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ドリームワールド  作者: あげぱん
見習い編
9/19

第8話 初めての仲間

 目を開けると、木の天井がそこにある。

 まさか、ひつじを数えすぎて、ひつじワールドなるものにでも来てしまったのだろうか……。

 ……ひつじワールドってなんだよ。

 自分で言って、自分でツッコミを入れる。

「来たねぇ」

 誰かの声がする。

 といっても、この特徴的な喋り口調で『誰か』というのも変だが。

 ベッドから起きると、そこにはやはりシーザーの姿があった。

 再びやって来たのだ、ドリームワールドに。

 見たところ、ここは昨日ログアウトした宿屋だ。

 どうやら、ログアウトした場所から再開されるらしい。

 窓の外には、昼間のように爽やかな青空が広がっている。

「こんにちは、シーザーさん」

 そう言って違和感を覚える。

「そう言えば、ここでの挨拶ってこんにちはがいいのか、それともこんばんは、なのかな……?」

 だから、僕はさっき『こんにちは』と言った。

 それは、この世界の空が夜闇に包まれておらず、青空が広がっていたからだ。

 しかし、今考えると現実世界の時刻は午後十時を回っている。

 だから、『こんばんは』の方が正しいのかもしれない。

「まあ、どっちでもいいんだよ。強いて言うなら、こんにちは、かねぇ。ドリームワールドは一部を除いてずっと昼間のように明るいからねぇ」

 言い切ると、シーザーが何か思い出したような素振りを見せた。

「そうだ、思い出した。あんたが来たら、ドリームワールドの地形について話そうと思っていたんだよ。あんたにはまだ言ってなかったよねぇ?」

「まだ聞いてませんね」

 僕が応答すると、シーザーは説明を始めた。

「ドリームワールドは、七つの町から出来ていてねぇ。ここは中央本町エバーグリーン。名の通り中央にある一番大きな町だねぇ。草木の多さから、別名緑の町とも呼ばれているねぇ」

「他の町はどんな感じなんですか?」

 僕が質問すると、シーザーはため息をついた。

 質問をため息で返すって、そりゃあないだろう……。

「どんなって言われてもねぇ……。ここであたしが言ったら面白くないだろう? 早く見習いを卒業して、自分の目で確かめてみな」

 シーザーが言う。

 それはごもっともなんだが、なら早く見習い卒業させてくれよ、と僕は言い放った。胸中で。

 しかし、そこでひとつ疑問に思った。

「見習いって、どうやったら卒業できるんですか?」

 ミユキは、チュートリアルのようなものだと言っていた。

 だが、このチュートリアルはいつまで続くのだろうか……。

「どうやったらって、そんなもの教官であるあたしの独断と偏見で決めるのさ」

 予想外の返答に、僕は目を丸くする。

「ど、独断と偏見!?」

「なんだい。なんか文句でもあるのかい?」

「大有りですよ!」

 即答する。

「そんなこと言われたって、教官がもう一人でもやっていけるって判断すれば見習い卒業、ってのが正式なのさ。ほとんど、教官の独断と偏見で決めてるようなものだねぇ」

 確かにそれは、独断と偏見というのかもしれないが、その言い方は人聞きが悪いのでやめて欲しい。

 教官に一人前だと認めてもらえば卒業、と最初からそう言ってくれればこちらも納得できるというものだ。

「一応、あたしの卒業基準としては、Dブレイカーが一人で倒せるようになることだねぇ」

「ええ!? む、無理ですよ、そんなの」

 あんなデカイのを一人でだって!?

 そんなもの、無理だ。

「まあ、そう言っている間は、無理かもねぇ。まったく、昨日の威勢の良い坊ちゃんはどこへ行ったんだろうねぇ」

 シーザーが言い終わるのと、Dフォンが鳴り響くのは同時だった。

 Dブレイカーが出現したのだ。

「さあ、卒業のチャンス到来だねぇ」


 * * *


 そこには、巨大な二枚貝の姿があった。

 その貝には、鋭そうな歯がびっしり生えている。

 噛まれたら、ひとたまりもなさそうだ。

 さらに貝の中からは、長い舌が伸びている。

 強靭そうな歯と長い舌。

 その姿はちょうど、某ゲームのミミックに似ている。

 しかし、外装が宝箱ではなく、貝殻になっている。

「やつは、クラムタング。強さは、マーグオスよりちょっと強い感じだねぇ」

 クラムは英語で貝、タングは舌という意味だ。

 強靭な刃よりも、舌のほうが特徴といったところだろう。

「やってみるかい? さっきも言った通り、やつを一人で倒すことが出来れば卒業させてあげるよ」

「いや、でも……」

 そもそも、クラムタングより弱いマーグオスにすら勝てていないのだ。

 ホムライオンは倒したものの、僕一人の力じゃない。

 確かにあの時と心構えは変わったが、強くなったかは別だった。

 僕は、クラムタングに視線を移す。

 と、クラムタングの近くに、一人の少女の姿があるのを、僕は見た。

 少女は恐怖からか、その場にしゃがみこんでしまっている。

 幸い、クラムタングは気付いていないようだ。

「シーザーさん!」

 僕は、すぐにそのことを知らせる。

「なんだい? 急に大声出して……」

「あそこに、女の子が……!」

「ああ、本当だねぇ」

 シーザーは冷静に答えると、ハンマーを取り出し、そして構える。

「あたしがやつを惹きつけるから、あんたはその間に彼女を助けな!」

「はい!」

 返事をすると、すぐさまシーザーがクラムタングと対峙する。

 僕は足音を殺しつつ、クラムタングに気付かれぬように走った。

「だ、大丈夫?」

 少女に近づくと、僕は恐る恐る尋ねる。

「ひゃっ!?」

 彼女は急に声をかけられて驚いたのか、肩をビクンと震わせる。

 そして、恐る恐るこちらを見た。

「い、いきなりごめん……。大丈夫……?」

 涙目になって上目使いで見つめてくるその子が可愛く、僕は動揺してしまう。

「ちょっと、足をくじいちゃって……」

「た、立てる?」

「う、うん。なんとか……」

 僕が手を伸ばすと、少女はそれを掴んで立ち上がる。

 温かい手の平だった。

 その温かな手は、小刻みに震えている。

「あ、ありがとう……」

 少女の声もまた震えている。

「歩ける?」

 少女のか細い足も震えていた。

 まるで、初めてDブレイカーと遭遇した時の僕の様だった。

「う、うん。なんとか……」

 少女は先ほどと同じ返事を返した。

「とにかく、安全なところまで行こう」

 僕がそう言うと、少女はこくりと頷いた。

 少女の手を取り、安全圏まで導く。

「舌が邪魔そう……」

 少女が不意に呟く。

 シーザーの方を見ると、確かに長い舌が邪魔で思うように間合いを詰められず苦戦していた。

「キミもガーディアンなんだよね?」

 安全な場所まで来ると、少女に尋ねられる。

 その声音は、多少恐怖が残ってはいるものの、大分落ち着きを取り戻しているようだ。

「そうだけど……」

「武器は?」

 少女が興味深げに聞いてくる。

「剣だけど、それが何か……?」

 答えると、少女は考える。

 それを知って、一体何になるんだろうか。

「剣か……。うーん……」

 しかし、少女の方は真面目に何やら考えている。

「何を考えてるの……?」

 僕は恐る恐る尋ねる。

「舌さえキミが押さえられれば、クラムタングには勝てると思うんだ。でも、どうしたら……」

 そこで、少女は思いついたように手を打つ。

 そして、僕にそれを話した。

「なるほど。やってみるよ!」

 そう言うと、シーザーに駆け寄る。

「シーザーさん!」

「カケル、女の子の救出は済んだのかい?」

「はい! それより、クラムタングを僕にやらせてください!」

 僕は威勢よく言い放った。

「いいけど……。どうしたんだい、急にやる気になって」

 シーザーがたじろぐ。

「いい作戦が思いついたんです!」

 正確には、いい作戦を教えてもらっただが、細かい事はどうでもいい。

 僕はシーザーに作戦内容を教えると、クラムタングの方を向き、背中に背負った剣を引き抜き両手で構える。

「さあ、来い……!」

 クラムタングもこちらを向く。

 そして、武器である長い舌をカケルに向かって一直線に伸ばす。

 僕はそれを避けず、剣を構えてただじっとしている。

 そして、舌が僕を捉える瞬間にしゃがみ込む。

 直後、頭上を舌が掠り抜ける。

 舌の下に入ったのだ。

 駄洒落のように聞こえるが、気のせいだ。

 僕はすぐに頭上の舌に剣尖向け、突き刺す。

 すると、舌が苦しむように暴れだす。

「シーザーさん!」

 暴れる舌に剣を持っていかれるのを堪え、シーザーに合図を出した。


 カケルの合図を聞いたシーザーが、一気にクラムタングとの距離を詰める。

 間合いを詰めると飛び上がり、下降と同時にクラムタングの貝殻にハンマーを振り下ろす。

「〝スマッシュスタンプ〟!!」

 赤い光を帯びたハンマーがクラムタングの貝殻を捉えると、その力に押され貝が閉じる。

 その際に、貝殻についている強靭な刃が出しっぱなしの舌を噛む。

 盛大に舌を噛んだクラムタングは光に包まれた。


 僕の頭上で暴れていた舌が大人しくなり、やがて光に包まれる。

 クラムタングを討伐したようだ。

 僕は舌で見えなかったが、どうやらシーザーが作戦通りに動いてくれたらしい。

 剣を鞘に戻すと、シーザーとさっきの女の子がやってくる。

 可愛らしい顔つきで、毛先にカールのかかった桜色ショートカットの小柄な彼女は、ずんどうなシーザーと並ぶと余計に小さく見える。

 胸にピンクの小さなリボンのついた、一見するとどこかのお嬢様学校の制服のような白い服に、リボンより淡い色合いのピンク色のミニスカートといった服装だ。

 見た感じ、戦闘系の服装ではなさそうだった。

「さっきはありがとうございました」

 女の子は深々と頭を下げる。

「いや、いいよそんなの」

 僕は彼女の頭を上げさせた。

「そうさねぇ。あたしたちもあんたの作戦のおかげで助かったしねぇ。あんたまさか、サポーターかい?」

 シーザーが言う。

 サポーター?

 また知らない単語が出てきたぞ。

「はい、一応は……」

 女の子は答える。

「すいません。サポーターというのは……」

 その二人の会話に、僕は割って入る。

「サポーターってのは、ガーディアンと組んでその名の通りガーディアンをサポートする職業のことさねぇ。今みたいに作戦を立てたり、援軍を呼びに行ったり、パシリに使ったり、ガーディアンをあらゆる方面から支えるのさ」

 最後、パシリって言わなかったか!?

 パシリに使うのは良くないだろうに。

「そうだ。あんた、組むガーディアンがいないんだろう?」

「はい、そうですけど……」

「なら、コイツと組みな」

 シーザーに背中をドンッと叩かれ、僕は前に出る。

「え、僕ですか!?」

 急に背中を叩かれた僕は驚きを隠せない。

 というか、痛い……。

 多分背中に紅葉が咲いていることだろう。

「私、組む人がいなくて困ってたんだ。だめ、かな……?」

 女の子が上目使いで問いかけてくる。

 反則だ。

 こんなに可愛い子に可愛らしく上目使いでお願いされたら、断れるはずがない。

 まあ、断る道理もないが。

「もちろんいいよ。シーザーさんだけじゃ頼りないし」

「何か言ったかい?」

 しまった、つい本音が。

「ありがとう。私はヒナリ、よろしくね」

 そう言うと、ヒナリはふわりと微笑む。

 笑うとさらに可愛らしい。

「僕はカケル。こちらこそ、よろしく」

 僕は答える。

 こうして、サポーターであるヒナリが僕の仲間になった。

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