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ドリームワールド  作者: あげぱん
見習い編
6/19

第5話 決意の炎

 ピーピーピーピー


 目覚まし時計が鳴っている。

 時計のアラームをオフにしようとして、手が空を切った。

 おかしい。いつもここにある目覚まし時計がない。

 何故だと考え、思い出す。

 ここはドリームワールドだった。

 となるとさっきの音は……。

「なんだい、起きたのかい。あたし一人で行こうと思ったのにねぇ」

 僕がベッドから起き上がると、シーザーは言う。

 さっきの音、やはりDブレイカーの出現を告げる音だったらしい。

「僕も行きます」

 そう言って、ベッドから飛び起きる。

 目覚めはいいので、今からでも戦える。

「それは勝手だけれど、なんだかいやな予感がするからねぇ。あんたの出番はないかもねぇ」

 勝手って、あんた教官だろ、しっかりしてくれ。

 それより……。

「いやな予感、というと……?」

「強そうなDブレイカーの気配がするのさねぇ」

 シーザーはいつもの口調で言う。

 そういう台詞くらい、真面目な口調で言ってほしいものだな、とカケルは思う。

「とにかく、早く行くよ」

 シーザーが部屋の扉をバタンと大げさに開けて飛び出していく。

 僕も、それに続いた。


 * * *


 宿屋を出てすぐ、Dブレイカーのいる方角に火の手が上がるのが見えた。

 現場に着くと、炎は周囲の建物を飲み込み、黒煙を吐き出していた。

 建物はどれも木造のため、火花を爆ぜさせながらなすがままに燃えている。

 僕は口を手で覆って煙を吸い込むのを防ぐ。

 そして、その炎渦(えんか)の中、熱風に(たてがみ)をたなびかせる真紅の巨体を発見する。体の色こそ赤いが、その姿は巨大なライオンだった。

「あれは、ホムライオン。ライオンのDブレイカーだねぇ」

 シーザーが言う。

 その名前の由来は、焔とライオンを掛けたと言ったところだろう。

「下がってな。奴は強いから、あんたの出番はないよ」

 ハンマーを取り出し、シーザーが言い放つ。

 その口調がいつもの間延びした口調でないことが、ホムライオンの強さを物語っていた。

 どうやら、シーザーの予感は的中したようだ。

「はい!」

 僕は返事をして、シーザーとホムライオンから距離をとる。

 物陰に隠れたかったが、肝心の物はどれも炎の中だった。

 僕が離れたのを見て、シーザーはハンマーを構えてホムライオンと対峙する。


 ガウウウ……


 ホムライオンは低く唸り声を上げ、鬣を逆立てる。シーザーを威嚇しているのだろう、僕がそう思った瞬間のことだった。


 ガォオオオ!


 ホムライオンが咆哮を上げ、同時に火球が吐き出される。

 それとほぼ同じタイミングで、シーザーはホムライオンに突撃した。

 火球がシーザーの背後に着弾し、新たな火の手が起こる。

 草が生えているため、地面も燃えるのだ。

 シーザーはホムライオンとの距離を詰めていく。

 そこに、ホムライオンの前足についた鋭い爪が襲い掛かる。

 シーザーは急ブレーキをかけると、慣性の力も借りて、迫ってきた前足目掛けてハンマーを振り上げる。


「〝スイングアッパー〟!!」


 両者がぶつかり合い、発生した風が炎を揺らす。

 その時のハンマーは、緑色の光に包まれていた。

 何が起こったのだろうかと考え、一つの結論にたどり着く。

 おそらくシーザーはスキルを使い、エフェクトがついたのだろう。


 “エフェクト”とは演出の事で、スキルなどを使った場合にかっこよく見せるためにつけられるものだ。

 武器が光ったり、輝いたり、魔方陣が出てきたりと、スキルによってさまざまである。

 また、上位のスキルの方が、エフェクトが派手になる場合が多い。


 名前と動作から見て、ハンマーを振り上げてダメージを与えるスキルだろう。

 シーザーの方が威力が強かったらしく、ホムライオンは体勢を崩す。

 彼女はそれを見逃さない。

 素早く動き、ホムライオンの真正面に移動する。

 そして、大きく飛び上がり縦に一回転すると、遠心力も借りて、ホムライオンの顔面目掛けてハンマーを振り下ろす。


「〝スマッシュスタンプ〟!!」


 今度は赤い光を帯びたハンマーがホムライオンの顔を捉える前に、ホムライオンは後方に飛び退って、それを回避する。

 今回のスキルは、ハンマーを振り下ろしてダメージを与えるものだろう。 シーザーから距離を置いたホムライオンの鬣が逆立つ。


 ガォオオオ!


 放たれた火球が、シーザー目掛けて一直線に飛んでいく。

 彼女はそれをステップで回避すると、大きくハンマーを振り上げて地面に叩き付けた。


「〝アースクェイクスタンプ〟!!」


 すると地面が揺れ始める。

 おそらく、地震を引き起こすスキルであろう。

 ホムライオンは大きく態勢を崩す。

 シーザーは、間に髪をいれず走り込み、ホムライオンの顔面に今度こそ一撃を食らわせた。

 ホムライオンはよろけるが、倒れない。

 先ほどからシーザーはスキルを多様していたし、さっきの一撃はスキルこそ使ってないが、一発でマーグオスを仕留める程の威力の攻撃だ。

 にも関わらず、まだ四足の足で立っていることから、ホムライオンの強さは推し量れる。

 シーザーとホムライオンが共ににらみ合っている。

 相手の出方を伺っているらしい。

 緊張感が僕にも伝わってくる。

 そんな時、ふとホムライオンと目があった気がした。

 いや、僕の方を向いたと言う確信はないが、今一瞬だけこちらを見られた、そんな感じがしたのだ。

 その刹那、ホムライオンが動く。

 鬣が逆立ち、シーザーが身構える。


 ガォオオオ!


 三度目の火球はシーザーに――

 いや、僕に放たれたものだった。


「しまった……!」

 シーザーは顔を青ざめる。急いで救出に向かおうとするが、余所見したシーザーをホムライオンは見逃してくれなかった。

 さっきのお返しとばかりに、前足の強烈な一撃をお見舞いする。

「カケル……!」

 シーザーは、燃える建物の中へ吹き飛ばされた。


 僕は、火の玉を避けられずにいた。

 膝が震え、一歩も動くことが出来なかった。

 恐怖で垂れる冷や汗と、火球の暑さで垂れる汗の両方が噴き出る。

 シーザーはさっき炎の中へ消えていった。

 もう彼女は助けてくれない。

 先ほどよりも死の恐怖を身近に感じた。

 今度こそ、もう駄目だ、と目を瞑った。

 その時だった。


「〝プリズムシールド〟!!」


 後方で声が聞こえ、目の前に光の壁が現れると飛んできた火球を防ぐ。

 そ振り返ると、七、八名の男女がいた。

 その中に、見覚えのある白衣の男の姿もあった。

「そこ人、大丈夫か!」

「いたぞ、ホムライオンだ!」

「助太刀するぞ。かかれ、野郎共ッ!」

「おおー!」

 皆それぞれ武器を構えて、ホムライオンに突撃していく。

 シーザーも炎の中から現れ、それに続く。

 灰や煤まるけになっているが、どうやら無事だったようだ。

「大丈夫ですか、カケル君」

 白衣姿の男が横に立つ。

「おかげさまで。ありがとうございます、ジェイさん」

 昨日出会ったジェイだった。

「覚えてくれていましたか」

「もちろんです。それで、あの人たちもガーディアンなんですか?」

「そうです、あの方たちもガーディアンです。ガーディアンは互いに協力しあい、Dブレイカーという名の敵に立ち向かう。ああいう風に」

 今、シーザーを含む男女七、八人がホムライオンと交戦している。盾を持った人が攻撃を防ぎ、斧を持った人が正面から、槍を持った人が側面からホムライオンを攻撃している。

 後ろでは弓を持った人が前衛の支援を、杖を持った人が怪我をした人の手当てをしている。

 シーザーは、素早く動いてホムライオンを撹乱させている。皆が皆協力し合い、ホムライオンを圧倒していた。

 その時、僕の中で何か熱いものがこみ上げていた。

 

 戦いたい。

 あの中に入りたい。

 協力したい。


 そんな感情が、僕の中を渦巻いていた。

「僕、シーザーさんに止められてるんですけど、一緒に戦ってきてもいいですかね」

 ぼそりと言うと、ジェイは優しい口調で返してくれた。

「いいんじゃないですか、あなたが戦いたいと思うのならば。彼女なら許してくれるでしょう」

 その言葉に背中を押され、僕は背中に背負った鞘から剣を抜くと、ホムライオンに一直線に突撃していく。

 が、すぐにシーザーに見つかり止められる。

「カケル!? 下がってなって言ったはずだよ!」

 しかし、今の僕はその程度では引き下がらない。

 シーザーに向かって、きっぱりと言い切る。

「僕も戦いたいんです! 戦わせてください!」

「はあ……。あんたねぇ……」

 シーザーは深いため息をついて続ける。

「見習いに死なれると、理由はどうであれ教官であるあたしが責任を取らなくちゃいけないのさ。誰とは言わないけど、ゲームマスターの誰かさんとかからくどくど説教されなきゃいけないんだからねぇ」

 シーザーはさも経験したかのような口調で言う。

 『誰とは言わないけど』って、ゲームマスターなんて一人しかいないだろうに。

 それと、その様子から察するに、シーザーは過去に何かやらかしたのかもしれなかった。

 しかし、そんなことは今関係ない。

「大丈夫です! 絶対に死にませんから!」

 僕はそれでもなお食い下がる。

 ここは譲れない。

 シーザーは、よりいっそう大きなため息をつく。

「どうなっても知らないよ。あんたがピンチになっても助けられないかもしれないし、死んでも責任は負わないけど、それでもいいなら好きにしな」

 シーザーは吐き捨てるように言って、ホムライオンとの戦闘に戻る。

「はい!」

 僕は返事をすると、ホムライオンとの交戦状態に入った。

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