雷の少年とレッドベアー(1)
似たような気配。
ニーナは言葉を濁してそう言っていたが、本当にそう言った気配に似たような感覚を感じたらしい。レッドベアーから出ていた凶悪な波長、それと良く似たような波長がニーナは感じたみたいである。それは恐らく、僕がレッドベアーから読み取った、別の魔力と同じなのだろうと思う。まぁ、僕もあのロイファーと言う彼女を触れば分かったとは思うが。とは言っても、謎は残る。
なんで僕よりも魔力感知があまり得意ではないニーナがどうして感じ取れたかは分からない。ニーナが分からないと言っていた。
「レッドベアーと相対した時はヒューが言うような、気配は感じられずに、魔物が持つ敵対意思だけが出てきましたから何も思わなかったんですが……。あのロイファーと会った時に確信したと言う感じです……」
「そうなのか。となれば、僕も今度会った時は気を付けた方が良いかもしれないな……」
ゲウムベーンの怪物だけでも厄介なのに、それに加えてロイファーと言う厄介者まで現れてしまって、本当にどうすれば良いのだろうか。まぁ、今はゲウムベーンの怪物とロイファーの2人は置いて、レッドベアーを倒して奴隷達を解放しなくてはならない。
「急ぐぞ、ニーナ」
「えぇ、ヒュー」
僕達は奴隷達を助けるために道を急いでいた。その最中に盗賊達か、もしくはロイファーが仕掛けたと思うような罠やら、洞窟に潜むようなモンスターが邪魔を仕掛けて来た。とは言っても、罠も少々の足止めを食うタイプであって、モンスターも光が弱い夜行性のモンスターであったから何の問題も無かったのだが。
そして僕達は淡い蝋燭が光を灯す奴隷達の確保場所へとやって来た。男も女も、ろくに食事も与えられていないような貧相な身体つきと埃と汚れが目立つ奴隷達であった。そしてその奴隷達の牢の前で、さっきのロイファーが操っていたとされるレッドベアーが居た。
「GYAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOO!」
奴隷達の前に居るレッドベアーは僕達が倒した『レッドアイ』とは違って、こっちはどちらも目を見開いていて視界は良好、そしてその両腕は異常なまでに肥大化されていて特化されている。奴隷に対して恐怖感を与えると言う意味ではこちらのレッドベアーは適役であろう。どうも奴隷達は男よりも女の方が多いみたいだし。奴隷は大抵男よりも女の方が高値で売れるから、狩り場泥棒達も高値で売れる女達を捕まえていたのだろう。女は特に、恐怖で縛る方が効果的だから。
「どうするか、ニーナ」
「……そうですね」
僕達はどうすれば良いかを迷っていた。今はこいつの関心が自分を害するこちらに向いているから良いけれども、いつあちらの奴隷達に向かうか分からない。その前にこのレッドベアーの力を奪っておかなければ……。ここは一気に、大きな攻撃をして倒すのがそうだと思う。
(ニーナ、今から雷の球を相次めがけて撃つから、その後消えるだろう)
(そこを狙えば良いんですね?)
暗闇になった後、一気にレッドベアーの戦力を奪う。暗闇にするのは何もレッドベアー対策と言う訳では無い、一番問題となって来るのは奴隷達の目である。
僕とニーナの全力の攻撃はあまり人には見られたくはない。『見られたから消す』と言う事も出来るだろうけれども、奴隷を助けに来たのに殺すと言うのはなんだか変な話だと思うし。
(行くぞ、ニーナ)
(分かりましたです)
僕とニーナはお互いに目で打ち合わせをして、そのまま僕は光る雷の球を構えて放り投げる準備をする。
(……3、2、1!)
僕はレッドベアーに向かって雷の球を放り投げ、放り投げられた雷の球に対してレッドベアーは肥大化した右腕を使って真っ二つに切られた。真っ二つに切られ、背後の奴隷達が真っ二つに切られた雷の球に驚いて悲鳴をあげる。
そしてかろうじて僕が付けていた光が消え、奴隷達を照らす蝋燭の淡い光のみが残された。洞窟は淡い光が見える程度の暗い暗闇に染まっていた。
その瞬間から僕達は行動をしていた。僕は身体中から電撃を出し、身体が痛くなろうとも雷を伝わせて剣に溜める。そして生み出された雷の大剣、いや雷神の剣と言う名前だったか。ただでさえ雷との親和性が弱い僕が、雷を最大限高める方法として生みだした戦い方である。そしてニーナは半翼しかない翼を広げて全身の周りに氷を回らせていた。
彼女曰く、翼を出した方が強くなれるのだとか。思い込みだろうか?
それはともかく、僕達の準備は完了した。後は放つだけだ。場所は分かっているし、この大きさならば多少目標からずれてもレッドベアーには当たる。奴隷達は牢の鉄格子と言う壁で遮っているから大丈夫。後は僕とニーナ、それぞれこのほんの少ししか明りがない場所で連携が取れるかと言う問題だが、僕とニーナならば大丈夫。
僕は一歩足を前へと踏み出し、そして雷神の剣を地面へと突き刺す。そして、雷を地面へと這わせ、レッドベアーの方へと向かわせる。地面を這わせての攻撃なので多少のフィードバックはあるが、それ以上に相手にダメージがいった。
「GYAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOO!」
暗闇の中、レッドベアーが声をあげ、ノシノシとこちらに向かって走って来る。どんどん足音が近くなっているから、こちらに近付いている事が分かる。だいたいの場所さえ分かれば、後はニーナの出番である。
ニーナは周りに浮かぶ氷の塊をレッドベアーが居る方向に目がけて放つ。放たれた氷の塊はレッドベアーどころか壁を壊さんばかりの勢いで発射され、レッドベアーを貫く。
「GYAAAAAAAAOOOOOO…………!」
少しずつレッドベアーの声が小さくなっていくのを確認して、もう大丈夫だろうと思って光で照らす。
すると、
いつの間にこんなに近付いたかと思うくらい間近に、血だらけで瀕死そうながらも、こちらにその腕を振り下ろそうとするレッドベアーの姿があった。




