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ドリームワールド  作者: あげぱん
見習い編
4/19

第3話 腕利きの鍛冶屋

 ミユキと離れてから十分ほど経っていた。

 今は店が建ち並ぶ場所を歩いている。

 他のプレイヤーたちの姿もちらほら見え始めていた。

 シーザーとは終止無言で、僕は気まずさを覚えていた。

 シーザーの方は別にそうでもなさそうだが。

 僕は、それを紛らわそうと、景色に目を向けた。

 店の外装はどれも木造で、武器屋や宿屋、八百屋まで現実世界で見る店からゲームで見る店など幅広い店が並んでいた。

 道に生えた草は刈り取られているが、そうでない店の周りなどには、木や芝の緑や花の鮮やかな色がある。

「あら、シーザー。新しい教え子かい?」

 不意にどこからか声が聞こえ、僕はあたりを見渡す。

「ああ、そうさねぇ。カケルってんだよ」

 シーザーが声の主に近づいていく。主は、果物を売っているおばさんだった。

「ほら、挨拶しな」

 シーザーに背中をつつかれる。

「あ、はい。カケルです。こんにちは」

「こんにちは。それにしても、久々やね、シーザー」

「ほんとだねぇ。最近はこの道は通ってないからねぇ」

 シーザーとおばさんの会話が弾む。

 僕は、その話に少し耳を傾けつつ、売っている果物を見た。

「あ、そうそう。さっきここをツナミちゃんが通ったよ」

「え、ツナミがかい?」

 シーザーが驚く。

 ツナミという人物が誰かを知らない僕は、気にせず果物を眺める。

 いちごやみかん、ももなど、現実世界でもよく見る果物が並んでいる。

 そんな中、現実世界にはおそらく存在しないであろう、異色の果物の姿があった。

「急いでいたみたいだから、声はかけていないけど……。あたしはもう歳だから目は悪いけど、でもあれは間違いなくツナミちゃんだったよ」

「そうかい。ツナミがねぇ……」

 僕は、その果物に釘付けになっていた。

「あ、悪いね、カケル君。おばさん同士で盛り上がっちゃって。シーザー、あんたもしっかり仕事しなよ」

「待つことを覚えさせるのも仕事のうちさ。ねぇ、カケル」

「は、はあ……」

 僕は苦笑いする。

 ペットじゃあるまいし、そんな理不尽な……。

「そんな言い訳はいいから、さっさと仕事しな」

 そんなシーザーをおばさんが一喝する。

「あ、そうそう。これ、持ってきな」

 おばさんはそう言うと、僕が見ていた果物を手に取り、シーザー渡す。

「いいのかい? 悪いねぇ」

 異色の果物、それは青いりんごだった。

 と言っても、現実世界の青りんごとは違い、このりんごはしっかりとした青色をしている、文字通り“異色”の果物である。

 青いりんごを受け取ったシーザーはおばさんに礼を言うと、そのりんごを投げ上げながら歩き出した。

 置いていかれぬよう僕も後に続く。

「気をつけてねー」

 背中に声を受け、僕は振り返る。

 おばさんが手を振っていたので、僕も手を振り返した。

「ところで、そのりんごは何なんですか?」

 おばさんの姿が見えなくなると、シーザーに問うた。

「ああ、これかい。食べてみるかい?」

 シーザーは、りんごを僕に差し出す。

「いや、それはちょっと……」

 僕は断る。いくらりんごだからと言っても、真っ青なりんごはさすがに気が引ける。

「そうだ。せっかくの機会だから、Dフォンの機能を一つ教えようかねぇ」

 シーザーはポケットからDフォンを取り出し、なにやら弄りはじめた。

 そして、持っていたりんごを宙に投げると、Dフォンを構えた。

 刹那、パシャっとカメラのシャッターを切る音がすると、突然、持っていたりんごが光に変わる。

 光は、シーザーのDフォンに吸い込まれるように消えていった。

「えっ!?」

 僕は突然の事に戸惑いを隠せない。

 りんごが、消えた……?

「これは、Dフォンのバッグカメラって機能で、カメラで撮った物体をDフォンに仕舞えるのさ。難しく言えば、このカメラで物体を撮ると、その物体がデータ情報に変わってDフォンに記録されるって仕組みだけれど、まあそんなものはどうでもいいさねぇ」

 シーザーが得意げに語る。

 ということは、青いりんごは今シーザーのDフォンの中にあるということか。

「じゃあ、取り出すにはどうすればいいんですか?」

 僕は尋ねる。

「取り出しは簡単だよ」

 シーザーはそう言うと、手の平を上に向ける。

 すると、そこに光が現れ、集結して青いりんごを形成した。

「一度仕舞ってしまえば、後はりんごが欲しいと思えばDフォンが自動で取り出してくれるのさ。一度カメラで撮ったものは、再度仕舞いたい時に、仕舞いたいと願えばDフォンが自動で仕舞ってくれるようになるから、手にいれたものはとりあえず撮っておくといいよ」

 再び青いりんごは光に変わり、Dフォンに吸い込まれていった。

 シーザーが、仕舞いたいと願ったのだろう。

 Dフォンの性能どんだけ良いんだよ。

「武器を仕舞っておいて、いざという時にすぐ取り出せるから便利だねぇ」

 そういえば、シーザーは武器を持っている様子がない。

 どこかに隠し持っているのかと、思っていたが――

 ――ん? そこで僕は気付く。

「そういえば、僕の武器はどこにあるんですか?」

 確か昨日剣を注文したはずだが、その剣の姿はどこにもない。

 それとも、Dフォンに入っているのだろうか。だとすれば……。


 いでよ、僕の剣!


 僕はそう心の中で願ったが、剣は出て来なかった。

 本当は天高く手を上げて声に出して「いでよ、僕の剣!」と声を大にして高らかに言いたかったが、恥ずかしくてそんなことは出来るわけがなかった。

 増してや、今みたいに出てこなかったら、恥ずかしいを通り越して顔から火を出し、顔面火傷を負っていたに違いない。

「今更気付いたのかい? あたしたちは今、あんたの武器を取りに向かってるんだよ」

 シーザーが呆れる。

 僕はてっきり、Dブレイカーのいる場所に向かっていると思っていたが、よくよく考えれば武器を持っていなかった。

 武器がなければ、(いくさ)はできぬ、ではないか。

「ほら、丁度着いたよ」

 シーザーが歩みを止めた先に、一軒の木造の店が建っていた。

 金属で出来た小さな看板に剣の形の刻印があるので、おそらくは鍛冶屋だろう。

 いつの間にか、周りにはこの店以外の建物はなくなっていて、人っ子一人姿は見えない。

 植物の緑の中に、ぽつんと一つだけ薄い褐色の店が建っていた。

 シーザーが店の扉を押して中に入る。

 扉についている鐘が鳴り、僕たちを歓迎した。

「いらっしゃい……ってなんだ、シーザーか。久しぶりだな」

 奥にいた角刈りで、たくましい顎鬚(あごひげ)を蓄えたおじさんが、シーザーに声をかける。

 何故こうも会う人会う人おじさんおばさんばかりなのだろうと、僕は思った。

 ドリームワールドも高齢化社会なのだろうか。

「久しぶりだねぇ、ゲンゾウ。あたしじゃダメかい?」

「いや、悪い悪い。で、そいつが新しい教え子か?」

「そうさね。ほら、挨拶しな」

 シーザーに背中を押される。

「カケルです。よろしくお願いします」

「俺はゲンゾウだ。よろしくな。ガッハッハ!」

 ゲンゾウが大きな声で笑う。

 僕は驚きつつも、咄嗟に耳を覆う。

 あまりの大きさに、窓が震えていた。

「ゲンゾウ、あたしの教え子をびっくりさせないでおくれ」

「悪い悪い、癖なもんでな。ガッハッハ!」

 シーザーが、やれやれとため息を漏らす。

 僕も耳を塞ぎながら苦笑した。

「それで、剣のほうは出来てるのかい?」

「もちろんだ。今取ってくる」

 そう言って、ゲンゾウが奥へ消える。

 僕はその間、店を見渡す。

 ここは鍛冶屋のはずだが、剣は数えるほどしか置いてない。

 その数本の剣は、きらびやかな装飾がなされている物から、地味なもの物まで、デザインに統一性がない。

 しかしどれも格好良く、素人目から見ても、その剣達は輝いて見えた。

 剣自身が剣になれたことを誇らしく思っているようだ。

「ゲンゾウは、ドリームワールド内でも五本の指に入る腕利きの鍛冶屋だからねぇ」

 僕が剣に見惚れているのを知ってか、シーザーが教えてくれる。

「そんな人の剣をもらえるんですか!?」

 初心者ごときが、そんな高価なものをもらって良いのだろうかと思ってしまう。

「誰もあげるとは言ってないぜ」

 奥からゲンゾウが剣を持ってやってくる。

「え、それって……」

 僕はうろたえる。

 昨日、ジェイが手配しておくと言っていた筈だが、もらえるんじゃないのか……?

「冗談だ。ここに来たばかりの初心者に金払えなんてひどい事は言わねえよ。ガッハッハ!」

 ゲンゾウの言葉に、胸を撫で下ろす。

「冗談はいいから、はやくカケルに剣を渡してあげなよ」

 シーザーがつっけんどんな口調で言う。

「おお、そうだったそうだった」

 ゲンゾウから剣を手渡される。

「おお……」

 僕は思わず感嘆をもらした。

 持った感想としては、重い。

 剣道部で竹刀を持ちなれている僕でも、ずっしりとした重みが感じられた。

 剣の(さや)は青を主体とし、白いラインが入っている。(つば)は銀色でシンプルな作りになっている。

「抜いてみろ」

 ゲンゾウにそう言われ、僕はゆっくりと鞘から剣身を抜く。

 現れた剣身は、鋼の色ではなく、少し青みがかかった銀色をしていた。

 モンスターを斬るために使うには惜しいくらい、綺麗な色だった。

 その剣身に、僕はしばし見入った。

「綺麗だねぇ」

 シーザーが呟く。

「この剣身は俺の自信作だからな。ガッハッハ!」

 ゲンゾウが鼻の下を擦りながら、誇らしげに笑う。

 この笑い声にもそろそろ慣れてきていた。


 ピーピーピーピー


 突然、Dフォンから音が鳴り、振動する。

「わわ……!?」

 僕はびっくりして、思わず飛び跳ねる。

 その拍子に、手の中から剣がすべる。だが、床に落ちる前にシーザーがそれをキャッチする。

「Dブレイカーが現れたのさ」

 僕に剣を渡しながら、シーザーは続ける。

「剣も受け取った事だし、行こうかねぇ」

 シーザーが店の扉に手をかける。

「え、あ、はい!」

 僕は当惑しながらも返事をする。

 店を出ると、シーザーは腹を揺らしながら走り出す。

 見かけによらず、案外速い。

 僕もゲンゾウに頭を下げると、シーザーに続いて走り出した。

「気をつけてな。ガッハッハ!」

 ゲンゾウの笑い声は、走っている中でもよく聞き取れた。

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