雷の少年と商人と言う人種
トカリとユメハの2人と合流した僕とニーナは、そのままフーリーさんの馬車を守っているサファイアさんの所に向かったのであった。サファイアさんが守っているフーリーさんの馬車には、少なからずも狩り場泥棒の数名が襲いに来たらしいのだが、どうも先行部隊と言うか、狩り場泥棒の下っ端ではあったらしい。本来であれば僕達が相手していた狩り場泥棒の頭であるグスタフが率いる部隊、もしくはトカリさんとユメハが戦っていた赤い笛を吹いて自滅した奴が率いる部隊のどちらかが先行部隊に合流する予定だったらしい。けれどもその2つの部隊がダメになり、下っ端として攪乱する事だけが目的だったのだ彼らは、すぐにメリッサさんに捕縛されたらしいのである。
僕達は『レッドアイ』と狩り場泥棒の関係について、メリッサさんに説明した。
「まぁ、狩り場泥棒と『レッドアイ』の両者が、魔物使いと魔物のような協力関係だったとは……。まぁ、無事に良かったですけれども。それでそちらはどうだったのですか?」
「まぁ、ヒュー君が来なかったらちょっとやばかったかもね! 私とユメハじゃあ、もうダメだったし!」
「……『レッドアイ』が出た時点で負けたと思った。でも2人が倒した」
「へぇ……。2人であの噂の『レッドアイ』をね……。流石、メーダリオさんの推薦通りね」
「やはりメーダリオの目は確かね……」と感心するように言うメリッサさん。
「皆さん、帰って来たんですか? メリッサさん?」
「えぇ……。フーリーさん、お待たせしてすいませんでした。さぁ、皆さん、ゲウムベーンへの旅路を再開して……」
「待ってくださいです!」
メリッサさんがゲウムベーンの所まで行こうかと提案したが、それに対してニーナがストップを申し出た。そんなニーナの申し出に対して頭を傾げるメリッサさん。
「……? どうかしましたか、ニーナさん?」
「実はまだ伝えていない事があるのです。それがもう1匹のレッドベアーの事です」
「……詳しく聞きましょう」
ニーナの『もう1匹のレッドベアー』と言った時、顔を強張らせて真剣な顔をしたメリッサさんは、そのまま詳しい話を聞きだしていた。ニーナが説明して欲しいと目で訴えかけて来たので、僕はメリッサさんに、アジトにもう1匹のレッドベアーが居て、中で大量の人が捕まっているらしいとの話を伝えた。
「……それは本当でしょうか? トカリさん、ユメハさんは知っていました?」
「えぇ! そもそも私達が聞いた話ですからね!」
「……言い忘れてすいません」
「どうやら本当の話のようですね……。あまり知りたくはなかったですが……。私からしたら奴隷は許せないのですけれども。ふむ、フーリーさんの事もありますし、どうしたら良いのやら……」
ふーむ、とどうしようかと考え込むメリッサさん。
「奴隷は解放させたい……。けれども、フーリーさんの護衛を頼まれているのに、それをおなざりには出来ない。どうしたものか……。
フーリーさん、よろしければアジト壊滅のために行ってもよろしい……」
「お断りします」
メリッサさんは護衛を一時中断して、狩り場泥棒のアジト壊滅をしても良いかをフーリーさんに聞きますが、フーリーさんはすぐにそれに対して否定的な反応を示していた。
「私達商人の目的はお金を稼ぐ事。多くの物を効率良く、そして出来るだけ高い値段で、需要を見極めて売る事こそが、商人の手段なのですよ。信用を得るのもお金を稼ぐためであり、物を沢山仕入れるのもお金を稼ぐためです。あなた達に護衛を頼んだのも、それが後の大きな金銭になるからと考えたからです。
時は金です。一秒で小銭を稼ぎ、一分で金銭を儲ける。一時間で金品を作り、一日で大金を手に入れる。それが我々商人の信条ですので。お金にならない事はびた一文、するつもりはございません」
「では、お金になれば良いのですね……」
と、お金こそ全てだと思っているフーリーさんに、そう聞くメリッサさん。
「えぇ。お金になりさえすれば、私からは何も言う事はございません。お金になりさえすれば、私は文句の一言もなくあなた方の事を支援する考えです」
「フーリーさん! 酷い!」
「……トカリ。これが商人よ」
一見すると、フーリーさんの考えは酷いようにも思えるかもしれない。けれども、それが商人、いや人間と言うものだ。
自分の興味のある事を真剣に取り組み、自分の利益を第一に考える。商人でないにしても、そう言った考えを持っている人は大勢居るし、別に彼だけが特別酷いと言う事はないのだろう。それにこう言った人の扱いは楽である。要するに、その人の利益になるような話を持ちかければいいのだ。例えば、メリッサさんがその後提案したように。
「では、奴隷を渡すとは言いませんが、狩り場泥棒がアジトにため込んでいるだろう金品全てをフーリーさんの物とするのはいかがでしょうか?」
「良い提案ですね。乗りましょう」
フーリーさんは、その提案に間髪入れずに乗っかって来るのでした。
☆
狩り場泥棒のアジトは、山間に出来た天然の洞窟をアジトとして再利用しているらしい。そしてアジトの中には、狩り場泥棒の下っ端達と、もう1匹のレッドベアーとそれを操るために居る下っ端が居るらしい。そして捕まっている奴隷達が助けを待っている。
「良いですか。出来る限り狩り場泥棒の装備は傷付けないでください。下っ端の装備とは言っても、良い装備を使っている可能性があると思いますので。良いですね」
フーリーさんが提示した条件は2つ。
狩り場泥棒のアジトで手に入れた物品は全てフーリーさんの物。ただし、この物に奴隷は含まれない。そして、外にレッドベアーを出さない事であった。僕達からしてもそんな真似はするつもりはなかったので、丁度良かったが。
「では、頑張って稼いで……いえ、奴隷達を助け出してくださいね」
ニコリとした、こちらからしても清々しいほどの眩しい笑顔で、フーリーさんはそう言うのであった。一瞬、その瞳がどう見ても金銭の目に見えたのは気のせいだろうか。いや、気にしない方が良いだろう。
「じゃあ、今回は私とヒューズベルトさん、そしてニーナさんの3人で向かいましょう。トカリさんとユメハさんは警護を」
「分かったよ!」
「……分かりました」
アジトの中では、どんな事が起こるか分からない。それにフーリーさんの方も、誰か守護する人が必要となって来る。であるからしてメリッサさんからしても、全員を入れる訳にはいかなかったのだろう。
「では、行きましょうか。ヒューズベルトさん、それにニーナさん」
「えぇ、行きましょう」
「私も問題なく行けるので大丈夫です」
そして僕達は洞窟の中に入り込むのであった。その時の僕達は知らなかったのだが、もうその時にはレッドベアーを操るために残っていた下っ端、ロイファーと言う名前の女性は、レッドベアーを操る事が出来ずに居た。
「……ヤバいなぁ。グスタフさんに頼まれていたレッドベアー、いや両腕が強力なレッドベアーの『レッドアーム』を制御出来ないなんて。まっ、この武力にて奴隷達を捕まえていたけれども、それももう無理そうだねぇ。じゃあ、奴隷さん達は天命の助けでも待っていてくださいな。
じゃあ、失礼するよー」
盗賊にしてはあまりにも軽く、それでいて軽い口調の彼女は、そのまま消えるのであった。
『GYAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOO!』
ロイファーの手によって制御しきれないにしてもぎりぎりの所にて制御されていた『レッドアーム』の鎖が、その時解き放たれていた。




