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雷の英雄と半翼の戦天使  作者: アッキ@瓶の蓋。


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雷の少年と報告

「これが20階層にて僕達の見た伝説級の魔物のはぐれ種の情報で、そのはぐれ種から落としたドロップの品ですよ」


 と、僕はギルドの受付嬢に僕達が出会った情報を提示する。ギルドでは例えば迷宮での情報などの有用な情報を取り扱っており、その情報が有用で、しかも確かな物であると照明できれば正式に情報料がほんのいくらか貰えるシステムがある。その審査基準は厳しく、迷宮での道の情報の場合はその後確かに調べて正しいかどうか判定するが、はぐれ種の情報ならばその魔物の情報とドロップの品を差し出せばたいていの場合は情報の1つとして認可される。


「……20階層のリザードマンパッチエのはぐれ種の情報、ですか。未だかつて、他の迷宮でもそのようなはぐれ種を確認した事はありませんが、このドロップ品を見る限り容易に却下出来ませんね。これはギルド長に判断しますので、情報料の支払いは少々お待ちくださいませ」


 そう言って受付嬢は、僕の提出したはぐれ種の情報とドロップ品を棚に入れる。そして僕達の方をじっと、頭から爪先までをしっかりと品定めするかのように見ていた。


「迷宮に年齢制限はありませんが、もしもの話ですが伝説級の魔物のはぐれ種討伐にしては少々幼すぎるような気が……」


 その言葉にニーナは気を悪くして、そのままギルドから出て行ってしまった。まぁ、今の発言は少々侮辱的すぎたな。


「……すいません。言葉を間違えてしまったようで。彼女には後で謝罪したいので、今度来る祭は一言声をおかけください」

「はい、分かりました」


 そう返事を返した僕は、急いで先に出たニーナの後を追った。ニーナはギルドを出た所で僕を待っていた。


「……あの受付嬢さん、ちょっと口悪すぎません? 人の事をじろじろと見て、倒せるかどうか分からないからおかしいだなんて」

「まぁ、確かにそうだけれども……」


 もし仮に僕達が有名人で、彼女が知らない方が可笑しいと言うのだったら、彼女を攻める事は出来るけれども正直な所、僕達はそんなに有名じゃないしな。

 『人は見掛けによらない』とは言うけれども、ほとんどの場合は人は見掛け通りの強さである。僕達は今までそんな優秀な成績を残して来た訳ではないし、初めての功績にしてはこのはぐれ種討伐は大きすぎる功績だったと言うべきなのだろう。


「まぁ、私もそんなにすんなりと通るとは思ってもみませんでしたですから、これも当然の物として受け入れていましたですけど……」

「まぁ、言い方ってのがあるよな……。あの受付嬢さんも少しは悪いと思っているみたいで、機会があれば謝りたいみたいだ。もうちょっと後でも良いから、また会いに行こう」

「……そうですね」


 納得したようなニーナに対して、どこかへ食べに行こうかと誘おうとして手を差し出す。その手をニーナが取って、さぁどこに行くかと考えようとしたけれども、


「ちょっと良いでしょうか?」


 ガシッと、トゥルムさんが僕の手を取っていた。


「ゲウムベーンの迷宮、20階層のリザードマンパッチエがはぐれ種になると言う歴史的な偉業に立ち会ったと言う事を風の噂で聞いたんですけれども、それは本当ですか!? もし、本当ならば非常に興味深いのですが……! おっと、よだれが……」


 そう言って、涎を垂らしながら言う彼女を見て、これは根掘り葉掘り聞かれる事を予見する僕とニーナであった。


「なるほど……普通とは違う属性を使う特殊なリザードマンか。それはもし良ければ、会いたかったものだ」


 と、料理屋にて話を聞いたトゥルムさんは満足そうな顔をしていた。僕がトゥルムさんに話した内容は19階層に行ったら血文字が合った事、20階層に『火』、『水』、『雷』、『風』のどれでもない属性を使う魔物が居たと言う事だけである。魔物が使って来た属性が『氷』属性である事と、20階層の隠し部屋の事は隠して置いた。

 魔物が使って来た属性が『氷』属性である事は話したら、他の人は怖がって血文字まで残していたのにどうして自分達は普通に倒せたのかを聞かれるだろうし、それに20階層の隠し部屋は……。


【これ以上、深く関わらない事を祈って置こう】


 魔法そのものの女神様と同じ名前のマギー。そのマギーから来た忠告の言葉。あれが嘘だとしても、正直信じられないような話である。なので、その情報に関しては伏せて置いた。勿論、トゥルムさんだけではなくて、ギルドに渡した情報の方でもその2つの情報については触れてはいない。


「普通とは違う属性……。どう言った属性だったんだ?」


 そう聞くトゥルムさん。まぁ、ちょっとぼかした程度では聞いて来るのは目に見えていた。なので僕とニーナは報告する前に、2人でどう報告書に書こうか話し合っていた。そして話を合わせるために、僕達は一つの話を作り出した。


「普通とは違う属性と言うか……普通とは違う戦い方と言う感じで……」

「ほう……」

「物凄い勢いで転移したりして、速度に慣れるのに精一杯でした」


 トゥルムさんはその言葉に対して、「速度か……」と神妙な顔で頷いていた。普通の魔物よりも身体能力が高いくらいであれば、僕達が倒したのも納得出来るかなと言う信憑性を持たせるためにそう言う話にしたのである。


「血文字で『逃げて!』と書くかどうかは別として、そんなに速い魔物ならば恐ろしいですねぇ……。流石、歴史に残ったかもしれない伝説級魔物のはぐれ種! 一筋縄ではいきませんでしたかー。はぁ、もしも私の身体が『紙』のように飛んで行けたのならば、その現場に行ってあなた達よりも先にその魔物を倒したかった……。いえ、倒すと言うよりかは血抜きしてコレクションして、博物館にでも飾って貰って永久に歴史の中に埋もれさせて……」


 どんだけこの人、歴史好きなんですか……。歴史に関係するならば、どんな事だって良いってくらいに歴史好きなのだが。


「トゥルムさんの方は? 確か……『五柱の女神』について調べたのではなかったのですか?」


 と、僕達は話を返した。最も、『五柱の女神』の件に関しては、僕達は隠し部屋でそれの重要な手がかりとなる本を見つけており、その本に書いてある内容を読んだ訳なのであるのだが、その本は残念ながら燃えてしまっているし、口止めされているから話す事は出来ない。


「いや……残念な事に手がかりは全くと言って良いほどのゼロ。まぁ、いつも通りと言えばいつも通りだけれどもね」

「そんなに簡単に今までの歴史を覆すような発見が見つかったら大変ですものね。そもそも、『五柱の女神』であるマギーが怪しいと言うのも、確かトゥルムさんの持論ですし」

「ニーナちゃんの言う通りなのだよ~……」


 と、疲れた様子で机に倒れ伏すトゥルムさん。


「歴史は霧のような物だ。探れば探るほど物が見えてくる可能性もあれば、元々存在しないかも知れないそう言った物だよ」

「歴史を探ると言うのは並大抵の事ではないと思いますが……まぁ、上手く行くように僕も祈っておきますよ」

「私もヒューと同意見です」

「ふ、ふたりとも……」


 僕達の言葉に感動したのか涙目になるトゥルムさん。そしてトゥルムさんは「ここまで激励して貰ったのだからもっと頑張らないと!」と言って店を飛び出してしまった。お金を払わずに。


「どうする、ニーナ?」

「ここは私達の方で建て替えておいた方が良いのではないですか?」

「あの様子だと戻って来そうにはないし、まぁ、今日は迷宮で沢山稼げたし大丈夫かな」


 僕達はそう言って、トゥルムさんが食べていた物の代金も払って店を出て、宿屋でぐっすりと眠るのであった。

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