々であり、生態も個体ごとに違ったりする。異端卿は勇者達によって封じられたが、魔物達は封じられずに今も世界を歩き回っており、その魔物達で生計を立てる者も居れば、それとは逆に父のように大怪我を負う事もある。父は得意属性であるはずの雷属性の耐性が低い僕を心配していた。勿論、母も。それ故、外の世界がそんなに優しくない事を教えていた。


「良いかい、ヒュー。外は危険なんだ。そりゃあ美しい景色や旨い料理もたくさーんある。しかし、それと同じくらい危険な事だってたくさーんあるんだ。お世辞にもヒューは強いとは言えない。だから出来れば村に居て欲しい」

「そうよ。ロイ君は旅立ったけど、ウノ君やサノ君は別にそうではないでしょ?」


 母も自分の息子が外で、在りし日の父のように大怪我をしないかと心配でそんな事を言う。母の言う通り、別に14になったからと言って外に飛び出すと言う事ではない。現にウノとサノは14になってもこの村に居るし。14になれば外に旅に出る事を許して貰えるだけであり、別に強制ではないのだ。大切なのは本人の意思だ。だからこそ、父と母は村に残って欲しいと頼み込む。


 けど、僕の意思は決まっているのだ。あの6年前、木の下でニーナと約束したあの日に。


「ごめんなさい、お父さん、お母さん。外が危険だって事は知っているけど、冒険をしてみたいんだ。どうしても……」


 僕は自分の想いを父と母に告げた。僕は前々から冒険に出ようと思っていていて、とある人物と約束をしていると。その約束を守りたいと。その事に対して、父と母は戸惑いながら何度も説得していたんだけれども、僕の意思が変わらないのを知ると途端に門出を祝うような話へと変わった。

 親として子供が危険な場所に行くのはあまりお勧め出来ないが、僕の意思は尊重したいんだそうだ。


「お前の人生だ。お前が決めろ、ヒュー。俺はそれを応援する」

「私もよ、ヒュー。これからはあなたの道よ。頑張りなさい」

「冒険家冥利に尽きるな。息子も同じ道を歩いて行くとは……」

「えぇ、やっぱりあなたの子ですね」


 心配しながらも嬉しそうに言う両親を見て、僕は涙が止まらなかった。


「う、うぅ……。うぅ……」

「おいおい、そんな泣き虫で大丈夫か?」

「あらあら、そんな事じゃあ今後とも大変そうね」


 涙が止まらない僕を、その夜は父と母がずっと慰めてくれていた。


 次の日の早朝。僕は旅立ちのための荷物を持って、家族との別れを行っていた。僕の前で父と母が、涙をハンカチで拭きながら見送りを行ってくれていた。


「もう行くのか。父さんは悲しいぞ」

「お隣のシズカちゃんも悲しむと思うわ」

「あぁ、シズカ、か」


 母の言葉で、僕はシズカの事を想い出していた。

 シズカとは、近所に住む1つ下の幼馴染である。そして、ロイの愛しの想い人である。僕としてはそこまで仲が良かったイメージは無いのだが、どうやら周りからしたらシズカは偉く僕の事を気に入っていたらしく、そのせいでシズカの事が好きだったロイからは激しい虐めを受けた。最も、シズカに好かれていたのが理由の1つであり、全てではないのだが。


「じゃあ、そろそろ行くね」


 僕からしたら、シズカなんかよりもあいつの方が……そう、ロイが居なくなった事で天下を取った気になっているあいつに会う方が……。


「よう、ヒューベルト君」


 と、そんな事を考えていると後ろからそいつが話しかけて来た。そう、ウノだ。

 今、このフローリエの子供達の仲で一番の権力者はウノだ。最もウノ以外の他の3人、僕とサノ、そしてシズカの3人が権力なんて欲しないからなし崩し的に欲しがったあいつの物になっただけだが。


「あぁ、ウノ君。早いのね」

「はい。親から畑仕事を手伝うように言われまして……。でもまぁ、そのおかげでこうしてヒューの門出に立ち会えて本当に嬉しいです」


 ……最悪だ。僕は出来る事ならば誰とも会いたくなくて早朝を選んだのに。これなら、普通に夜中にこっそり出た方が良かった。


「お父さん。ちょっとヒューさんを借りても良いですか? 門出のために私の方からちょっと言いたいので」

「あぁ。良いぞ。思う存分、喝でも激励の言葉でも入れてやってくれ」

「えぇ。友達の言葉もあった方が良いと思うし」


 冗談じゃない。父や母からしてみたら、こんな小さな村での友好関係は大事にすべきなのだろうけれども、当人からしたらトラウマでしかないのだが。


「ありがとうございます。

 ……では、ヒュー。行こうか(・・・・)

「あぁ……」


 最悪だ。僕からしたら、こいつをこんなに早く倒す(・・)予定は(・・・)無かった(・・・・)のだが(・・・)


「てめぇ! 何、てめぇのような弱者が旅になんか出ようとしてんだよ! このサンドバック野郎の癖して!」


 いきなり村の外から少し行った林で、ウノが本性を露わにしてこちらを睨み付けていた。ここならば親の目も届かないような場所だし、あちらからしたら絶好の場所なのだろう。バカな奴だ。『見られない』と言うのは僕も同じなのに。


「お前のせいで負ったあの日の火傷! 俺は今でも忘れていないぞ! お前のせいで! お前のせいで俺はあんな火傷を……」


 もしかして奴の言う火傷とは、あの6年前に負ったロイが付けた火傷の事か?


(何を言っているんだ、こいつは?)


  あれはどう考えても悪いのはこいつだ。それか、傷を負わせたロイのどちらかである。それなのに、その原因を僕に押し付けるのはどう考えても筋違いである。それにロイがウノに炎で攻撃したのは、あの6年前の一度だけである。僕は何度も、何度もロイやウノ、そしてサノから魔法での攻撃を受けている。それなのにも関わらず、たった一度のあの炎でいつまでも、僕に対して逆恨みしているとは……。


(全くどうしようもない屑野郎だなぁ)


 ロイが居た時はロイの腰巾着、ロイが居なくなって初めて天下を取った。ただそれだけの男。今までは色々と面倒だったから倒しておかなかっただけだが、


「今から旅立つのだ。この因縁も今のうちに切って置くか……」


「あぁん!? 何の事だよ!」

「……いや、なんでもない」


 そう。今からやられる奴には何も関係がない、本当に些細な事である。


「ニーナと待ち合わせしてるんだ。とっとと済まそう」

「にー、な? 誰だよ、そいつはよぅ」

「お前には関係無い事だ」


 僕はそう言って、荷物を置いて武器として持って来ていた木刀を取り出す。それを見てさらにウノの顔が苦悩に歪んだ。


「……てめぇ。まさかこの俺様と戦おうとしているんじゃないだろうな?」

「出来れば倒したいくらいなんだが」

「……良いぜ。格の違いを見せてやろうじゃないか」


 そう言って、ロイは風の渦、小さな台風みたいな物を作り出していた。数年前から成長していない、ウノの魔法である。

 ……こいつは相変わらずだ。自分で魔法を極めたと思って、これ以上は自分には無理だと思っていて、そこで停滞してしまっている。


「食らえ、俺の必殺! ザ・ハリケーン!」


 そう言って、彼は両手に作った渦巻くつむじ風、手に作り出した小さな台風を放っていた。彼が作った4,5個ほどの小さな台風は地面を軽く抉りながらこちらに向かって来る。……まぁ、ニーナと訓練する前の俺ならば、怖くて今すぐにでも土下座して謝っているだろう。

 まぁ、今の僕ならば大丈夫だが。


「雷武装」


 僕はそう言って、身体から雷の魔力を取り出して木刀へと伝わせて行く。これが僕のニーナの特訓によって手に入れた雷武装だ。体内で作り出した雷の魔力を万遍なく武器に纏わせる方法であり、これによって武器の強化が可能で、木刀だけならば魔法を斬ったりは出来ないけれども、魔力を纏わせて魔法を斬る事が出来るようになったのである。

 そして、僕はそんな雷を纏わせたその木刀で、迫って来る小さな台風に向かって斬り裂く。雷を纏った木刀は、見事に小型台風と合わさり、そして小型台風は斬られてただの風へと変わっていた。


「なっ……! ヒューの癖に! く、くそぅ!」


 そう言って、顔を赤くして小型台風を投げて来るウノ。それを1つ1つ冷静に対処していく僕。


「く、くそっ! 今までは普通に喰らってた癖して、どうして旅立ちの日に限って……!」


 分かってない奴である。僕が今までただただ虐めを受けていたのは、実力を隠すため。そして――――――僕が倒すためである。


「く、くそっ! くそぅ!」


 今まで自分よりも下だと思っていた奴が、自分の魔法を倒せるほどの実力を持っていたとは信じられないのだろう。怒って、顔を赤くしながら台風を連発するウノだが、段々魔力が無くなってきているのか出して来る台風が小さくなっていく。そしてウノの顔色がどんどんと悪くなっている。

 こんな早朝から魔力を使い過ぎだろう。魔力を使い切ったら、今日これからどうする予定なんだか。畑仕事とかあるだろうし。


 まぁ、こちらからしてもそろそろニーナの所に行きたいし、こんな奴ばかりに構ってばかりも居られない。俺はそう思って、ゆっくりとウノへと近付いて行く。それを見て、ウノは悔しそうな、辛そうな顔で見ているけれども、僕としてはどうでも良い。僕の事をいつまでも弱者だと侮っていた罰である。


「ち、畜生! ヒューの癖に!」

「一瞬で片を付けようじゃないか、ウノ」


 そう言って、苦し紛れに身体から突風を取り出すウノの魔法を避けつつ、僕は雷を纏った木刀で峰で斬る。


「ぐふっ……!」


 峰打ち、ただし雷を纏っているので攻撃力も普通に殴った時よりも高いし、雷で痺れるから普通につらいだろう。まぁ、魔力もほとんど使い切ってしまっているから、これでしばらくは大丈夫だろう。追って来ようにも、ほとんどの魔法は僕には効かなかったから再戦を申し込もうとも思わないだろう。


「お、お前……その力、どこで……」


 倒れながらそう言うウノに対して、僕は


「――――――空から来た天使に」


 と答え、ニーナとの待ち合わせ場所に向かうのであった。

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