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雷の英雄と半翼の戦天使  作者: アッキ@瓶の蓋。


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雷の少年と迷宮攻略(4)

 一回振って床を抉り、二回振って壁を壊す。リザードマンは巨大な氷の剣を振るい、壁や床を破壊していた。


 ゲウムベーンの迷宮の20階層に居たリザードマンは、ニーナと同じく『氷』の魔法を使い襲ってきた。19階層の血文字は、『火』などの四属性を基本と考える者達にとっては化け物でしかないこのリザードマンの存在を後から来る者達にこの存在を伝えたかったのだろう。僕は先に、『氷』属性を使うニーナと言う前例を知っていたからこそ冷静に対処が出来た。そして魔法もニーナの方が上だから、リザードマンはさして脅威ではなかった。


『グォォォォォ!』


 リザードマンは自分の持っていた双刀と左腕を凍らせて作った巨大な氷の剣を振るっていた。力任せに、考えもせずに。


氷の槍(アイスランス)!」


 ニーナは氷の槍を作り出してそれをリザードマンに向かって投げる。狙いはリザードマンの腕。リザードマンの腕を氷の槍で凍らせるための攻撃であった。

 しかし、リザードマンはそれを見もせず、身体から冷気を放ち、氷の槍を防いだ。


「さっきのは完全に……本能で理解してますね」


 リザードマンは氷の槍に対して本能で理解し、そして冷気で氷の槍に対処した。今までのリザードマンは頭、知能で理解しようとして、攻撃に対して愚直に、そして(おご)った感じでいたから、今までは攻撃は通りやすかった。しかし今のリザードマンは、恐らく頭で考えてはいない。ただ単に巨大な氷の大剣を振るっているだけで、さっきの氷の槍は身体に迫って来た危険を、本能で『氷』の魔法を発動させて攻撃を防いでいた。先程までの巨大な氷の剣を使うまでのリザードマンの方が、遥かに扱いやすかった。


「行ってても仕方ない」


 あのまま倒せば良かった。

 あのまま出来れば良かった。


 そうやって、もしもの話をしたとしても状況は変わらない。必要なのはどんな状況だろうとも対処する力である。


(けれどもどうする……。相手は本能で生きているような魔物。それに今は、本能で自分に危険が迫れば防ぐ力を持っている。この相手にどう立ち向かえば……)


 そうこうしている間にも、リザードマンは巨大な氷の剣を振るっていた。巨大な氷の剣を振るっていたリザードマンは、壁や床をぶっ壊しながら攻撃をしていた。


「雷の剣!」


 僕は雷の剣を作り出して地面に投げる。先程と同じく雷の剣に雷を放つ。放たれた雷は地面を伝って、リザードマンへと向かって行った。しかし、それすら本能で察知しているようであり、避けられていた。


 せめて先程のように、過信している状態であれば当てられる攻撃だったのに、今の本能の状態では全然ダメージがいかない。


「一体どうすれば……」

「本能……そうです。本能です!」


 どうしようか悩んでいると、ニーナが良い事を思いついたとばかりにこちらに良い笑顔を向ける。


「ヒュー! 今のリザードマンは本能のみです! ならば……その本能に訴えかければ良いのです!」


 ゲウムベーンの迷宮は、10階層ごとに強い魔物が居る。それは神様がこの迷宮に来る冒険者達をこれ以上進ませないために用意した魔物である。人間達はその魔物を『神様が作った試練』だと考えているようだが、神様からしたらそんな事は一切なく、ただただこれ以上進めさせないための障害物だった。


 リザードマンパッチエはそのためだけに存在していた魔物であったが、数々の戦闘を経て、はぐれ種のリザードマンパッチエが生まれたのは、このゲウムベーンの迷宮を作った神様に取って予想外の事であった。


 はぐれ種のリザードマンパッチエには、神様が作った冒険者を倒すと言う目論見は一切頭の中に無かった。かの生物の頭の中にあったのは、ただの戦闘における優位性だけだった。

 迷宮で生まれる魔物は、生まれた際に自分が何のために存在し、どう言った存在であるかを本能で理解する。そしてはぐれ種のリザードマンパッチエが本能で理解したのは、自身が他者よりも優れていると言う優越感であった。


 この世界の魔法は、『火』、『水』、『雷』、そして『風』の四属性である。そして自分が持つ『氷』と言う属性は、自分と言う選ばれし者が得た力であると考えていた。実際、この力を使った冒険者達はこれに恐怖し、そして自分よりも弱かった。リザードマンパッチエは自身の才能に酔いしれた。


 次にはぐれ種のリザードマンパッチエが行ったのは、狩りだ。この迷宮で出来る唯一の娯楽と言えば、強者が弱者を一方的に狩り続けると言う狩りしかない。本来、迷宮の魔物としてただ20階層に来た者を追い返すだけの存在であったはずだが、もうこの時点で狂っていたのかも知れない。


 他者よりも強いと言う愉悦。

 他者よりも才能に溢れていると言う誇り。


 それこそが、はぐれ種のリザードマンパッチエが、ヒューベルト・ランスとニーナに見せた思い上がりの正体だった。


 だからこそ――――――自身と同じ『氷』の魔法を使うニーナが許せなかった。

 自身が他者よりも優秀であると言う証明である『氷』の魔法を、自分よりも使いこなすその女が憎かった。そしてその女と共に来た、自分の事をただの珍しい物としか見ていないその男の事も同じくらい憎かった。


 頭では『氷』の魔法が自分の方が劣っていると理解していたが、そんなのは関係無しに向かって行った。その結果、無残なダメージを受けていた。本来の、ただ迷宮を進ませないリザードマンパッチエならば、そんな事を考えずにただただこれ以上行かせないようにしていた。けれども、そんな事が出来ないのが思いあがったはぐれ種の(さが)であった。


 左腕を自ら切り離し、武器であった双刀(ここに来た冒険者から奪い取った物)を纏めて凍らせ、それで作った巨大な氷の剣を振るいながら、はぐれ種のリザードマンパッチエは魔物としての使命を今ようやく思い出そうとしていた。


 そう、倒すのだ。

 ここから先に行っては成らない。それが本能としてインプットされている。だから、これ以上行かせないために倒さなければならない。


 奴らはどこだ? 早く倒さなければ……。これ以上、この迷宮の先に行かせないために倒さなければ……。


 居た。

 大きさ、そして身体から発する魔力。あれは確実にあいつらの物だと、リザードマンパッチエの本能がそう言っている。あれを壊せば良いんだ。そう、壊せば。


『ギャオオオオオオ!』


 大剣を振るう。大剣を振るうと、奴らの身体が真っ二つになった。


 そうだ。この感覚。

 強者である自分が他者の命を刈り取る。まさに至福の……。


「終わりだ!」


 その瞬間、はぐれ種の意識は途切れた。


「上手く行ったようですね……」


 と、真っ二つにされたニーナの身体……その後ろから真っ二つにされていないニーナが現れる。僕もここまで上手く行くとは思っても見なかった。


 さっきのリザードマンは、魔力を感知し、そして僕達に攻撃を仕掛けていた。僕とニーナはそれを逆手に取ったのだ。


 ニーナが僕とニーナ、それぞれの身体の大きさに合わせた氷の雪像を作る。そして僕とニーナがそれに対して、自分自身の雪像に魔力を分け与えた。そして氷の雪像の前まで誘導し、氷の雪像を僕達だと勘違いさせて斬らせる。その後、僕が『雷』の魔法で磁力を操り、リザードマンの背後に回り込んで刈り取ったと言う事である。


「しっかし……今日は一旦帰るべきだよな」

「こんなはぐれ種も居たんですからね」


 と、僕とニーナは途中で汲んでおいた全回復の泉の水を飲みながらそう言い合う。少なくともいままで、ゲウムベーンの迷宮の10階層ごとに居る伝説級の強さの魔物がはぐれ種になったと言う事は聞いた事がない。そして、冒険者とは助け合いである。こう言った情報を教え合うのは必要な事だ。勿論、情報を敢えて伏せて置くと言うのも方法の1つではあるのだが。


「とりあえず、このリザードマンを解体して持ち帰ります」

「そうだな。いつも通りだとニーナが解体をするけれども……今回は僕がするよ」


 そう言って僕が倒したリザードマンを順調に解体していると、


「ちょ、ちょっとこれは……!」


 焦ったようなニーナの声が聞こえた。


「どうした、敵が出たか!」


 流石に復活が速すぎるのではないかと思いながらもそう聞く。


「いえ、さっきのリザードマンが壊した壁が……」

「壁がどうかしたのか?」


 リザードマンは巨大な氷の大剣で壁や床を攻撃していたが、それがどうかしたのだろうか。


「壁の奥に……神殿があります」

「何!?」


 ニーナの言葉を聞いて驚いて、リザードマンの解体を中断し、ニーナの言う壁の奥を覗くとそこには、確かに隠された神殿のような部屋が存在した。

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