雷の少年と迷宮攻略(3)
20階層に居たそのリザードマンは、背中に赤い翼を生やした装備もしっかりとしたリザードマンだった。頭には金色の兜、身体には銀の鎧、そして刀身に竜の文様が描かれた双刀を持って立っていた。そして向かって来た僕達に放たれたのは、ニーナと同じ『氷』の魔法であった。リザードマンは人間1人丸々入りそうなくらい大きな氷を作って、放つ。
「……っ!」
ニーナは自分と同じ『氷』の魔法を放って来たリザードマンに対して、同じ大きさの氷をぶつけて相殺する。そしてお互いにぶつかって粉々になった氷の塊が落ちて行く中、僕は『雷』で身体を強化し、そのまま『雷』を纏わせて熱を帯びさせた剣でリザードマンを斬る。しかし、リザードマンは自分の身体に氷を纏わせ、その攻撃を防いでいた。剣の熱によって少し溶けているが、リザードマンの身体は一切傷付かずに居た。
『ギャオッ!』
リザードマンが攻撃を受けずに居たのを確認して、僕とニーナは距離を放した。距離を放して、お互いにこの状況を考える。
「『氷』を使うリザードマン……ですか」
「あの防御方法、ニーナも使った事があるよね。氷の鎧を薄く張って」
ニーナも、先程リザードマンがやったように氷の鎧や壁を作って、防いだりした戦い方をした事がある。だからリザードマンに対して、熱を帯びた剣で斬りかかると言う対処方法をすぐに思い出した訳だが、もし他の冒険者が見た事も無い『氷』の魔法を使うこのリザードマンに会った時、驚くだろう。19階にあったような血文字を書くのも無理はないのかもしれない。
「はぐれ種の、『氷』を使うリザードマン……。これは厄介ですね」
「僕も、ニーナの『氷』の魔法さえ知らなければ、やられていたかもしれないな」
魔物が使う魔法も基本的には、『火』、『水』、『雷』、そして『風』の四属性。例外は異端卿と呼ばれる、誰もが知るお伽噺の悪役達が持っている強力な魔法属性。僕達は「異端卿の使う魔法は強い」と言う事を昔から学んで来ており、そんな異端卿が使うかのような魔法を使うこのリザードマンは強者だろう。こんな場所に居るなんてあり得ないと言うくらいの。
「でも……ニーナの『氷』属性をどうしてこいつは……」
「考えていても始まりません。まずは倒す事を考えましょう」
「そうだな……」
考えていても始まらない。このゲウムベーンの迷宮には多くの冒険者が来る迷宮だ。そんな所に、こんな危険な存在を野放しに出来るはずがない。今のうちに倒しておかないと。
でも『氷』か……。どの属性にも弱点があるように、『氷』にも弱点がある。それは『火』。やはり、氷を溶かす炎が弱点である。僕も雷で熱を発生させる事は出来るが、所詮は真似事。本物の炎には及ばない。僕の『雷』は『氷』に対して有効ではないのだ。
「有効な手段がない以上、まずはあの邪魔な装備からはぎ取っていきますか」
「同じ『氷』の魔法ではありますが、装備には関係ありませんし、手伝えるでしょう」
そう言ってニーナは『氷』の魔法で、氷の槍を作り出す。僕は『雷』の魔法で、雷の銃弾を作り出して撃ち出す。銃弾の内部は雷を高速回転して高い熱を発生させていて、撃ち出された銃弾はリザードマンへと当たるが、リザードマンは氷の鎧を纏っており、その纏った氷で防いでいるから大丈夫だと考え、そのまま突っ込んでくる。
「氷の鎧は確かに硬いですが、その魔法を使う私はそれの弱点も知っています」
ニーナはそう言い、氷の塊を魔法で作り出す。そしてその氷を幾重にも凍らせていく。そして一点に集中させて氷を尖らせて行って、氷を何重にも固まらせていく。
「リザードマン、あなたが作っている氷は確かに硬いですが、それよりも硬い氷を当てた場合は脆く崩れる」
ニーナは幾重にも固めた氷を、リザードマンに目掛けて発射する。リザードマンはその氷も防げると思っていたみたいであり、そのまま走っていた。そしてニーナが放った氷の塊がリザードマンにぶつかり、そのまま氷を貫いてリザードマンの身体に命中していた。
『グワッ! キシャアアアアアアアアアア!』
リザードマンは氷の鎧がぶち破られ、血を流して怒っていた。そのまま血を凍らせて、僕達に迫る。
「やはり魔物ですね……」
ニーナはそう、リザードマンを見ていた。同じ『氷』の魔法を使っているとはしても、人間と魔物では同じ知能がある者だとしても差があると言う事を実感し、そんなに脅威に感じなくなっていたみたいである。僕も最初に思っていたほど、このリザードマンには脅威を感じなくなっていた。
最初はニーナと同じ、『氷』の魔法を使う伝説級の魔物としてちょっと驚いていたけれども、これならばニーナの方が応用性も高いし、魔法の使い方もずっと強い。このリザードマンはそこまで強くなさそうである。
『ギャオッ!』
リザードマンは地面を凍らせて滑るようにしてこちらに向かって来ている。リザードマンの顔は本気で良い物を考えたと思っている顔だが、あんなのはニーナがすでにやっていて、それの対処方法ももう既に分かっている。
僕は『雷』の、雷の剣を作り出してリザードマンが床に作った氷の道に雷の剣を投げて突き刺す。そして突き刺さった剣に向かって、落雷を放つ。放たれた落雷は、避雷針代わりに置かれた雷の剣を増幅装置として増幅され、そのまま氷の道を通ってリザードマンへと向かって行く。
氷とは水を固めた物であり、水よりかは通りづらいがそれでも確実に雷は通る。氷の道など、雷にとっては相手への道しるべである。
『ギャオッ!』
氷の道を通った雷が、リザードマンへと向かう。そしてリザードマンを痺れさせ、リザードマンは血走った目、いやリザードマンは瞳に血を通わせていないから怒った白目であるが。そんなリザードマンはもし喋れたら、「もう許せぬ!」とでも言いたげな声で雄叫びをあげる。
そして双刀を捨て、地面へと放り投げる。
「諦めたか……?」
「いや、魔物にあるのは闘争本能と繁殖本能だけです。……逃げる事はあっても、敗北を認める事はありませんし、あんなに怒っているのにそれは無いと思います」
ニーナが言うように、あれはどう考えても戦いで負けたと言う目では無い。怒りで我を忘れている状態に近い。そして何か考えている時の目である。そしてリザードマンは右腕で左腕を掴むと、そのまま左腕を引きちぎった。
「「……!」」
その光景を見て、僕とニーナは思った。
確かに同じ『氷』を使う者でも、片方は戦天使、もう片方はリザードマン。知能と経験で勝っているニーナに、リザードマンは同じ魔法を使うだけの奴として、勝っている部分はないと考えていた。けれども、リザードマンにはニーナと違って出来る事があった。それは身体を壊す事。
『ギャアアオ!』
リザードマンはトカゲの魔物。そしてトカゲは、失った身体を再生する事が出来る。案の定、すぐさま失った左腕を再生させるリザードマン。
『ギャオ!』
そして地面に捨てた武器の双刀と共に、千切った左腕を置くリザードマン。まさか……。
『フシュー……』
魔物や人間の身体には強力な魔力が溜まっている。とは言っても、それは本人の魔力量にも寄るし、魔力が籠った部分は死ぬと徐々に空気中に流れてしまうのだけれども、10階層ごとに居る伝説級の、魔力だけはありそうな魔物が右腕を千切って、それを武器である双刀ごと凍らせた場合、どうなるのか。答えは簡単である。
『シャーシャシャシャ!』
左腕と共に双刀がリザードマンの手によって凍らされ、巨大な一本の氷で出来た剣として生まれ変わった。リザードマンはそれを持ち、僕らに向かって振り回した。




