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雷の英雄と半翼の戦天使  作者: アッキ@瓶の蓋。


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雷の少年と『ゲウムベーンの怪物』

 ゲウムベーンにてエリナとサリアと出会った2日後。つまりはサリアが言っていた『ゲウムベーンの怪物』と出会えると言っていた日がやって来た。サリアが言うには前に『ゲウムベーンの怪物』、名前をトゥルムと言う名前の女性らしいが、その女性が明後日には会えるかも知れないとサリアに言ったらしい。僕達はサリアに連れられるようにして、ゲウムベーンの裏道に面した場所にある小料理屋へと足を運んでいた。


「もう少しほどしたら、来ると思います。それまで少しお待ちください」

「サリア! 来てないじゃないですか! さっさと来させないと……ぐふっ!?」

「エリナは黙って」


 早くそのトゥルムを連れて来いと急かすエリナに、サリアが頭を殴ってその行動を止めていた。エリナはサリアの手刀いよってまたもや気絶していた。……まぁ、さっきのはどう考えてもエリナが悪いと思うし、サリアの行動も悪い事をした子供をしかる母親のようであったからなにも可笑しくはない。


「ごめんなさい、エリナがうるさくて……」

「いえ、大丈夫ですけれども……。なぁ、ニーナ」

「私の方も大丈夫ですが……」

「今から来る『ゲウムベーンの怪物』、トゥルムとエリナを会わせる訳にはいきませんので。色々と不都合な事がありまして」


 と、サリアはそう言っていた。


「なにせ、エリナは戦いに対して正直すぎますし……(小声)」


 けれども一番、大切なのはサリアが小声で言っていたのが本音なんだろうけれども。エリナは僕とニーナに対しても、その強さがどう言った物なのかを知りたがっていたし、それがトゥルムに対してもそうであると言う可能性も捨てきれないし。


「まぁ、お二方もくれぐれも気を付けてください。話は通じる相手ですが、それが会話になるかははなはだ微妙なお方なので」

「それをわたくしの評価とするならば、それは正しい評価であると断定してやろうじゃないか」


 と、扉を開けてそう言う女性が入って来た。それがサリアがエリナに会わせたくないと言っていた、『ゲウムベーンの怪物』であるトゥルムである事はすぐに分かった。何せ格好が異常だったからだ。

 そいつの格好は確かに異常である。グレーのスーツと白いスカート、そして胸には折り紙で折られたクワガタとカブト虫。体格は普通、髪も女性にしてはほんの少し短いくらいで特に特徴はないが、その顔に付けられた紙で出来た仮面が異質さを物語っていた。


「確かにわたくしが常人であると言う根拠は少ないし、会話も基本的に相手によっては全く喋らず会話にすらならない事は多々ある。しかし、サリアの口からそう言った自身に対する悪辣な評価を聞かされるわたくしの身にもなって欲しいものだな」

「ごめんね。もう来ているとは思わなくて……」

「そもそも来るように言ったのは、そちらだったはずだ。わたくしはそれに応じて、こうして時間通りにやって来たと言うのに連れの1人はすでに倒れているとは何事だ。例え悪人しか殺さないと言うポリシーと言う名のルールを自分に課しているわたくしだが、流石に見ていて気味が悪い」


 「さっさとその倒れている少女をわたくしの目の届かない所に置いてくれ」と、サリアにそう言う彼女。そしてこっちを見る。


「男と女か……。だが2人とも妙な気配がする。どこかわたくしが探しているのに似た、それとは違うかもしれない気配が」


 品定めするかのように僕達を、頭から爪の先まで見る女性。それに対して僕とニーナは視線で話し合っていた。


(この女性が……)

(あの折り紙達を操っているのは間違いないですね)

(だな……)


 と、彼女の服の上に付けられたクワガタとカブト虫が、自力でピクリと動くのを見て僕達はそう確信した。


「ほう……」


 と、それに気付いた彼女が興味深そうな眼で僕達を見ていた。


「面白そうな奴だ。サリア、良い奴を連れて来たな。

 初めましてだ、2人とも。わたくしはトゥルム。このゲウムベーンで『五人目』を探している、ただの異端卿である」


「異端卿……ですか」

「そうだ、ニーナさん。教会に伝わる古来の書によると、こう言う伝説が伝わっている。『燃える『火』、流れる『水』、轟く『雷』、吹き荒れる『風』のどれにも属せぬ魔法を使いし者達、彼らは自らを異端の地から魔法を授かりし者達、異端卿である』と言う伝承が。最もこの4つの魔法属性に対する賛辞の言葉は、教える教会によって様々に変わってきますが。そして、わたくしはその4つのどれでもない魔法の属性を持っているため、そうではないかと判断しているまでだ」


 そう言いながら、彼女、トゥルムは自身の属性を誇示するかのように魔法を行使してくれていた。

 彼女の周辺を浮かび、彼女の意のままに操られ、彼女の魔力によって産みだされる物。


「あなたの魔法属性は『紙』……ですか。紙に何か細工をして魔法で操っているのかと思いましたが、まさか本当に『紙』と言う魔法属性だったとは……」

「ヒュー君の意見は正しい。わたくし以外だった場合は、そう考えるのが自然だ。だが、わたくしの場合は別だが」


 彼女の手の上で生み出され、折られ、そして動き出す折り紙達。

 彼女、トゥルムの手の上で赤、青、黄、緑の4色の紙を生み出す。


「わたくしは赤い紙で『火』、青い紙で『水』、黄色い紙で『雷』、緑の紙で『風』の4つを属性的に使える。ただし、その代わり『紙』である以上、『火』で燃える。『水』で濡れる。『雷』で焦げる。『風』で吹き飛ぶなど、全てにおいて弱い。わたくしは万能であるが故、最弱なのだよ」

「でも、使い道は沢山ありそうです」

「ニーナさんの言う通り、わたくしはその使い道の多さで生きてきたような物だ」


 どれにも慣れるが、どれにも弱い。彼女、トゥルムはそんな『紙』と言う属性を生まれ持った理由を探して、旅をしているのだそうだ。


「そうやって、わたくしの魔法の意味を探す、歴史研究家。それがわたくしだ。だが、どうにも歴史と言うのは奥が深い。

 とある地域では、守り神として伝承されている神が、実はよその地域から流れて来た悪神であったり。とある地域に伝承される何気ない風習が、ある病気の特効薬になっていたりと、歴史を紐解くと面白い事は多々ある。

 歴史とは、このトゥルムが生涯をかけて没頭するに値する、最高の研究対象であり、最高の物なのだよ! まさに歴史は最高だ! 歴史万歳! 文化万歳!」


 そう言って、笑いだすトゥルム。こっそりと、サリアが「要するに重度の歴史バカなの」と付け加えた。


「この迷宮都市ゲウムベーンにも、面白い伝説は多々ある。迷宮の隠し部屋に隠されし本や、迷宮が生まれる種、迷宮名物のはぐれ種など、わたくしの興味と関心をくすぐる物ばかりだ。君達も一度、気が向いたら探してみたら良い」

「「は、はぁ……」」


 実は昨日、僕とニーナは迷宮に潜った。このゲウムベーンに来たのは、英雄として一旗上げるためだから、迷宮に潜るのは当然であった。そこでロイファーから貰った『雲』の力で、僕は『雷』の力を強化してニーナに随分と褒められた。と、同時に疑われたが。

 確かにあの迷宮は古く、それなりに秘密も転がって良そうだし、今、トゥルムが行ったはぐれ種などは興味がある。


 はぐれ種とは魔物達が多く湧く迷宮などで、時折出現する個体であり、通常の個体よりも遥かに強く、1匹で街を滅ぼしたとされるはぐれ種まで居るくらいだ。まぁ、100匹に1匹居るか居ないかと言うくらいだが、1度は自分の手で倒したいものである。


「だが、今、わたくしの心を一番掴んでやまない歴史的命題がある。

 それが『五柱の女神』と言う歴史的、大命題だよ」

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