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ドリームワールド  作者: あげぱん
見習い編
7/19

第6話 宴

 ホムライオンが倒れ、光に変わる。

 周囲では、歓声が沸き起こっていた。

「みんな良い戦いっぷりだった!」

「お前も良かったぞ!」

 などと、互いの健闘を称えあう声も聞こえる。

 僕も、後方で弓を引いていた妙齢の女性に話しかけられた。

「お疲れ」

「あ、お疲れ様です」

「君、なかなか良い立ち回りだったわよ」

「あ、ありがとうございます」

 僕はなんだか照れくさく、後頭部をぽりぽりと掻く。

「よっしゃー! ホムライオンという強敵を倒した記念だ! 勝利の美酒を味わおうぜ!」

 向こうで誰かが叫ぶ。

「おっ、いいねー。賛成賛成!」

「飲もうぜ飲もうぜ!」

 その案に対して、周囲から賛成の声が上がる。

「キミも来るでしょ?」

 女性に聞かれ、戸惑う。

「勝利の美酒、と言うのは……?」

「簡単に言えば、宴みたいなもんさねぇ。一緒に戦った仲間と酒を酌み交わしながら勝利を称えあって、交流を深めるのさ」

 後方から、シーザーが話に割り込んでくる。

「そういうこと。来るでしょ?」

「でも、僕お酒は……」

 僕はまだ未成年である。

 いくらドリームワールド内と言っても、未成年でお酒は駄目だろう。

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。ちゃんとジュースもあるから。ほら、行こっ!」

 そう言うと、女性は小走りに駆けて行ってしまう。

「いや、でも……」

「こういうのはドリームワールドじゃ珍しくないから、見習いの内に慣れておくといいかもねぇ」

 戸惑う僕に、シーザーは一言言うと、歩みを進める。

「……そうします」

 僕は諦めてそれに応じ、シーザーに続く。

 しかし、ふと思い出して立ち止まる。

「そういえば、ジェイさんは……」

 誰に言うでもなく独りごつ。

 周囲を見渡してみるが、白衣の男の姿はなかった。

 宴に向かった様子もない。

「ジェイが来てたのかい?」

 シーザーに尋ねられる。

「はい。ホムライオンの火球を、ジェイさんに助けてもらったんです」

「そうかい。ツナミと言い、今日は懐かしい名前を聞くねぇ。ツナミには会えたけど、あいつは相変わらずだねぇ。挨拶くらいしたらどうなんだろうねぇ」

 シーザーが腕を組む。

「お知り合いですか」

 尋ねると、シーザーはふっと笑う。

「まあ、昔の戦友みたいなもんさねぇ」

「戦友、ですか……」

 そういえば、ジェイもシーザーを知っていそうな口ぶりだったな、と思い出す。

 戦友だった、か……。

 間抜けなシーザーと、真面目そうなジェイが噛み合うとは思えないのだが……。

 まあ、意外にそういうのがつりあったりすることもあるので、なんともいえないのだが……。

 そんなことを考えていると、さっきの女性が遠くで手を振っている。

 何かを叫んでいるが、よく聞き取れない。

 が、おそらくは早く来いと言う事だろう。

 僕は手を振り返して、彼女の元へ走った。


 * * *


 酒場に入ると、皆酒やジュースを酌み交わして馬鹿騒ぎしていた。

 それはもう、日頃のうっぷんやら何やらを晴らすように。

 僕はそれに戸惑いながらも、シーザーや先ほどの女性、マキノと話をしていた。

 マキノからは、いろいろなことを聞いた。

 まず、同じガーディアンであっても、使う武器によって呼び名が変わることだ。

 僕は剣を使うので、ガーディアンの中でも“剣士(ソードマン)”に分類されるらしい。

 ちなみに、マキノは“弓使い(アーチャー)”だ。

 しかし、正式な決まりはないらしく、剣を扱うガーディアンでも“勇者(ブレイブマン)”や“冒険者(アドベンチャー)”と勝手に名乗っても何の問題もないらしい。

 シーザーは本来、斧やハンマーを扱う“戦士(ウォーリア)”と呼ばれる分類らしいが、本人は“壊し屋(スクラッパー)”と名乗っている。


 もう一つ分かったことは、“パーティ”についてだ。

 パーティとは、このドリームワールドを一緒に冒険する仲間みたいなものだ。

 マキノも、『猛虎連合』という六人ほどのパーティに所属している。

 援軍に来てくれた人のほどんどが、この『猛虎連合』のメンバーしているらしい。

 もしかしてと思って聞いてみると、やはりシーザーとジェイは昔パーティを組んでいたらしい。

 しかし、パーティ名は教えてくれなかったし、パーティ自体も二年程前に解散したようだった。


「そういえば、あんたこの戦いでちゃんとDPをもらったかい?」

 シーザーが唐突に聞いてくる。

「DPって何ですか……?」

 すかさず僕は尋ねる。

 そんなもの、見たことも聞いたことも食べたことも触ったことも嗅いだこともない。

「あれ、まだ教えてなかったかい? じゃあ、説明しようかねぇ」

 シーザーの言葉に、僕はため息をつく。

「またですか……」

 ヨンバンに引き続き、このパターンは二度目だ。

「なんだか分からないけど、大変そうだね……」

 マキノが苦笑する。

 シーザーはそんなことは気にも留めずに説明し始める。

 少しは気に留めて、反省してほしい。

「DPってのはここでの通貨のことさねぇ。DPの稼ぎ方はいろいろあるけど、ガーディアンは報酬って形でDPを稼ぐのさ。Dブレイカーを倒すと、強さや戦闘に参加した人数に応じてDPが配られるんだねぇ」

「ホムライオンの討伐報酬は40DP。それを戦闘で参加した十人で分けてそれぞれ4DP入る計算になるね。確かめてみなよ」

 シーザーを説明に、マキノが補足する。

 僕は、Dフォンを取り出し確かめてみる。

 今回の戦闘で4DPが入り、計4DPになっていた。

 Dフォンは通貨を溜める機能もあるようだ。

 と、僕には一つ気になることがあった。

「そう言えば、マーグオスと戦いましたよね。あれも報酬ってありますよね」

「あるね。4DPだけれど」

「今日、マーグオスと戦ったんですけど、その報酬が入ってないみたいなんです。マーグオスは4DPで、参加人数が僕とシーザーさんの二人だから、僕のところに2DP入ってないとおかしいですよね。でも、Dフォンに入ってる合計DPが、さっきの報酬の4DPしかないんです」

 この質問に、シーザーが即座に答える。

 その答えは、意外なものだった。

「それは、マーグオス戦であんたは戦闘に参加した事になってないからさ」

「ど、どうしてですか!?」

 僕は驚く。

 そんなはずがあるわけは無い。

 確かに僕はマーグオスと戦った、シーザーだってそれを見ていたはずだ。

「参加人数に入るためには、Dブレイカーに一度でも攻撃を与えることが条件なのさねぇ。あんた、マーグオスに一回でもダメージを与えたかい?」

「うっ……」

 痛いところをつかれ、僕はうろたえる。

 確かに、マーグオスに一度もダメージを与えていない。

 つまり、僕は実際にはマーグオスとの戦闘に参加しているものの、データ上では戦闘に参加していないというわけだ。

「まあまあ。報酬でもらえるDPはDブレイカーの強さに比例するんだよ。ホムライオンは40DP、マーグオスは4DPだから、単純計算でホムライオンはマーグオスの十倍強いんだよ。そのホムライオンに攻撃を与えたんだから、十分だよ」

 マキノがフォローする。

「そうさねぇ。あんたの課題だった、Dブレイカーに慣れるってのも、あの調子なら大丈夫そうだしねぇ。マーグオスのときのびびりの坊ちゃんはどこへ行ったんだか、生意気にあたしに口答えしてきたんだもんねぇ。教官であるあたしに口答えしてきた教え子は、久しぶり見たよ」

「す、すいません……」

 僕は縮こまる。

 あの時は、何かの衝動に突き動かされるままに行動していたが、今振り返ると、自分でもよく言えたものだなと思う。

 というか、びびりの坊ちゃんってなんだ、びびりの坊ちゃんって。

「別にそれが駄目とは言ってないさ」

 シーザーはそう言い、コップの中を仰ぐ。

「あたしの言う事を素直に受け入れて、あたしに言われた事を忠実にやる。最近はそんな教え子ばかりでねぇ。素直に聞いてくれるのは嬉しいんだけど、正直つまらないのさ。こっちとしてはあんたみたいにちょっと反抗してくれる子のほうが、手ごたえがあって好きだねぇ」

「はあ……」

 シーザーが急に真面目なことを言うので、僕はどう返して良いのか分からなくなる。

「なんだい、黙らないでおくれよ。こっちが恥ずかしくなるじゃないか」

 そう言うと、シーザーは柄にもなく頬を紅潮させると、わざとらしく咳払いをする。

 普段はどことなく間の抜けた彼女だが、根はとてもいい人なのかもしれない。

 僕のシーザーに対する見方が少し変わった。

「まあ、ホムライオンに一撃を食らわされてイライラもしてたし、あんたが口応えしてきた時に、一発ハンマーで殴ってやろうとも思ったねぇ」

 それは完全な八つ当たりだろう。

 前言撤回、シーザーに対する見方は変わらなかった。


 * * *


「あんた、時間は大丈夫なのかい?」

 宴が終わり、宿舎に戻るとシーザーに言われる。

 確認すると、もうそろそろ起床時間と言ったところだった。

「そろそろ時間ですね」

「そうかい。それで、今日一日のこの世界の感想はどうさね」

 シーザーが尋ねる。

「そうですね……」

 僕は今日一日のここでの出来事を振り返る。

 今日であったプレイヤ―、ミユキ、ツナミ、ジェイ、マキノ、そしてシーザー。

 今日戦ったDブレイカー、マーグオスとホムライオン。

 Dフォンのいろいろな機能も学んだし、宴にも参加した。

「まだ分からないことだらけですけど、楽しかったです」

 いろいろあったが、結局上手くまとめられずに小学生のような感想になってしまった。

「そうかい。そりゃあ良かったよ」

 シーザーは大きく頷き、まるで自分のおかげだろうというように得意げに微笑む。

「それで確認だけれど、ログアウトの方法は分かるだろうねぇ?」

「Dフォンの電源を落とす、でしたよね」

 臥薪嘗胆、シーザーに馬鹿にされたのだ、忘れるはずはない。

 画面を操作し、電源をオフにする。

『本当に電源をオフにしますか?』の表示に『はい』で答えると、液晶が十秒のカウントダウンを始める。

 すると僕は光に包まれた。

「それじゃあねぇ、カケル」

「はい、また明日!」

 3、2、1……。

 0と同時に、僕は意識を失った。

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